振られて捨てられたはずがなぜか成功して周りの評価が爆上がりした件~失恋ソングを配信しただけでけして復讐ではありません!~

あさ田ぱん

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一章 出会い編

8.文化祭

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「センセーなんだって?」
「センセー…、俺が友達ゼロでおかしくなったと思ったらしくて『悩みがあるなら俺に相談しろ!』って泣いちゃってさ…」
「何だそれ、圭吾らしいなぁ~」
   今泉は吹き出した。なんでそれが俺らしいわけ?俺の頭にははてなマークが踊る。

「そこっ!真剣に考えて!でないと酷いわよ?」
  クラス委員の因幡すずは、教壇から俺たちを指差した。
 今日、午後のホームルームで文化祭の出し物を決めている。修学旅行が終わったと思ったら、もう文化祭、十一月。今泉と同じクラスなのもあと数ヶ月かも知れないと、隣に勝手に椅子を持って来て座っている今泉を見て夕焼けを見た時のような寂しさに襲われた。夕焼けって楽しかった一日が終わるって感じて少し、悲しくなるから…、俺は今、そんな感じ。

「えーと今出てる案は、『人狼』と『ねるとん』です。他に何かありますか?」

  人狼は会話しながら嘘つきを見つけるゲームだっけ?ねるとんは何だろう…?

「今泉、ねるとんって知ってる?」
「合コンみたいなもん。最後に男が女に告白しなきゃいけないの」
「へえ…」
  今泉は凄く嫌そうな顔をした。今泉は絶対もてるから楽しいと思うけど違うらしい。

「はーい、委員長!うちの学年には今泉君がいるから、男子はしんどいです!人狼にしてください!」
  クラスの男が手を挙げて、因幡鈴に訴えた。確かに。今泉がいたら今泉に人気が集中してしまう。裏方をやるって言っても女子が放っておかなそうだし。
「確かに…。ではこういうのはどうですか?人狼とねるとんをミックスして、じんねるは?告白する側される側にどちらにも人狼をまぜて、人狼は告白されたら勝ち!人チームは人狼を避けて人に告白できたら勝ち!勝敗にカップル成立は関係ないけど…それはそれで楽しめるってことで」
   女子からは面白そーという声があがった。男もそれならいっか、という空気になり…。俺たちのクラスは『じんねる』をやる事になった。

「じゃ、今から役割決めします!私達は基本裏方だけど、お客さんが少なかったらクラスのメンバーにも参加してもらうから!」
   因幡鈴はすぐにくじを作って、皆んなに引かせた。俺が引いたくじは…。
「人狼だ!それで告白される側かあ…」
「俺は人だった。しかも告白側。うわー…」
   今泉は嫌そうな声を出した。でも彼女がこのクラスに居るんだから、免除されるんじゃないか?
 そう思ったが、彼女のことは聞かなかった。最近今泉は俺とばっかり帰っているから、ひょっとして彼女とは、もう…?

   ホームルームが終わると、一緒に教室を出た。今日の今泉はギターを背負っているが、駅までは一緒のはず。

「圭吾、もし『じんねる』に出ることになったら俺、お前に告白するから、お前も俺を選べよ?」
「え、だめだよ。俺男だし…」
「いいじゃん別に」
「俺なんかより、か、彼女に頼んだら…?」
 俺は遂に言った。ちょっと声が震えてしまったの、変に思われただろうか。今泉はちょっと目を丸くしている。
「いつの話してんだよ?」
   ということは、別れてたんだ?だって、何も言わないから…知らなかった。
「とにかく、俺を選んでくれ!」
「だから俺、男!」
「そんなに気にするんなら、わかったよ。俺が何とかする」
   何とかって何…?若干、嫌な予感はしたのだが、その時は気付かないふりをしてしまった。
 後から後悔することになるとも知らずに……。


****

 文化祭、当日。
「何で…?」
「結局お客だけだと盛り上がらないかもって話になって、毎回クラスの奴がサクラで入ることになったんだ。それに、余興的な要素もあったほうが面白いだろ?」
  出し物の準備のため教室に置かれた姿見で自分の格好を確認して、ため息をついた。俺は人狼の、お笑い担当に任命され、女子の制服を着せられてしまったのだ…。俺は項垂れた。
「ウィッグも似合ってる。かわいいよ、圭吾。こっち向いて」
   ボブのウイックと女子の制服姿の俺をみて今泉は笑いを堪えている。俺が今泉を振り向くと、今泉は俺のメガネを外した。
「………おい圭吾、絶対俺を選べよ?」
 今泉は俺の外したメガネをまた掛け直しながら、今度は苦笑いする。
 ーーこの格好で…今泉以外の仕込みじゃない人が告白してくるはずがない。今泉も俺に告白してくれるっていうけど、本当だろうか。他に好きな子出来たりしない?

「圭吾、カップル成立したら後夜祭で俺と歌おうぜ!」
「え?!なんで?!」
「俺、後夜祭で歌うことになってるから。でも、学外のやつは入れないから、バンドは入れなくて一人なんだ」
   今泉は中学の同級生とバンド組んでるからメンバーは入れないんだな。それにしたって、俺って…!
「無理だよ…」
「無理じゃない。俺圭吾の歌のファンだよ」
   
 今泉は冗談なのかなんなのかよく分からない、しかし溶けそうな笑顔を俺に向ける。俺が戸惑っていると、今泉は後夜祭の打ち合わせがあるとかで呼び出され、出ていってしまった。
 この格好で、ひとりにしないで欲しい!でも外に出るわけにもいかず、大人しく待っていた。

「あれ?圭吾?」
   教室にやって来たのは因幡鈴だった。因幡はいつのまにか俺を下の名前で呼んでいる。俺が今泉を『れん』て呼べないでいるのに…。距離感が近いやつって羨ましい!
 因幡は俺を見つけてすぐ、ぷっと吹き出した。
「受けるー!似合う!ちょっと背は高いけど…。あ、ちょっと待って!」
   因幡は俺のメガネを外す。
「うん。この方がいい。これなら多分…人狼の勝ち!」
   何で?俺は首を傾げた……。
「さ、行きましょう!」

  俺は因幡と一緒に出し物『じんねる』をする教室へ向かった。教室に入ると、視線が一斉に集まる。
「圭吾!」
   教室に入ると後ろから丁度、今泉がやって来た。良かった…。
「圭吾、メガネは?」
「あ、因幡さんが…」
「ない方がいいじゃない!すっごいかわいいもん!」
「ーーだめだろ。圭吾はメガネなしだと何にも見えないんだから。返せよ」
   因幡は今泉の圧に負けてメガネを今泉に手渡した。今泉は俺にメガネをかけて「ちゃんとかけてろ」とぶっきらぼうに言う。なんか、怒ってる…?何で?

 人狼とねるとんのミックスゲーム『じんねる』が始まった。まずはくじで告白する側、される側か、人狼か人かを決める。サクラであるクラスのメンバーは予め役が決まっているのだが、一応、白票を引く。その後、一人ずつ自己紹介をして、あとはフリータイムで色々会話しながら人狼か人なのかを探っていくのだが…。
 今泉は予想通り、女の子に囲まれてしまい、近づけなくなった。あの感じで女子に告白したら凄い騒ぎになりそうだ。だから、俺に告白するんだろ…?それはわかっている。

「あのぉ…。ケイコさん。よかったら写真いいですか?」
「あ、私もお願いしたいです。メガネ取ったところ、いいですか?」
  ほとんどの女子は今泉の所にいってしまったが、二人だけ、女子が俺の所にやってきた。俺と写真?!あ、そっか俺、明らかに人狼だからな…。この回の司会をしていた因幡が、写真を撮ってくれた。そうしたら今泉のせいで暇だったらしい男子も集まってきてしまい、沢山写真を撮られてしまった。黒歴史ってこうやって生まれていくんだな?
 そしてついに、告白タイム。告白タイムが始まる頃には、今泉が参加しているからか、教室の外にまで人だかりが出来ていた。
 俺は明らかに人狼の賑やかし要員だから、事前に約束していた今泉を除いて、誰も告白してこないはず…。俺は告白される側の席で、ドキドキしながらその時を待っていた。
 初めの何人かが告白して、今のところ人狼と人は引き分けだ。次は、さっき写真をお願いされた女の子の番だった。その子は俺の前までやって来て、手を差し出す。
 いや俺、明らかに人狼だけど?!

「ちょっとまった!」

   そのお決まりのセリフを言った人物は…、今泉ではなかった。写真を撮った、もう一人の女子。どうやら初めから二人で打ち合わせていたらしい。真面目にやるのも恥ずかしいから、俺を当て馬にしたって事だな?二人は顔を見合わせてニコニコと笑っている。
 しかし、俺は戸惑った。その後も何人かふざけたと思われる男子が手を挙げて……。一番最後に手を挙げたのが今泉だった。

「最初から決めてました。よろしくお願いします」

  今泉は台本と同じセリフを言って俺の前に手を出した。

 司会の因幡鈴がなにか煽るようなことを言っていた気もする。マイクから聞こえてるはずの言葉も周りのざわめきも、俺には何も聞こえなかった。

 俺は引き寄せられる様に今泉の手を握った。

「カップル成立したのか、確認しましょう!ケイコさんは、どっちですか?」
「人狼です…!」
「あー!今泉さんは人ですねっ、残念!」 
「残念~!」
 今泉の『残念』は冗談っぽく大袈裟だった。わかってる。これは初めから決めていたことで…。

 でも俺は酷くショックを受けていた。

 今泉はキスだって手慣れてた。それもこれも冗談とか遊びの一種なんだろう。でも…冗談や遊びには傷つく。

 ーー俺は好きだから、今泉が。

 って、な、なんで、こんな時に自覚するんだろう?!


「これ、やらせじゃないですか?」
「そーそー!出来過ぎ!」
   周囲が『やらせ』だと騒ぎ始めた。確かに、俺に今泉が告白なんて、しめし合わせてた感、出過ぎてるよな。
   
「違います、ちゃんとやってますよね?!」
「ちゃんと告白しました!」
   因幡は今泉にマイクを向け、今泉も冗談で返す。軽妙なやり取りに、教室内は盛り上がった。

「じゃ、キスしてみろよ!キースッ!」
   更に良くないことに、ふざけた誰かがキスコールを初めてしまった。俺は青ざめる……冗談でもやめてほしい!

 俺が青ざめて後退ると、今泉は俺を捕まえた。
 今泉はほっぺに、チュッと大きな音を立てて、キスをした。

 誰も本気だなんて思ってないキスに、悲鳴と歓声が上がる。
 
「カップル成立したので、二人で明日の後夜祭で歌います!聞きに来てください!」
「えっ、宣伝?!」

  しかも、今泉のやつ…、まさかの宣伝話題作りだった!

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