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三章
27.暇つぶし
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俺は無事、罰金を支払った。
罰金を受け取ったエヴラール辺境伯は執務室の机の上で罰金を数えながら、終始不機嫌そうな顔をしている。俺は恐る恐る、話しかけた。
「エヴラール辺境伯様…。まだ、謝罪しなければならない事がございます。私の結婚のことです。私は仕事が欲しいために結婚していると偽っていました。ですからマリク様の側仕えをする資格がないのです 」
でも嘘をついたきっかけは、いつの間にか俺が結婚したとエヴラール辺境伯家に伝わっていたからなのだが…。ジェイドのことを悪く言いたくはなかったので、そのことは黙っていた。
俺の告白に、エヴラール辺境伯はため息をひとつ吐いて、面倒そうに髪を掻き上げた。
「ああ、その話か。その話なら…ジェイドの奴に散々、諭された。…はぁ、全く。お前たち親子はやはり似ているな?」
「俺の親と、俺がですか?」
「そうだ。お前の母親は、私から奪って行った…金以外にも 」
「金以外に?そう言えば、エヴラール家の家宝を奪ったと… 」
エヴラール辺境伯は神妙な顔で頷く。
「そうだ…。エヴラール辺境伯家嫡男の私…の心…、初恋を奪われた 」
「はつこい?!」
「…だから息子の初恋くらいは叶えてやりたかった。しかもマリクはオメガだ。希望に沿った稀少なアルファを探す事は困難だろう…。だからこれは親心だ。ノアにわかるか…?いや、分かるまい… 」
エヴラール辺境伯はまた溜息を吐いた。確かに親がいない俺に親心は分からない。
「申し訳ありません。親子のことはわかりません。…それで、私の結婚を偽っていことの罰は… 」
「だから鈍いな!ノア!お前がその事で罰を受けるなら私も罰せられるということだ。ジェイドもな!」
「え?!それは…?」
「だから、お前の結婚話はお前とローレンの仲を引き裂こうとした私によって捏造されたと言う事だ。ジェイドに無理を言って協力させ…、これ以上言わせるな…!…ノア、お前は本当に母親に似ているな?容姿も…あまり賢くない所も…。お前がオメガなら、私の側室にしたんだが… 」
エヴラール辺境伯はそう言うと目を細めた。…本当に俺の母親が好きだった?だから俺は修道院で育ち、温情を掛けていただいたのか…?にも関わらず、俺の母親はなんて事を…。
いつの間にかエヴラール辺境伯は俺の近くまで来ていた。エヴラール辺境伯はじっと俺の顔を覗き込む。
「ノア…。お前… 」
「…?」
エヴラール辺境伯が何か言いかけた時、執務室の扉が勢いよく開いた。
「おいノア!」
マリクはノックもせずに執務室に入って来た。俺とエヴラール辺境伯を見て、眉を顰める。
「…ノア、フィリップ殿下がお呼びだ。来い 」
マリクは俺に怒鳴りつけると、直ぐに執務室を出て行ってしまう。俺が戸惑っていると、エヴラール辺境伯は俺に「行ってこい。」と言った。
俺はエヴラール辺境伯にお辞儀をして直ぐにマリクの後を追う。
「お前、ベータの癖に…所構わず男を誘うな!」
マリクにイライラと怒鳴られてしまった。先ほどの、エヴラール辺境伯との距離から誤解されたらしい。「まさか」と小声で言ったのだが、マリクは厳しい表情のままだ。
誤解が解けないうちに、フィリップが待つ貴賓室に到着してしまった。
フィリップは優雅にお茶を飲んでいる。側に控える騎士達の中に、ローレンがいる事を確認して俺はほっとした。
マリクはフィリップから見て下手のソファーに座る。俺は急いで、マリクの分のお茶を用意した。
「騎士祭り…予選もまだ始まらないんだなあ?」
フィリップはお茶を飲みながら、つまらなそうに呟いた。マリクは「ええ」とフィリップに相槌を打つ。
「今年の最終月…三週間後に予選は始まります。」
「そうか…それまで暇だなぁ…。何か、良い暇つぶしは無いか?」
「…では、狩猟はいかがです?エヴラールの森は冬に強い植物があって豊かです。鹿、猪、狼あたりもまだ、冬眠前でしょう 」
「なるほど…それなら暇つぶしだけでなく腕が鈍るのも避けられる 」
フィリップはマリクの提案にニヤリと笑った。
「マリク、発情期は終わったんだろう?案内してくれ。雪が降らないうちに行きたい。そうだな、明日にでも 」
「御意… 」
俺は少し、その提案に不安を覚えた。いくら発情期が終わったばかりとはいえ、フィリップにローレン、二人もアルファがいて大丈夫なのだろうか?しかも、マリクはローレンが好きなのだ。
「ノア、用意を頼む。弓に刀槍… 」
「か、かしこまりました!」
俺は直ぐに武器庫に走った。それに、マリクの護衛をするエヴラール辺境伯家の騎士の手配、案内をする猟師に、弁当の用意…。全てを終えると既に夜も更けていた。
今日からアロワが家に来る事になっていたのだが…明日の準備のため、宿直室で眠る事になってしまった。ローレンは夜、俺が仕事をしているところに訪ねて来てくれた。
「ノア、大変だったな。アロワには連絡して、今日は無理だと断っておいた 」
「ローレン!連絡までしてくれて、助かったよ。ありがとう…!ローレンも明日早いだろうから、早く休んで…!」
「それは…ノアの方が早いだろう?」
「でも俺は、朝、見送るまでだから… 」
俺は以前ローレンに武器の扱いを教えてもらったが全く身にならなかったのだ。騎乗も出来ず武器も使えないのだから、一緒に行くことは出来ない。
「そうか。でも早く休め…。宿直室まで送ってやる 」
ローレンに促されて宿直室へ向かう。
宿直室へ着くと別れ際、「おやすみ」と、口付けされた。
口付けされると、先日抱き合った夜のことを思い出して身体が火照ってしまう…。その夜俺は我慢できず、一人の宿直室で初めて手淫した。
罰金を受け取ったエヴラール辺境伯は執務室の机の上で罰金を数えながら、終始不機嫌そうな顔をしている。俺は恐る恐る、話しかけた。
「エヴラール辺境伯様…。まだ、謝罪しなければならない事がございます。私の結婚のことです。私は仕事が欲しいために結婚していると偽っていました。ですからマリク様の側仕えをする資格がないのです 」
でも嘘をついたきっかけは、いつの間にか俺が結婚したとエヴラール辺境伯家に伝わっていたからなのだが…。ジェイドのことを悪く言いたくはなかったので、そのことは黙っていた。
俺の告白に、エヴラール辺境伯はため息をひとつ吐いて、面倒そうに髪を掻き上げた。
「ああ、その話か。その話なら…ジェイドの奴に散々、諭された。…はぁ、全く。お前たち親子はやはり似ているな?」
「俺の親と、俺がですか?」
「そうだ。お前の母親は、私から奪って行った…金以外にも 」
「金以外に?そう言えば、エヴラール家の家宝を奪ったと… 」
エヴラール辺境伯は神妙な顔で頷く。
「そうだ…。エヴラール辺境伯家嫡男の私…の心…、初恋を奪われた 」
「はつこい?!」
「…だから息子の初恋くらいは叶えてやりたかった。しかもマリクはオメガだ。希望に沿った稀少なアルファを探す事は困難だろう…。だからこれは親心だ。ノアにわかるか…?いや、分かるまい… 」
エヴラール辺境伯はまた溜息を吐いた。確かに親がいない俺に親心は分からない。
「申し訳ありません。親子のことはわかりません。…それで、私の結婚を偽っていことの罰は… 」
「だから鈍いな!ノア!お前がその事で罰を受けるなら私も罰せられるということだ。ジェイドもな!」
「え?!それは…?」
「だから、お前の結婚話はお前とローレンの仲を引き裂こうとした私によって捏造されたと言う事だ。ジェイドに無理を言って協力させ…、これ以上言わせるな…!…ノア、お前は本当に母親に似ているな?容姿も…あまり賢くない所も…。お前がオメガなら、私の側室にしたんだが… 」
エヴラール辺境伯はそう言うと目を細めた。…本当に俺の母親が好きだった?だから俺は修道院で育ち、温情を掛けていただいたのか…?にも関わらず、俺の母親はなんて事を…。
いつの間にかエヴラール辺境伯は俺の近くまで来ていた。エヴラール辺境伯はじっと俺の顔を覗き込む。
「ノア…。お前… 」
「…?」
エヴラール辺境伯が何か言いかけた時、執務室の扉が勢いよく開いた。
「おいノア!」
マリクはノックもせずに執務室に入って来た。俺とエヴラール辺境伯を見て、眉を顰める。
「…ノア、フィリップ殿下がお呼びだ。来い 」
マリクは俺に怒鳴りつけると、直ぐに執務室を出て行ってしまう。俺が戸惑っていると、エヴラール辺境伯は俺に「行ってこい。」と言った。
俺はエヴラール辺境伯にお辞儀をして直ぐにマリクの後を追う。
「お前、ベータの癖に…所構わず男を誘うな!」
マリクにイライラと怒鳴られてしまった。先ほどの、エヴラール辺境伯との距離から誤解されたらしい。「まさか」と小声で言ったのだが、マリクは厳しい表情のままだ。
誤解が解けないうちに、フィリップが待つ貴賓室に到着してしまった。
フィリップは優雅にお茶を飲んでいる。側に控える騎士達の中に、ローレンがいる事を確認して俺はほっとした。
マリクはフィリップから見て下手のソファーに座る。俺は急いで、マリクの分のお茶を用意した。
「騎士祭り…予選もまだ始まらないんだなあ?」
フィリップはお茶を飲みながら、つまらなそうに呟いた。マリクは「ええ」とフィリップに相槌を打つ。
「今年の最終月…三週間後に予選は始まります。」
「そうか…それまで暇だなぁ…。何か、良い暇つぶしは無いか?」
「…では、狩猟はいかがです?エヴラールの森は冬に強い植物があって豊かです。鹿、猪、狼あたりもまだ、冬眠前でしょう 」
「なるほど…それなら暇つぶしだけでなく腕が鈍るのも避けられる 」
フィリップはマリクの提案にニヤリと笑った。
「マリク、発情期は終わったんだろう?案内してくれ。雪が降らないうちに行きたい。そうだな、明日にでも 」
「御意… 」
俺は少し、その提案に不安を覚えた。いくら発情期が終わったばかりとはいえ、フィリップにローレン、二人もアルファがいて大丈夫なのだろうか?しかも、マリクはローレンが好きなのだ。
「ノア、用意を頼む。弓に刀槍… 」
「か、かしこまりました!」
俺は直ぐに武器庫に走った。それに、マリクの護衛をするエヴラール辺境伯家の騎士の手配、案内をする猟師に、弁当の用意…。全てを終えると既に夜も更けていた。
今日からアロワが家に来る事になっていたのだが…明日の準備のため、宿直室で眠る事になってしまった。ローレンは夜、俺が仕事をしているところに訪ねて来てくれた。
「ノア、大変だったな。アロワには連絡して、今日は無理だと断っておいた 」
「ローレン!連絡までしてくれて、助かったよ。ありがとう…!ローレンも明日早いだろうから、早く休んで…!」
「それは…ノアの方が早いだろう?」
「でも俺は、朝、見送るまでだから… 」
俺は以前ローレンに武器の扱いを教えてもらったが全く身にならなかったのだ。騎乗も出来ず武器も使えないのだから、一緒に行くことは出来ない。
「そうか。でも早く休め…。宿直室まで送ってやる 」
ローレンに促されて宿直室へ向かう。
宿直室へ着くと別れ際、「おやすみ」と、口付けされた。
口付けされると、先日抱き合った夜のことを思い出して身体が火照ってしまう…。その夜俺は我慢できず、一人の宿直室で初めて手淫した。
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