不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

文字の大きさ
上 下
43 / 51
四章

43.騎士祭りの本戦①

しおりを挟む
「もう時間がない。いくぞ。」
 
 マリクは俺が入っていたクローゼットにアロワを押し込むと、縄で縛られたままの俺を立ち上がらせ、縄を人目から隠すためローブを被せた。ローブから縄だけを出して掴むと、歩るくように俺の背中を押す。俺は今度は窓からではなく、出入り口の扉から外へ出た。

「何処へ行くのですか…?」
「決まっている。エヴラール家の訓練場…。騎士祭りの本戦だ 」
「本戦…!まさかマリク様、私をフィリップ殿下に?!」
「そうだ 」
 俺はそれを聞いて青ざめた。マリクはまだ、フィリップが自分に協力してローレンと番にすると思っているのだろうが、フィリップはきっとそれさえ利用しようとしている…。
「マリク様お待ち下さい!フィリップ殿下の甘言に騙されないでください!フィリップ殿下は貴方を利用するだけで、ローレンとあなたを番にするつもりはありません!」
「煩いっ!黙っていろ…!」
 
 マリクはまた魔法で俺を黙らせた。俺を縛った縄を持ったまま、騎士祭りの本戦が行われている訓練場に向かって歩いて行く。俺は再度、不安になった。マリクが魔法を使っているということは、今日も抑制剤を飲んでいないということ。先日の発情は薬を使ってのことだが、今日また薬を使って発情してしまったら…あれはほぼ毒薬、ローレンだけでなくマリクの身体も持たないだろう。
 二人が番になることでローレンが無事でいられるのなら、それでいいのだが…。ただ…昨日のフィリップの様子をみれば、フィリップにはそのつもりがないと分かる。発情という前後不覚の状況を利用してローレンに危害を加えるかもしれない。それが何より恐ろしい。

 加えてフィリップは俺を人質にするつもりなのだ。だから、会場に行くのはまずい…!

 マリクは発情期のせいで卒業が遅れたと嘆いていたが、それでも王都の学校を卒業した、確かな実力をもっている。オメガだが、魔力量も多い。
 俺はマリクに魔法を使われて逃れることが出来ず、ついに試合会場に到着してしまった。

 試合が行われるエヴラール辺境伯騎士の訓練場はすり鉢状に作られている。試合場をぐるりと囲む観客席は斜面になっており、どの位置からも試合を見下ろせる仕組みだ。マリクはエヴラール辺境伯がいる中程の貴賓席ではなく、怪しげな男たちに手招きされ、斜面の一番上の席に座った。この男たちはフィリップの手のものなのだろうか…?皆、俺たちが来ることを分かっていたようで手際よくマリクを椅子に座らせる。
 かなりの人数に囲まれてしまった…。

 俺は会場内にローレンの姿を探したが、まだここにはいないようだ。自分の試合以外は控え室…騎士たちの詰め所にいることになっているから、きっとまだここにはいないのだろう。良かった。何とか、隙を見て逃げないと。

「始まる…。」

 マリクの言葉で試合場に視線を移すと、ジェイドとフィリップが無言で向かい合っていた。
 騎士祭りの試合は相手を殺さないよう、高位の神官が術をかけた剣を使う。そして魔法の使用は禁止されており、魔力を無効化する魔道具…ブレスレットを着用する決まりだ。だから純粋に…武芸を競うし、見ている方も安心して、楽しんで観戦出来るのだ。勝敗は賭け事の対象でもあり、会場内には楽しげな歓声が響いていた。

 修道院のウルク司祭も、ローレンとジェイドが一番人気だと言っていたが、やはりジェイドを応援しているものが多いように感じた。

「すでにローレンは二回勝利している。この試合の勝者と、ローレンは戦うことになる。」

 マリクは独り言のように呟いた。ジェイドとフィリップのいずれか…。フィリップの自信を見る限りローレン以外に負けるつもりはないようだが…。ジェイドも壮年の戦士とはいえまだまだ現役だ。ローレンと戦う相手がジェイドなら殺されたりはしないだろうから、ジェイドに勝って欲しい。俺は神に祈った。
   
 試合が開始すると、二人はほぼ互角…いや、ジェイドが若干優勢のように見えた。
 祈りが通じたのか…、ジェイドはフィリップを攻め立てた。フィリップは防戦一方…会場内の観客はジェイドの善戦に大きく沸く。

 遂にジェイドはフィリップを追い詰めた。剣捌きについて行けず、後退したフィリップは確かに、頭上から一太刀、受けるように見えた。

 その瞬間、ジェイドの振り下ろした剣が止まったように写った。まるで時が止まったように、一瞬だけ。その一瞬で形成は逆転。ジェイドはフィリップに剣を弾かれ…喉元に剣を突きつけられてしまった。

「…参りました 」

 ジェイドの言葉に、観客からはため息が漏れた。多くの客は、ジェイドに掛けていた賭博の券を放り投げる。以前、予選でローレンが勝利した時とは違う…怒りも入り混じった、反応だった。

 ジェイドは無言で、鞘に剣を戻す。淡々とした態度や表情は潔いが…どこか不満を押し殺したようにも見えた。

 確かに…ジェイドは止まって見えたのだ。
 
 フィリップは狩猟の時も弓を外し『魔法ばかりで腕が鈍っている』と言っていた。そんなフィリップがジェイドに勝てるだろうか?試合が開始してからずっと、ジェイドは善戦していた。
 ジェイドの剣がフィリップの頭上で止まった時…フィリップは魔法を使ったのでは無いか?魔封じのブレスレットをすり替えるなどして…。浄めの儀式に参加したマリクなら、魔道具に細工することができるだろう。フィリップはきっとマリクに命じたに違いない…。

 マリクはフィリップに加担しているが、フィリップの真の目的は知らないのだ。マリクの目的はローレンと番いになることであってローレンを殺そうと思ってはいないはず。俺はマリクに訴えようとしたが、魔法で声が出せない。

 身体も縄で縛られて身動きが取れないうちに、遂に、ローレンがフィリップの待つ試合場に現れた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした

和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。 そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。 * 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵 * 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

処理中です...