不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

文字の大きさ
上 下
34 / 51
三章

34.ローレンの家族

しおりを挟む
 ローレンは予選当日の朝も、抑制剤を服用していた。
「今日も抑制剤を飲むの?また、具合が悪くなったりしたら… 」
「魔力が弱まるだけだ。どうせ試合で魔法は使えないし…。先日具合が悪くなったのは薬を飲みすぎたからだから、心配ない 」
 でも、と言おうとすると、口付けで塞がれる。
「大丈夫、俺を信じていて 」
 俺が頷くとローレンは満足そうに微笑んだ。

 騎士祭り予選の試合は午前中から行われる。出場者は集合時間が早いためローレンは先に家を出た。

 俺は教会でローレンの無事を祈ってから試合会場へ向かった。

 会場は大変な賑わいだった。皆、一様にローレンを見にきたらしい。エドガー家の嫡男ローレンの初戦…。ベータの当主夫妻から生まれた謎の、強く美しいアルファ…。会場の視線も話題もローレンが独り占めしていた。

 会場には賭博の券を売っている者がいた。俺はその中から、ローレンの券を一枚だけ買った。ローレンに賭けても、殆ど倍率は無いらしいので一枚だけだと手数料を取られるだけでほぼ戻りはないというが…記念に。

 ローレンは王宮騎士団を辞めたため、エドガー家の私兵の隊服を着て試合場に現れた。濃紺の、飾り気のない騎士服だがローレンは誰よりも目立っている。

「ローレンは心配ない 」
「ジェイド様… 」
 ジェイドはいつのまにか俺の側に来ていた。そのまま隣に腰を下ろす。

  ジェイドの言った通り、ローレンは危なげなく、圧倒的な力の差を見せて勝ち進み、本戦への切符を手にした。
 会場は嵐のような歓声。興奮した観客は倍率の無いローレンの賭博の券を、ご祝儀だと言って試合場に投げ込んだ。投げ込まれた賭博の券は大量に宙を舞い、まるで紙吹雪のよう…。
 その中で歓声に応えて腕を振り上げたローレンは勇壮で、まるで絵画のように美しい。

「ローレンに伝えてくれ。油断するなと。特にフィリップ殿下…。それに、私 」
 私…と言うことは、今年はジェイドも出場するということか。親子対決…それも、観客は喜びそうだ。

 親子…。

「ジェイド様、すると、親子対決になりますね…?」
 俺はどうしても確認せずにはいられなかった。ジェイドは絶対に、知っているはずだ。
 ジェイドの瞳を見つめた。その瞳は薄い緑色。ローレンのように魔力が揺蕩うような光彩は帯びない…。
「…そうだな。立派に成長したな、私の息子は 」
 ジェイドは勝利したローレンを、眩しそうに見つめていた。俺には親はいないけれど、その視線には確かに、愛情があると分かった。

 ――彼らは親子だ…。どんな秘密があったとしても。


「ノアー!」
「ルカ様!」
 観客席の上から、ルカが俺に走って飛びついてきた。
「ノアの嘘つき!全然、会いに来てくれないじゃないか…約束したのに…!」
 ルカは真っ赤な顔で膨れている。俺の正面に回り込んで、膝の上に乗ってしまった。その仕草が愛らしくて、俺は微笑んだ。
「すみません…。仕事が忙しくなってしまって 」
「いつお休みが出来るの?もう待てない!」
 ルカは俺の胸を叩いて、怒っている。少し涙ぐんでもいるその様子に、申し訳なくなって頭を撫でた。
「おい、ルカ止めろ!」
「兄上!!」
 ローレンはいつの間にか観客席までやって来て、俺の膝にいたルカを持ち上げた。
「人を叩いたり…乱暴するな!お母様に言いつけるぞ?」
「ら、乱暴していません…っ!久しぶりにノアに会ったからお話していただけ!」 
 お母様に言いつける、と言われてルカは小さくなった。またルカが叱られてしまったら可哀想だ。俺が言い訳しようとしたが、ローレンは聞く耳を持たず。辺りを見回して、母親を見つけるとルカを連れて行ってしまった。
 ジェイドは俺の隣で吹き出した。
「兄弟も似てしまうんだなぁ…。どうやら趣味が同じらしい 」
 趣味が同じ…?その意味はわからなかったが、彼らがやはり兄弟で家族だと言うことは分かった。

 ローレンが運河を渡ってしまったら、家族はバラバラになってしまう。そうさせてしまって良いのだろうか?
ローレンは以前から考えていたというが…それは、どんな理由で?運河の向こうルナール公国は第二性への理解が深く薬もいいものがあるというから、俺と暮らすため…?それとも…もっと別の、何か?

 知るのが怖い。もし、アロワの言う通りだとしたらローレンと俺は…。
 
 観客席の上の方、ここから少し離れたところで、ローレンによって母親に突き出されたルカが、叱られている姿が見えた。ローレンはルカを引き渡すと、俺の方に戻って来る。

「ノア、帰ろう 」
 ジェイドの前で堂々と言われて、俺は戸惑った。しかしジェイドは動じる気配もなく、俺に手を振る。

「ルカのやつ、いつの間にノアに懐いたんだ?」
「懐いた…というか、ルカ様はすごくヤンチャで…女の召使いでは対応できなくて。それで俺が遊び相手をしていて… 」
 当時を振り返って笑うと、ローレンは不満気に目を細めた。
「ルカは、俺からいろいろ奪っていく。両親の関心、愛情、…ノアの膝の上… 」
「そんな…。それはルカ様が小さくて、歳が離れているからで、ジェイド様は… 」
 俺が言いかけると、ローレンは俺を抱きしめて口付けた。

「帰ろう。ノア… 」
「うん 」

 家族の話をしたら、孤児の俺が悲しむと思ってローレンは話を中断したのかも知れない。ローレンの優しさが温かい。家族ってたぶん、こんな温かさだ。俺たちは手を繋いで帰路に着いた。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。

天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。 成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。 まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。 黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。

白い結婚を夢見る伯爵令息の、眠れない初夜

西沢きさと
BL
天使と謳われるほど美しく可憐な伯爵令息モーリスは、見た目の印象を裏切らないよう中身のがさつさを隠して生きていた。 だが、その美貌のせいで身の安全が脅かされることも多く、いつしか自分に執着や欲を持たない相手との政略結婚を望むようになっていく。 そんなとき、騎士の仕事一筋と名高い王弟殿下から求婚され──。 ◆ 白い結婚を手に入れたと喜んでいた伯爵令息が、初夜、結婚相手にぺろりと食べられてしまう話です。 氷の騎士と呼ばれている王弟×可憐な容姿に反した性格の伯爵令息。 サブCPの軽い匂わせがあります。 ゆるゆるなーろっぱ設定ですので、細かいところにはあまりつっこまず、気軽に読んでもらえると助かります。

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

処理中です...