振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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二章 RELAY~ソロ活動編

27.握手

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 アンコールが三曲演奏され、YBIのライブは終了した。会場は、ライブの感想を話す楽しそうな声で溢れていたが、俺はなかなか立ち上がることができなかった。

 人もまばらになって来た頃、YBIスタッフらしき人がやって来て、楽屋に来るよう言われてしまった。

 逃げる訳にも行かずついて行くと、楽屋の方から楽しそうな声が聞こえた。どうやら、YBIメンバーが楽屋の前で写真を撮っているようだ。その輪の中に、いる蓮を見つけて俺は踵を返した。

「圭吾君?!」

   背後から名前を呼ばれたような気がして焦った。逃げなければと思い、隙間が開いている部屋へ飛び込んだ。

 部屋の扉をそっと閉める。そこは荷物置き場のようで、椅子やテーブルが乱雑に並んでいた。薄暗い部屋は、外の賑やかな様子とは異なり、しん、としている。
 そのギャップに思わず涙が溢れた。

 この部屋はまるで俺みたいだ。RELAYの『元』メンバーというだけで、完全に蚊帳の外…。

 木村陽菜はベースもうまかったと聞いたことがある。しかも、作詞もしていたなんて…。
 蓮は何度か俺の曲が、歌が好きだって言ってくれたことがある。蓮と親しくなったきっかけも俺の鼻歌だった。だから思い立って、今回も曲を作ったけど…、RELAYの時、俺は蓮がどんなに困っても作詞を手伝おうか、なんて一言だって言わなかった。
 そんな何の役にも立たない奴より、ベースも上手くて作詞もしてくれる、かわいい女の子の方がいいに決まってる…。実際RELAYのファンの子たちの間でも、圭吾いらない説がながれてた。

 俺は自分の不甲斐なさを責めて、涙が止まらなくなった。


「圭吾君…?」

   ノックもせずに扉が開いたので、驚いて振り向くと、俺を追ってきたのはマコトだった。

「どうして泣いてるの?」
「……」
「ひょっとしてさっきの、蓮君と陽菜ちゃんの主題歌デビューの話が辛かった?RELAYの蓮君は同級生なんでしょ?それなのにこんなに仕事で差がついてさ…」

   マコトは優しい声色とは裏腹に、慰めるでもなく、自分のスマートフォンを取り出すと、横向きに構えて俺に向けた。スマートフォンのピコっという機械音が聞こえたからたぶん、俺が情けなく泣いている様子を動画におさめているのだろう。

「ちが…」
「違うんだ?じゃ、何…?感動したー、とかぬるいこと言わないよね?」
 「…知らなかったんだ。自分が、こんなにRELAYを好きだったって…」
  
    俺はRELAYを守らなかった自分に腹が立っていた。もっと何か出来たはずだ。こんなに、愛想を尽かされる前に。

「圭吾君さ、そこは『嫉妬してる』って言う所じゃない?そんなぬるいこと言ってて、この世界でやっていけると思ってる?」

  マコトは相変わらず優しい話し方なのだが、それとは裏腹に、内容には棘があるように感じた。

「思ってない。反省してる…」
「じゃあこれから圭吾君はどうするの…?」
「わからない。だけど…RELAYを再開させたい」
「ふーん?なに、蓮君にごめんね、とか言って甘えるつもり?圭吾君かわいいもんね~?」
 「そんなことしない!俺自身がもっと…!」
   もっと、変わらなきゃいけない、というのは分かっている。でもどうすればいいかは全く想像もつかなかった。俺が口籠ると、マコトはぷっと吹き出した。

「圭吾君、じゃあ、改めて手を組もうよ。俺が圭吾君をトップアイドルにしてあげる」
「アイドルは目指してないけど…」
「広域では、ミュージシャンも同じようなもんでしょ?ファンにとって一番、魅力的な人になるってことだよ。報酬は、俺のWEB番組に出ることと、俺がプロデュースしたって名声…」

 マコトはスマートフォンを構えたまま、近づいてきて手を差し出した。どうやら握手しよう、って事らしい。

 マコトの手を取って、大丈夫なのだろうか…?

 今日だってマコトは絶対、蓮と木村陽菜が出演すると知っていて俺を呼んだ。たぶん、それなりの悪意を持って。今も動画を撮っていて、俺の情けない姿を面白おかしく世に出すつもりなのかもしれない。

 でも、マコトはアリーナをソールドアウトさせられる、動画サイトの登録者数も三百万人を超えるアイドルであり、その演出も手掛けている。

 マコトの意見を聞けることは、ミュージシャンとして人気を得て、RELAYを再開させる発言権を得たい俺にとってはかなり魅力的だ。

「ひょっとして、マコトくんって、良い人じゃない…?」
「圭吾君にとって『良い人』って、優しくてゆるくて自分に都合のいいことばっか言う人のこと?それなら違うかもね」

  マコトはスマートフォンを構えながら、ふふ、と笑う。

 ーー俺は恐る恐る、マコトの手を握った。

 RELAY再結成のために…、マコトだって利用してやる!そんな気持ちで。

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