振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

文字の大きさ
上 下
11 / 50
一章 出会い編

11.解散ライブ

しおりを挟む
 美咲は今泉の鬼電を無視した。それはテクニックらしく「焦ればいーのよ」と、笑っていたのだが…その表情はなんだか、怖い。

 俺は美咲と別れて、電車に乗った。美咲に強引に誘われて出掛けたけど、これはこれで、気は紛れた。
 
 でも、駅に着いたらコンビニの前で今泉が待っていた。

「遅いじゃん」
「……カラオケ行ってて」
   バレているはずだから、嘘は付かなかった。今泉は顔を顰める。
「どういうつもりだよ。美咲と…。知ってるだろ、アイツ」
「…俺、今泉に因幡さんを取られちゃったみたいだから、残念会。それだけだよ…」

  俺は今泉の横を通り抜けて帰ろうとした。そうしたら、今泉に腕を掴まれた。

「……圭吾…」

 今泉の声は震えていた。眉を寄せて、唇を引き結んでいる。俺の方がショックを受けているのに、なんで今泉が苦しそうな顔するんだよ。今泉に彼女が出来たことを悲しんでいる…、表向き『今泉に因幡さんを取られた』ことを悲しんでいるのは俺だぞ?今泉が悲しむ、そんな、権利ある?
 俺は今泉の手を振り払った。

  
 その後は振り返らずに、家まで走った。
 
 今泉のやつ、まさか『ごめん』とか言って謝るつもりじゃないだろうな…?俺は別に因幡のこと好きでもないし、怒ってない。ただ悲しいだけなのに…。


****


「圭吾くん、これ」
「何これ?」
「今泉蓮のバンドの解散ライブのチケットだよ。この間蓮にもらったの。私へのお詫びのつもりらしいんだ。いらなかったら転売してもいいって!」
「それで俺に…?」
   美咲はコクン、と頷いた。
   俺は財布から、一枚分のチケット代を美咲に渡す。美咲はお金を受け取り、神妙な顔をした。
「それでね、圭吾くん。当日私と一緒に、ライブに行って欲しいの。蓮には内緒だよ?」
「え…。いいけど…」
「あと帰りは送って?親にもそう言っておくから」
「チケット一枚しかないけど、美咲さんは入らないってこと?」
「ふふふふふふ」
   なに?ちょっと怖い…。俺はチケットを取られないように大切に鞄にしまった。

  
 その後、駅でたまに今泉と因幡を見かけることもあった。そう言う時は鉢合わせない様に、コンビニに逃げ込んでやり過ごす。良かった。コンビニがあって…!
 そして今泉からメッセージが来ないことにも慣れて来た頃、期末テストも終わり、ついに高校最後の夏休みがやって来た。何だかんだ言って、やっぱり俺は今泉の歌が聞きたかったから今泉の解散ライブを指折りまった。7月の最後、俺は十八歳になった。8月になって、いよいよ解散ライブの日を迎えた。


 解散ライブは、最寄駅の繁華街近くにある、老舗のライブハウスで行われる。俺と美咲はライブハウスの前で集合した。
 チケットはないから、美咲は入らないで待っているのかと思ったのだが、入り口までついてきた。当然、入り口で止められる。
「こっちは関係者だから、チケットがないんです。上村圭吾です」
「え…?!」
 美咲は驚いでいる俺に向かってにやりと笑う。受付の人が確認をしてくれ、なんとか無事入れることは出来た。 
 確かに今泉は俺を関係者で入れてくれるって言っていたけど、美咲は初めからそのつもりで、俺にチケット買わせたってこと!?お、恐ろしい…!

 地下に降りていってドアを開けると、すごい熱気。解散ライブは大盛況だった。
「今泉は中学から有名だったみたいだよ?うちの学校の子達も多いけど、中学の子達なのかなあ~、知らない子もいっぱいだね…」
 美咲は俺に耳打ちした。俺はこんなに、人を集められるなんて、と始まる前から感動していた。
 ライブは何組かの合同で、今泉のバンドはトリ。セットリストには五曲書いてあった。今泉たちのバンドが出てくると大歓声。みんな、目当ては今泉なんだろうか。ステージ上の今泉はいつもにも増してかっこよかった。普通のTシャツにジーンズだけど、なんでだろう。眩し過ぎる。
 五曲中、三曲がカバーで二曲がオリジナル。修学旅行のカラオケで歌ってた曲…文化祭で一緒に歌った曲も入っていた。今泉は曲の初め、低音を少しハスキーな声で歌う。後半に入るとガラリと印象が変わって、ミックスボイスを使って盛り上げ、サビは高音でシャウトする。大音量で今泉の声が身体に響いて、くらくらした。
 最後の曲は、二人で歌った曲…。
 ステージ上で歌う今泉と目が合った気がした。気がしただけで、気のせいかもしれない。あんなライトを浴びて、暗い客席が見えるとは思えない。でも、目が合ったのが気のせいじゃなかったら良いのに。歌詞の中だけでもいいから俺を今泉のものにしてほしい…。俺は今泉から目を離さなかった。
 しかし目が合ったと思ったのは俺だけじゃなかったみたいで、ライブハウスにはきゃあーと悲鳴が上がった。全曲終わると、歓声は地鳴りのようになった。

「オリジナル曲も良かった!今泉って、プロとか目指してるのかなあ?すごいよね!」

  美咲も怒りを忘れて興奮している。
 プロかぁ、凄いな…。今泉は俺に一緒にやろうとか言ってたけど、絶対無理だ…。今泉が遠過ぎる。
   
 ライブが終わって外に出ると、観客はまだ残っていた。
「これから打ち上げじゃない?ほら!因幡がいた!」

 美咲はちっ、と豪快に舌打ちする。キラキラ系女子なのに舌打ちなんかしていいんだろうか?はじめと随分印象が違うんんだけど…。美咲はまた俺を強引に引っ張って、ライブハウスの看板の前に立たせた。自分も隣に立つと、当然の様に俺のメガネを外し腕を伸ばしてスマートフォンのインカメラを向ける。

「イチ、ニー、サン、ハイッ!あっ、圭吾~、目瞑らないでよ、ドヘタかっ!」

 美咲はばっちりキラキラの笑顔をし、背景もちゃんと写している。すごい腕前だ。一緒に駅に向かう道すがら、あっという間に写真をSNSにアップした。

「ねー、タグ何がいい?『#ライブ』、『#かっこよかった』、『#夏の思い出』、『#圭吾』」
 最後のタグ、俺?!まあ、ありふれた名前だけど…。
「圭吾~。この前のみんなからライン来た。いまからカラオケ行かない?」
「いやでも、遅くなっちゃうよ?」
「大丈夫。親には友達のところに泊まるっていってる!」
 その言い訳大丈夫か…?でも他にも人がいるならいいか…と、俺もカラオケに行くことにした。待ち合わせをしているらしい駅へ向かうため、ホームへ向かう。

 夏休みでしかも週末の駅のホームは人でごった返している。電車が到着してドアが開くと、人の波に押されるように中に吸い込まれていく。先に歩いていた美咲はもう車内に足を踏み入れていた。俺も、あと一歩で車内に…。

 その時流れに逆らって、急に腕を掴まれた。

「圭吾!」

 同時に、発車の音楽が鳴ってドアが閉まった。

 俺が乗っていないことに気が付いたらしい美咲が振り向き、ドアの前で口をぱくぱくさせている。電車はあっという間に発車して通り過ぎた。

「……俺と帰って 」

 俺を追いかけて来たらしい今泉はそれだけ言うと、汗ばんだ手で俺を引っ張った。
しおりを挟む
感想などいただけたら嬉しいです!↓マコトくんが所属するYBIの連載を開始しましたYour Best idol
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...