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プロローグ
1.バンド解散!
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俺、上村圭吾はその日、いつものようにコンビニに寄った。買ったのは蓮の好きな「カニカマのお寿司おにぎり」と二人でハマっていた漫画「悪役令息、皇帝になるseason3」。
今泉蓮は俺が所属しているバンドRELAYのメンバーであり、高校の同級生であり、初恋の人であり……セフレでもある。珍しく、休みの日に蓮から「家に来て」という、ぶっきらぼうなメッセージが来たのだ。久しぶりの誘いにうきうきしながら蓮の好物を買って、マンションに向かった。もちろんちゃんと、抱かれる準備もして…。
蓮は本当にかっこいい。涼しげな目元に、すっと通った鼻筋、薄い唇。冷たそうに見えるけど、人懐っこくて話好きなギャップ。蓮に抱きしめられるところを想像して、頬が緩む。
「圭吾悪い。また、詞がやり直しになった…。少し待ってて」
蓮は、RELAYのボーカル、ギター、ついでに作詞作曲を担当している。今度のシングル、ドラマのタイアップ曲の歌詞がダメ出しを喰らって、やり直し作業をしていたらしい。何回かラリーが続いていたらしく、明らかに機嫌が良くなかった。
俺は同じRELAYのベーシスト。同じバンドメンバーだけど、蓮のような才能はお世辞にもない。悩んでいる蓮には申し訳ないがアドバイスなんか出来るはずもなく、リビングで大人しく待つしかなかった。
それがよくなかったのかもしれない。一時間を過ぎた辺りで、ソファでうたた寝をしてしまったのだ。
「圭吾…」
肩を揺すられて、目が覚めた。目を開けると、不機嫌な蓮が俺を見下ろしていた。
「お前、漫画読んでゴロゴロ寝て…何やってんだよ?」
「あ、ご、ごめん…」
「はぁー、人が仕事してる時に…あり得ない」
「ごめん」
「もう帰れ、ムカつく…」
蓮はそう言うと立ち上がって、仕事部屋の方に戻ってしまった。
本当、あり得ない…ごめん、蓮。謝りたかったけど、ドアを開ける勇気が無かった。俺は買ってきた物を冷蔵庫にしまって、蓮の部屋を出た。
休みが明けて蓮に会った時にきちんと謝ろうと思ってまず、おはようと挨拶をしたのだが無視された。
「蓮…昨日…」
「お前さ…いや、もういい、お前とは話したくない 」
蓮と会話ができないまま、アルバムのツアーが決まった。仕事中蓮はいつも通りだったから、いつかまたもどれるだろう、俺と蓮、身体の相性はいい。エッチの時はいっつもかわいいって言われてたし……。なんて根拠もなく思っていたのだが。
アリーナツアーの打ち上げで、蓮はRELAYからの脱退を宣言した。
蓮がRELAYそのものなのに、蓮がRELAYから抜けたら…それは解散を意味していた。その後、事務所の説得によって表向きは活動休止、ということに着地した。
そして蓮は、RELAY解散と共に俺との関係も終わりにする事にしたようだ。いつもライブ終わりには、俺を連れて帰っていたのに、その日は俺ではなく、打ち上げに来てた美人な女の子を連れて帰った。
****
と、言うわけで俺たちのバンド、RELAYはあっけなく解散した。そして俺、捨てられた…!なんと蓮にあれからずっと無視されてて音信不通!なんだよ、別れの挨拶くらいしろよぉ!
「ケイちゃんだけよ。見てよ、この真っ白なスケジュール!今月のスケジュール、今日の午前中、事務所でアタシと打ち合わせ!以上!」
解散後、事務所に呼び出した俺を、RELAYのマネージャー阿部真美は憐みの目で見つめた。じゃあ…わざわざ事務所に呼び出さなくても良かったんじゃない?俺はちょっと不貞腐れていた…。
「まあ、それはそうだけど…あんまり言いたくないんだけど、このままなーんにも仕事がないと、契約終了、ってことにもなり兼ねないわよ?!」
「……」
バンドRELAYは、インディーズデビューして二年、メジャーデビューして五年。その間、アルバムを三枚リリースし、ドラマやCMのタイアップ効果もあってアリーナツアーは全公演ソールドアウト。名だたる音楽番組には全部出演済み。そんな華々しいバンドの元メンバーの俺、解散したら仕事ないってどういうこと?!
世の中は厳しい。RELAYのメッキが剥がれた俺はただの「Fラン大卒のさえない男」なのだ…。
でもさ、ひどくない?!
他の奴はみんな、同じ音楽大学出身で演奏技術に定評があり、他のバンドに誘われたり、講師の声がかかったり順風満帆…。蓮に至ってはイケメン過ぎてついに俳優デビューするらしい…。それで女優と付き合ってるとかなんとか。蓮の奴、「Fラン大卒」な上アニメオタクでコミュ障のさえない男を自分が作ったバンドに誘って、セフレにした挙句あっさり捨てて…。ちょっとは捨てられたあとのこと考えろよ~、責任とってお嫁さんにしろよ~!
俺が悪いオンナだったらこっそり撮った蓮の寝顔写真週刊誌に売って復讐してるぞ?!
いや、訂正……。やっぱりアレは売れない。あの寝顔写真は俺の宝物だから…。
「最近、引退も考えてて…」
「え、そ、そんなに……?」
阿部マネージャーは閉口した。俺の悲愴な表情でいろいろと察したらしく、それ以上は何も言わなかった。
でもできれば、蓮にまた会えそうな仕事がしたい。
例えばコンビニのオーナーとかどうだろう。蓮はコンビニが好きだから、コンビニのオーナーになればいつか、蓮が買い物に来るかも、なんて。
蓮はコンビニの変わり種おにぎりとか、コンビニ限定のカップ麺やお菓子が大好きなのだ。高校の頃、よく一緒に食べたっけ。俺たちが通った思い出のコンビニは、移転して今はもうない。いつかあの場所にコンビニを復活できたらまた、気軽に再会できるかもしれない…。
蓮、会いたいよ。
出会ったころは、同じ高校だったからいつでも会えたのに。まさかこんなに会えなくなるなんて。
俺と蓮が出会ったのは、高校二年の時。そしてあの日、歌う蓮と目が合って、見つめられた……。その時から、ずっと、ずっと好きだった。
高校二年のあの日から、ずっと……。
今泉蓮は俺が所属しているバンドRELAYのメンバーであり、高校の同級生であり、初恋の人であり……セフレでもある。珍しく、休みの日に蓮から「家に来て」という、ぶっきらぼうなメッセージが来たのだ。久しぶりの誘いにうきうきしながら蓮の好物を買って、マンションに向かった。もちろんちゃんと、抱かれる準備もして…。
蓮は本当にかっこいい。涼しげな目元に、すっと通った鼻筋、薄い唇。冷たそうに見えるけど、人懐っこくて話好きなギャップ。蓮に抱きしめられるところを想像して、頬が緩む。
「圭吾悪い。また、詞がやり直しになった…。少し待ってて」
蓮は、RELAYのボーカル、ギター、ついでに作詞作曲を担当している。今度のシングル、ドラマのタイアップ曲の歌詞がダメ出しを喰らって、やり直し作業をしていたらしい。何回かラリーが続いていたらしく、明らかに機嫌が良くなかった。
俺は同じRELAYのベーシスト。同じバンドメンバーだけど、蓮のような才能はお世辞にもない。悩んでいる蓮には申し訳ないがアドバイスなんか出来るはずもなく、リビングで大人しく待つしかなかった。
それがよくなかったのかもしれない。一時間を過ぎた辺りで、ソファでうたた寝をしてしまったのだ。
「圭吾…」
肩を揺すられて、目が覚めた。目を開けると、不機嫌な蓮が俺を見下ろしていた。
「お前、漫画読んでゴロゴロ寝て…何やってんだよ?」
「あ、ご、ごめん…」
「はぁー、人が仕事してる時に…あり得ない」
「ごめん」
「もう帰れ、ムカつく…」
蓮はそう言うと立ち上がって、仕事部屋の方に戻ってしまった。
本当、あり得ない…ごめん、蓮。謝りたかったけど、ドアを開ける勇気が無かった。俺は買ってきた物を冷蔵庫にしまって、蓮の部屋を出た。
休みが明けて蓮に会った時にきちんと謝ろうと思ってまず、おはようと挨拶をしたのだが無視された。
「蓮…昨日…」
「お前さ…いや、もういい、お前とは話したくない 」
蓮と会話ができないまま、アルバムのツアーが決まった。仕事中蓮はいつも通りだったから、いつかまたもどれるだろう、俺と蓮、身体の相性はいい。エッチの時はいっつもかわいいって言われてたし……。なんて根拠もなく思っていたのだが。
アリーナツアーの打ち上げで、蓮はRELAYからの脱退を宣言した。
蓮がRELAYそのものなのに、蓮がRELAYから抜けたら…それは解散を意味していた。その後、事務所の説得によって表向きは活動休止、ということに着地した。
そして蓮は、RELAY解散と共に俺との関係も終わりにする事にしたようだ。いつもライブ終わりには、俺を連れて帰っていたのに、その日は俺ではなく、打ち上げに来てた美人な女の子を連れて帰った。
****
と、言うわけで俺たちのバンド、RELAYはあっけなく解散した。そして俺、捨てられた…!なんと蓮にあれからずっと無視されてて音信不通!なんだよ、別れの挨拶くらいしろよぉ!
「ケイちゃんだけよ。見てよ、この真っ白なスケジュール!今月のスケジュール、今日の午前中、事務所でアタシと打ち合わせ!以上!」
解散後、事務所に呼び出した俺を、RELAYのマネージャー阿部真美は憐みの目で見つめた。じゃあ…わざわざ事務所に呼び出さなくても良かったんじゃない?俺はちょっと不貞腐れていた…。
「まあ、それはそうだけど…あんまり言いたくないんだけど、このままなーんにも仕事がないと、契約終了、ってことにもなり兼ねないわよ?!」
「……」
バンドRELAYは、インディーズデビューして二年、メジャーデビューして五年。その間、アルバムを三枚リリースし、ドラマやCMのタイアップ効果もあってアリーナツアーは全公演ソールドアウト。名だたる音楽番組には全部出演済み。そんな華々しいバンドの元メンバーの俺、解散したら仕事ないってどういうこと?!
世の中は厳しい。RELAYのメッキが剥がれた俺はただの「Fラン大卒のさえない男」なのだ…。
でもさ、ひどくない?!
他の奴はみんな、同じ音楽大学出身で演奏技術に定評があり、他のバンドに誘われたり、講師の声がかかったり順風満帆…。蓮に至ってはイケメン過ぎてついに俳優デビューするらしい…。それで女優と付き合ってるとかなんとか。蓮の奴、「Fラン大卒」な上アニメオタクでコミュ障のさえない男を自分が作ったバンドに誘って、セフレにした挙句あっさり捨てて…。ちょっとは捨てられたあとのこと考えろよ~、責任とってお嫁さんにしろよ~!
俺が悪いオンナだったらこっそり撮った蓮の寝顔写真週刊誌に売って復讐してるぞ?!
いや、訂正……。やっぱりアレは売れない。あの寝顔写真は俺の宝物だから…。
「最近、引退も考えてて…」
「え、そ、そんなに……?」
阿部マネージャーは閉口した。俺の悲愴な表情でいろいろと察したらしく、それ以上は何も言わなかった。
でもできれば、蓮にまた会えそうな仕事がしたい。
例えばコンビニのオーナーとかどうだろう。蓮はコンビニが好きだから、コンビニのオーナーになればいつか、蓮が買い物に来るかも、なんて。
蓮はコンビニの変わり種おにぎりとか、コンビニ限定のカップ麺やお菓子が大好きなのだ。高校の頃、よく一緒に食べたっけ。俺たちが通った思い出のコンビニは、移転して今はもうない。いつかあの場所にコンビニを復活できたらまた、気軽に再会できるかもしれない…。
蓮、会いたいよ。
出会ったころは、同じ高校だったからいつでも会えたのに。まさかこんなに会えなくなるなんて。
俺と蓮が出会ったのは、高校二年の時。そしてあの日、歌う蓮と目が合って、見つめられた……。その時から、ずっと、ずっと好きだった。
高校二年のあの日から、ずっと……。
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