不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

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四章

45.騎士祭りの本戦③

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 試合場ではローレンが苦戦を強いられていた。フィリップに責め立てられながらも、俺が来たことに気がついたローレンは俺の名を呼ぶ。

「ノア!」
「ローレン!フィリップ殿下は魔力封じのブレスレットを着けていません!気をつけて!」
 
 俺が叫ぶと、ローレンと対峙していたフィリップは視線だけを俺に向けた。

「ノア…マリクはどうした?いや…いい、オメガなんか最初からあてにしていない。俺の計画は揺るがない!」

 フィリップはローレンの剣を弾いたのだが、これまでと違い凄まじい威力で、ローレンは後ろに吹き飛んだ。背中を打って転がったローレンの、苦しげな声が聞こえる。

 フィリップは、魔法を使ったに違いない!

「ローレン!」
 俺がローレンに駆け寄ろうとするよりも早く、フィリップが俺に向かって走ってきた。

「ノア!計画変更だ!お前を先に殺してやる!ローレンにも失う苦しみを味合わせてやろうではないか!」

 フィリップは鬼気迫る表情で俺に飛びかかってきた。殺される…!

 俺は逃げようとしたがフィリップに捕まってしまった。フィリップに魔力封じのブレスレットを着ければ…そう思ったが、手を後ろでに捕まれ簡単に拘束されてしまう。

「フィリップ!いい加減にしろ!」

 ローレンはいつの間にか立ち上がっていた。

「ローレン…よく見ておけ。お前の愛する男が死ぬ所を…そしてすぐ後を追わせてやる 」
「ノアを渡せ。そうすればオランレリアはくれてやる 」
「何だと…?」

 ローレンは腕を出すと、嵌めていたブレスレットを反対の手で掴んだ。ブレスレットは鍵を使わないと開かない頑丈な作りの物だ。鍵を刺す窪みに爪を立てギリギリと力を入れている。

「ローレンお前…鍵なしでブレスレットを外すつもりか…?魔法もなしで…?」

 フィリップは嘲笑った…。

 しかし徐々にその表情は曇り、笑みは完全に消えていった。
 ローレンはブレスレットを魔法を使わずに指の力だけで砕いてしまった。大きな音を立てて砕かれたブレスレットが、地面に落ちる。落ちたブレスレットをローレンは怒りに任せて踏みつけた。

「もう一度言う。ノアを渡せ!」
「誰に口を聞いている!」

 フィリップは怒りに任せて俺を突き飛ばすと、再び剣を握りローレンに向かって走りながら剣を振り上げた。ローレンは止まったまま、腰に刺していた剣をスラリと抜く。
 
 一振りで勝敗は決した。

 ローレンは向かってきたフィリップの大振りの剣を難なくかわすと腹を突き、鳩尾を突かれたフィリップはその場に頽れた。

 俺は慌てて、フィリップの所まで行き、腕に魔力を封じるブレスレットを嵌めた。

「ノア!」

 ローレンが俺の所に走ってくる。よかった、無事で…!涙が溢れて、視界が霞む…。

 ローレンは俺を抱きしめた。キツく…。良かった。本当に…。

 安心したのも束の間、会場は歓声とも違う、どよめきに包まれた。マリクを追って行った、フィリップの手のものと思われる私兵たちが、試合場に雪崩混んできたのだ。

「ノア!ローレン!こいつらお前達を狙ってる!逃げろ!」

  マリクが観客席の上から叫んだのが聞こえる。マリクを追って行った奴らが、俺ではないと気がついてこちらに戻ってきてしまったようだ。

「ローレン!まずい…。あいつら大勢いて、皆んなフィリップ殿下の手下みたいで…!」
「大丈夫。俺の後ろにいて。ノアには擦り傷一つ付けさせない 」

 ローレンは詠唱して、魔法を放った。

 向かってきた私兵たちは皆、動きを止められ、地面に倒れ込む。

「おいフィリップ、お前が父上に使ったものと同じ魔法だ。こうやるんだよ、本当はな!」

 ローレンの声にフィリップの手が少しだけ反応したように動く。それを見て、ローレンは俺の手を引いた。

「また起きると面倒なことになる…行こう!」

 観客席の中央辺り、貴賓席からも「待て!」と言う声が掛かったが、ローレンは止まらない。

「ローレン、魔法使えるの?今日は抑制剤を飲んでいない…?」
「ああ、今日は飲んでない…オメガと出会す事もないだろうし、ノアを力尽くで連れて行くのに魔力がいると思ったから!」

 俺の手を取るとローレンは走り出した。どよめく観客の間を縫って会場を出ると、会場を出たところでマリクが待っていた。

「ノア!ローレン!一旦邸へ…!後のことは父上と話し合おう。俺が責任を持つ…!」
 マリクは俺たちをエヴラール辺境伯邸に案内しようとしたのだが、ローレンは首を振った。

「俺たちは運河を渡る 」
「ローレン… 」

 マリクは目を見開く。少し逡巡してから、俺の方を向いた。
「ノア…お前は?お前もローレンと…?」
「そうだ。ノアは連れて行く 」
 俺の答えなど聞かず、ローレンは答えた。マリクはローレンの答えを聞いた後、俺を見つめ、唇を震わせた。…自分が好きな男に自分とは別の人を連れて行く、と言われたら傷つくだろう…。俺も何も言わずにマリクを見つめた。
 マリクはその、形の整った美しい瞳からぽろ…と涙を溢し、そして倒れ込むように俺に抱き着いた。

「マリク様…!?」
「お前無しで俺はどうやって暮らしていけばいい…?発情期が来たらどうしたらいいんだ!」
「だ、大丈夫です。発情期は、薬を計画的に飲めば…お医者様もそうおっしゃっていました!」
「友達も一人もいないんだ!誰にも弱音を言ったことがなかった、ずっと…!」
「それは…信頼できる人を探して、心を開いていけば…。と言っても私も友人などいませんでした。マリク様が初めてです 」
「ノア…マリクでいい。友達だから。もう 」
「マリク… 」
「ノア、何か事情があるんだろう…?でも、生きていてくれ。手紙も書いてほしい。今度は捨てないから 」
 フィリップも俺の手紙のことを知っていたけど、捨てたのはマリクだったのか?マリクが捨てた手紙をフィリップが読んでいた…?今となってはどちらでもいいけど…。

「手紙、書きます。きっと 」
「うん… 」
 マリクと俺はまた、抱き合…えなかった。ローレンに引き離された。

「マリク、ノアに触るな!」
「ローレン!友情に水を差すなよ!」
 二人は急に喧嘩を始めた。マリクはついさっきまで、ローレンと番になろうとしていなかったか?俺が「二人の方が友人みたいですね」というと、二人に睨まれた。

「ノア、冗談はこのくらいで…。追手は出来るだけ抑えておいてやるよ。行くなら早く行っちまえ!」
「ありがとう、マリク…!」
「うん。二人には笑っていてほしい…。いつかまた会おう!」
 マリクは微笑んだ。もう、泣いてはいなかった。良かった。俺もマリクには笑っていてほしい。俺とローレンはマリクに手を振って別れた。
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