振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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二章 RELAY~ソロ活動編

26.YBIのコンサート

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 阿部マネージャーにメッセージを送ったが、未読スルーの状態が続いている。未読スルーなんて、蓮以外にもする人いるんだなぁ~、このマネージャーにしてこのミュージシャンあり、ってやつ?と、俺はちょっと感心していた。

「RELAYの事務所、どーなってんの?割と大きい、ミュージシャン沢山いる事務所だよね?」

   どうやら阿部マネージャーは俺だけではなく、マコトから宛てたメールにも返信をしていないらしい。あり得ないんだけど!と、YBIのマコトは怒っている。
 
「ひょっとして、件名に『上村圭吾』って入ったら自動で迷惑メールフォルダに振り分けられる仕組みになってるのかも知れない…」
「圭吾君、そんなに落ち込まないで、元気出してよ!」

  思いのほか沈んだ声が出てしまい、マコトは明らかに気を遣っている。

「圭吾君もう、うちの事務所来なよ!圭吾君なら大歓迎だから、真剣に考えてみて?」
   マコトは俺を慰めてくれているようだ。今優しくされるとまた鼻の奥がツーンとしてくる。

「一度、YBIのライブを見に来てよ!そうすれば入りたくなっちゃうと思うよ?!」

  楽しいよ?とマコトは弾んだ声で言う。元々陽キャでない俺は知り合いのライブを見に行くという行為が苦手だ。でもそんな楽しそうに言われると断りづらい。

「じゃあ今度行かせてもらおうかな?」
「ちょうど、明日あるよ!関係者席空けておくから」
「明日?!」
   また今度、からの有耶無耶大作戦のはずが…、まさかの明日とか!しどろもどろになっていると、マコトは真剣な声で、「来てほしい、圭吾くんに」なんて言うから、断れなくなってしまった。
 流石アイドル、電話越しでも衰えない『キラキラ』パワーで押し切られてしまった。



  
 翌日、俺はYBIのライブを観るために、差し入れのお菓子を片手にアリーナ会場へと向かった。

 副都心の駅の近くにあるこのアリーナ会場は、なんとRELAYの実質解散ライブを行った場所でもあった。あの時も最終日はこんな風に人がたくさん来てくれたんだろうなあ…そんなに前の事じゃない筈なのに、すごく昔の事のように懐かしく思い出した。
 会場の外には、グッズ販売のテントがあって、大勢の人が並んでいる。アイドルのグッズって、どんな物を売っているんだろう?気になって覗いてみると、まず種類の多さに驚いた。
 グループ全体のものと、個人個人のものとが別にあるらしい。メンバーカラーも分かれていて、会場には色とりどりのグッズを手にしたファンの女の子達で溢れかえっている。
 マコトのイメージカラーはピンク。確かに、タレ目で優しい雰囲気のマコトには合いそうだ。俺はマコトのグッズの列に並んで、ペンライトと”マコト”と書いてあるうちわを購入した。
 心なしか、周りがざわついていた気がする。男が少ないから、悪目立ちしているようだ。

 関係者入り口に行くと、確認のため少し待たされてから、楽屋に通された。
「圭吾くん!うちわ買ってくれたの?!」
「うん。このうちわハート型になっててすごいね。メンバーの個性も出てて、見てて楽しかった。あれ、個人個人で作ってるの?」
「そうそう。結構うちはそれぞれでやってるかな。考えるのは大変だけど、そうやって言ってもらえると嬉しい」
 マコトはまた朗らかに笑った。そっか、そうだよな。考えるのは大変だよな。RELAYのグッズは蓮が考えていたっけ…。

「そうだよね、考えるの大変だよね。すごいよ、本当。」
「グッズもだけど、ライブも楽しんでよ。演出もメンバーで意見出し合って、やってるから」
「演出も?!」
「RELAYは舞台監督まかせ…ってわけでもないでしょ?バンドだし」
「俺は結構任せっぱなしで、…蓮に」

 グッズも演出もそうだけど、蓮はその上、作詞作曲もしていた。一人で取材を受ける事も多々あって…蓮は一体、どれだけ働いてたんだ…?俺は今更、蓮の仕事量に動揺した。

「まあ、それも適材適所だからさ」
 俺が落ち込んだのを感じ取ったのか、マコトは俺の頭をポンポンと撫でた。
「何にも考えないで、純粋に楽しんで欲しいな。そういうライブだから!」
「うん」
 マコトは簡単にメンバーとマネージャーに俺を紹介してくれた。その後、少し早めに関係者席に座る。関係者席は、音響機器の手前、会場のほぼ中央に位置しており、会場の全体を一望できた。アイドルグループだから、会場装置からして全然違う。多分走り回る用の花道が設置してあって、いろんな角度からメンバーの動きが楽しめるようになっているんだろう。
 開演時間が迫ると会場は満員、凄い熱気だ。

 開演すると、俺は舞台に釘付けになった。予想していた通り、メンバー達が花道を駆け回ってファンはより近くでメンバーを見ることができる。広いステージを隅から隅まで使う演出は圧巻だった。
 これをメンバーが意見を出し合って作ってる、なんて凄いな。俺なんか、曲の練習だけで手一杯で何もできてなかった。蓮に任せっきりで、情けない。グッズだってそうだ。
 RELAYは蓮に負担が集中していたんじゃないか?蓮は、だったら一人でやった方がいいって思ったのかも…。
 俺はあの日のRELAYのラストライブの光景が、瞼の裏で重なって泣きそうになった。


 ライブ終盤、トークのコーナーで、マコトは出演する、蓮が初主演でもあるドラマの話を始めた。

「主人公のライバル役で出てまして、もう直ぐ第一回目が放送開始になるんですけど…、今日はその主演二人が来てくれてます…!」

   主演二人?!
 ーー一人は蓮だ。さっきYBIの楽屋に行った時は、いなかったのに…。

 蓮は呼び込まれて、もう一人の主演、木村陽菜と一緒にステージに出てきた。ギターを持って。
 なぜギターを持っているんだ?何だか、嫌な胸騒ぎがする…。

「えーと、二人は主題歌も歌っていて、放送開始後にリリースされるんだよね?」
「そうなんです。今日、プレスリリースされました!」
   木村陽菜は今人気の主演女優らしい眩しい笑顔で、マコトの質問に答える。
「なんと作詞は陽菜ちゃんで、作曲は蓮くん!」
「そうなんです」
「作詞は初挑戦…?」
「いえ、実は以前、バンドやってたんですよ…だから初めてでは無いんですが…。私実は、RELAYの元メンバーで」
「ええっ?!」

 木村陽菜がRELAYの元メンバー?!俺も驚愕した…。でも確か、俺の前のベースって『陽菜ちゃん』と呼ばれていた。しかも作詞までしていたんだ…。

「えーと、めちゃくちゃ驚きなんだけど…!」
「蓮くんとは大学の同級生で、一瞬だったんですけど、ベース弾いてました」
「マジで…?!じゃあ二人でRELAY再結成みたいな…?」
「いやいや、そうではないですけど…!」

   俺は蓮の表情を確認した。蓮はいつもの他所行きの笑顔で、木村陽菜の隣に立っているだけ。何も言ってくれないから、俺は不安で押しつぶされそうだった。

 『RELAYのベースは圭吾だから』と蓮が言ってくれることを、俺は心の底から祈った。

「じゃあ、今日はスペシャルバージョンで新生RELAYとYBIで歌います!」

  マコトの合図で、蓮は結局一言も話さずに演奏を始めてしまった。
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