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二章
21.オメガの発情期
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俺を襲ったジョルジュは強制労働所へ送られる事になった。ジョルジュは裁判でも抵抗し、暴れていたと聞く。ジョルジュは強制労働所送致の前、最後にノアに合わせろと言ったらしいのだが、それは叶わなかった。代わりに、ジョルジュから聖人がモチーフのメダイを受け取り、俺はそのメダイを手に、彼が改心することを祈った。
そして夜会と裁判が終わると本格的にマリクの側仕えとしての生活が始まった。人生は困難の連続…。俺はそれを再認識する事になった。
マリクの発情期が始まったのだ。
「はぁ…!熱い!窓を開けてくれ!」
「しかし…窓を開けるとその…、フェロモンでアルファが引き寄せられてしまうかもしれません。特に今、フィリップ殿下もいらっしゃいます。耐えてください 」
マリクが窓を開けようとするのを俺が止めると、マリクは癇癪を起こして、枕を投げつけ更に、俺を殴った。夜も放っておくとフラフラと出て行こうとするので、仕方なく部屋で見張っている事になり…休む暇がない。
「オメガが蔑まれる理由がわかっただろう?」
医務室に新しく着任した医師は、マリクに殴られて切れた俺の口の端を見てため息をついた。
確かに…。普通の、大多数のベータはオメガの発情期など理解できず、その様子に嫌悪するだろう。ローレンと番になれるならオメガになりたいと真剣に思った俺でさえ、オメガの発情期の苦しみを目の当たりにした今では、ベータであることに安堵してしまっている。
「本来はヒートが来る前から薬を飲んでおくんだ。ヒートがきてから慌てて飲むから効かないのだ…。次からはよく、マリク様に言い聞かせてくれ 」
「しかし抑制剤は…魔力も弱まる上、具合も悪くなるようで 」
「薬によるんだがな…。もう成人しているから、確かに完全に発情期を抑える薬となると魔力はかなり弱まる 」
ローレンも十四の頃、抑制剤のせいで魔力が弱まると言っていた。今は成人しているし、マリクと婚約したとはいえ結婚前だからもっと強い薬を飲んでいるはずだ。すると今は、魔法が使えない状態なのだろうか?俺はローレンが心配になった。
「抑制剤が嫌なら番を持つしかない。マリク様、アルファと婚約されたのだろう?簡単だ、発情期にアルファに項を噛まれれば番になる。番に精を注がれれば一晩でオメガの発情は収まるんだ。それにな、番になればお互いのフェロモン以外、影響を受けにくくなるから、アルファも抑制剤がいらなくなって楽になるんだぞ。いい事だらけだ!」
なるほど…番とはそういうものなのか。アルファも抑制剤を飲まなくて済めば、確かにローレンの負担も減るだろう。しかし…。
「しかしマリク様は辺境伯の嫡男でいらっしゃいます。それが婚姻前になど…、出来ません!なにか他に発情を軽減させる術はないのですか?!」
俺の質問に医師はしばらく唸っていたが、捻り出すように言った。
「薬の種類を変えておく。それと…、効くかは分からないが…アルファの匂いのするものを持たせれば落ち着くかもしれん 」
「匂いのするのも?」
「例えば服…。より体に密着していたものがいいだろう 」
「そうですか… 」
俺はすぐに、ローレンの服を想像した。黒地に金の刺繍の騎士服…、ローレンにすごく似合っている…。あれを、マリクに…?考えただけでドロドロとした感情が胸に渦巻く。だめだ。渡せない…。俺には出来ない。
俺はマリクの分の薬を受け取って医務室を出た。発情期は何もしなければ一週間続く。今日はようやく折返しだ。後少し…。だから大丈夫だとおれは軽く考えていた。
「はぁ…はぁ…!熱い…助けてくれ…!」
「マリク様、薬を飲みましょう!薬を飲めば楽になりますから!」
「昨日も効かなかったじゃないか!離せっ!」
「今日は処方を変えてもらいましたから、試してみて下さい!」
薬を拒否したマリクは、俺を押し退けて窓の方に向かう。慌ててしがみついて引き留めると、マリクが暴れ、その勢いのまま俺たちは床に倒れ込んでしまった。倒れた時、マリクを下敷きにしてしまい慌てて飛び退く。しかしマリクは倒れたまま動かない。
「マリク様、申し訳ありません!大丈夫ですか?!」
はあはあと荒い息のまま、虚な目でマリクは呟く。
「ノア…俺は醜いだろう?…こんなに…こんなに訳がわからなくなるくらい、どうしようもなくアルファを求めてしまう…。汚らわしい!」
マリクはぽろぽろと涙を溢している。まるで小さな子供のようだ。
「そ、そんな…そんなことは… 」
「あれだけ馬鹿にしたお前に汚物のように見られ、召使たちにさえ蔑まれ…。それなのに…ダメなんだ。欲しくてたまらない…。アルファが!」
マリクの訴えは悲鳴のようだった。マリクがとうとう自分の頭を床に打ちつけだしたので、俺はマリクを力一杯抱きしめた。
「マリク様!私がなんとかしますから落ち着いて…!」
「お前に何ができる!ベータのくせに!」
「確かに…。マリク様が暴れないように背中をさするくらいしか出来ません…!」
そう、俺はベータだからマリクの苦しみがわからない。
けれどその昔、修道院でいじめられた後はいつも『両親が迎えに来て抱きしめてくれますように』と、祈っていた。いくら蔑まれても、親の愛を求めて…。
だからマリクが蔑まれていると感じるなら、寄り添うことで少し落ち着くのではないかと思った。俺が子供の頃、そう望んだように…。
そのまま背中をさすっていると、マリクが少し落ち着いたような気がした。
「マリク様、薬、飲めますか…?」
マリクは泣きながら頷く。薬を飲んだが、まだまだ顔は赤い。マリクはまだ苦しいのか子供のようにひっくひっく…と泣きじゃくっている。
「ノア…俺にアルファを…ローレンをくれよ…。ノア、頼む。すごく、苦しいんだ… 」
マリクは泣きながら俺に訴えた。オメガの渇望…苦しみ…。幼い頃、親の愛を求めた俺に、マリクが重なる。
「…ローレン様は私が差し上げられるものではありませんが…少し待っていてください。すぐに戻ります!」
俺は部屋の外にいた女の召使に一旦マリクを預けて邸を飛び出した。昼の祈りが終わり、まだ午後。多分、ローレンたち王宮騎士団は訓練場にいるはずだ。俺は走ってローレンの元へ向かった。
ローレンは予想通り、訓練場にいた。近くにいた騎士にローレンに用があると言って、呼び出してもらう。ローレンは俺が呼び出したことに驚いた様子だったが、嫌がる素振りはなく、近づいてくる。
正面からローレンを見つめて話をするのは何年ぶりだろう…。
「ノア…?どうした?」
「ローレン様、あの…お願いがありまして。少しよろしいでしょうか…」
「…わかった 」
俺とローレンは、訓練場を出た。あの場では話しにくい事だから。訓練場を離れるとローレンは俺に向き直る。何年かぶりにローレンと目があった。でもすぐ、逸らされてしまう。
「何…?」
「あの…上着を貸していただけないでしょうか?」
「なぜ…?理由は?」
「マリク様が発情期で…。アルファの匂いがするものを待つと落ち着くとお医者様がおっしゃいまして 」
「…それで?」
「婚約者のローレン様の上着をお借りできないかと… 」
俺も思わず下を向いた。ローレンがどんな反応をするか、怖かったのだ。本当は心のどこかで『貸せない』って言ってほしいと思っているんだから。
「婚約者…?本当に婚約者だと思うなら、服ではなく『一晩過ごしてくれ』というべきなのではないか?」
…確かにそうだ。そうなのだが、俺には言えなかった。だって俺はまだローレンが好きだから…。俺は下を向いたまま、言葉を発せずにいた。ローレンもそれ以上何も言わない。
下を向いていると、ローレンが上着を脱ぐ気配がした。俺が顔を上げると、ちょうど上着を脱いで、薄いシャツ一枚になったローレンと目が合う。ローレンは俺の頭に上着をばさ…と投げて被せた。俺が自分の頭にかかった上着を取ると、もうローレンは後ろを向いて訓練場へと走っていた。
ローレンの上着、久しぶりにローレンの匂いを嗅いだ。思わずもう一度、顔を埋める。…渡したくない。誰にも、渡したくない…。
俺がマリクの部屋に戻ると、マリクは一目散に俺のところへやって来た。ローレンの上着を俺から奪ってマリクは寝台へ倒れこむ。その恍惚とした表情を見て、俺はマリクの部屋を出た。
翌日…呼ばれてマリクの部屋に入ると、マリクはかなり落ち着いた様子だった。入浴の手伝いをして、シーツなど汚れたものを回収する。その中には見るのも憚られる状態の、ローレンの上着があった。俺はそれを丁寧に、何度も洗った。オメガのフェロモンにローレンが反応するところを想像するだけで苦しいから、念入りに。ベータの俺にフェロモンを嗅ぎ分ける力はないが、乾かした後も、何度も匂いを嗅いで確認して…最後に一度だけ袖を通して、自分で自分を抱きしめてみる。すると何となく、ローレンに抱きしめられたような気分を味わえた。
上着を返しに行くとローレンは別の上着を着ていたのだが、上着を脱いで、俺が返した上着を羽織った。それは…できれば着ないでほしかったのに…。
「これ、ノアが洗ってくれた…?」
「え…ええ 」
俺はどきりとした。ひょっとしてまだ、マリクのフェロモンが残っているのだろうか?ローレンは気のない素振りで「ふうん…」と呟いたので、俺はお礼を言ってから、背を向けた。
「ノアの匂いがする 」
ローレンの言葉に俺が振り返ると、ローレンは困惑したのか、口元を抑えて俯いていた。
そして夜会と裁判が終わると本格的にマリクの側仕えとしての生活が始まった。人生は困難の連続…。俺はそれを再認識する事になった。
マリクの発情期が始まったのだ。
「はぁ…!熱い!窓を開けてくれ!」
「しかし…窓を開けるとその…、フェロモンでアルファが引き寄せられてしまうかもしれません。特に今、フィリップ殿下もいらっしゃいます。耐えてください 」
マリクが窓を開けようとするのを俺が止めると、マリクは癇癪を起こして、枕を投げつけ更に、俺を殴った。夜も放っておくとフラフラと出て行こうとするので、仕方なく部屋で見張っている事になり…休む暇がない。
「オメガが蔑まれる理由がわかっただろう?」
医務室に新しく着任した医師は、マリクに殴られて切れた俺の口の端を見てため息をついた。
確かに…。普通の、大多数のベータはオメガの発情期など理解できず、その様子に嫌悪するだろう。ローレンと番になれるならオメガになりたいと真剣に思った俺でさえ、オメガの発情期の苦しみを目の当たりにした今では、ベータであることに安堵してしまっている。
「本来はヒートが来る前から薬を飲んでおくんだ。ヒートがきてから慌てて飲むから効かないのだ…。次からはよく、マリク様に言い聞かせてくれ 」
「しかし抑制剤は…魔力も弱まる上、具合も悪くなるようで 」
「薬によるんだがな…。もう成人しているから、確かに完全に発情期を抑える薬となると魔力はかなり弱まる 」
ローレンも十四の頃、抑制剤のせいで魔力が弱まると言っていた。今は成人しているし、マリクと婚約したとはいえ結婚前だからもっと強い薬を飲んでいるはずだ。すると今は、魔法が使えない状態なのだろうか?俺はローレンが心配になった。
「抑制剤が嫌なら番を持つしかない。マリク様、アルファと婚約されたのだろう?簡単だ、発情期にアルファに項を噛まれれば番になる。番に精を注がれれば一晩でオメガの発情は収まるんだ。それにな、番になればお互いのフェロモン以外、影響を受けにくくなるから、アルファも抑制剤がいらなくなって楽になるんだぞ。いい事だらけだ!」
なるほど…番とはそういうものなのか。アルファも抑制剤を飲まなくて済めば、確かにローレンの負担も減るだろう。しかし…。
「しかしマリク様は辺境伯の嫡男でいらっしゃいます。それが婚姻前になど…、出来ません!なにか他に発情を軽減させる術はないのですか?!」
俺の質問に医師はしばらく唸っていたが、捻り出すように言った。
「薬の種類を変えておく。それと…、効くかは分からないが…アルファの匂いのするものを持たせれば落ち着くかもしれん 」
「匂いのするのも?」
「例えば服…。より体に密着していたものがいいだろう 」
「そうですか… 」
俺はすぐに、ローレンの服を想像した。黒地に金の刺繍の騎士服…、ローレンにすごく似合っている…。あれを、マリクに…?考えただけでドロドロとした感情が胸に渦巻く。だめだ。渡せない…。俺には出来ない。
俺はマリクの分の薬を受け取って医務室を出た。発情期は何もしなければ一週間続く。今日はようやく折返しだ。後少し…。だから大丈夫だとおれは軽く考えていた。
「はぁ…はぁ…!熱い…助けてくれ…!」
「マリク様、薬を飲みましょう!薬を飲めば楽になりますから!」
「昨日も効かなかったじゃないか!離せっ!」
「今日は処方を変えてもらいましたから、試してみて下さい!」
薬を拒否したマリクは、俺を押し退けて窓の方に向かう。慌ててしがみついて引き留めると、マリクが暴れ、その勢いのまま俺たちは床に倒れ込んでしまった。倒れた時、マリクを下敷きにしてしまい慌てて飛び退く。しかしマリクは倒れたまま動かない。
「マリク様、申し訳ありません!大丈夫ですか?!」
はあはあと荒い息のまま、虚な目でマリクは呟く。
「ノア…俺は醜いだろう?…こんなに…こんなに訳がわからなくなるくらい、どうしようもなくアルファを求めてしまう…。汚らわしい!」
マリクはぽろぽろと涙を溢している。まるで小さな子供のようだ。
「そ、そんな…そんなことは… 」
「あれだけ馬鹿にしたお前に汚物のように見られ、召使たちにさえ蔑まれ…。それなのに…ダメなんだ。欲しくてたまらない…。アルファが!」
マリクの訴えは悲鳴のようだった。マリクがとうとう自分の頭を床に打ちつけだしたので、俺はマリクを力一杯抱きしめた。
「マリク様!私がなんとかしますから落ち着いて…!」
「お前に何ができる!ベータのくせに!」
「確かに…。マリク様が暴れないように背中をさするくらいしか出来ません…!」
そう、俺はベータだからマリクの苦しみがわからない。
けれどその昔、修道院でいじめられた後はいつも『両親が迎えに来て抱きしめてくれますように』と、祈っていた。いくら蔑まれても、親の愛を求めて…。
だからマリクが蔑まれていると感じるなら、寄り添うことで少し落ち着くのではないかと思った。俺が子供の頃、そう望んだように…。
そのまま背中をさすっていると、マリクが少し落ち着いたような気がした。
「マリク様、薬、飲めますか…?」
マリクは泣きながら頷く。薬を飲んだが、まだまだ顔は赤い。マリクはまだ苦しいのか子供のようにひっくひっく…と泣きじゃくっている。
「ノア…俺にアルファを…ローレンをくれよ…。ノア、頼む。すごく、苦しいんだ… 」
マリクは泣きながら俺に訴えた。オメガの渇望…苦しみ…。幼い頃、親の愛を求めた俺に、マリクが重なる。
「…ローレン様は私が差し上げられるものではありませんが…少し待っていてください。すぐに戻ります!」
俺は部屋の外にいた女の召使に一旦マリクを預けて邸を飛び出した。昼の祈りが終わり、まだ午後。多分、ローレンたち王宮騎士団は訓練場にいるはずだ。俺は走ってローレンの元へ向かった。
ローレンは予想通り、訓練場にいた。近くにいた騎士にローレンに用があると言って、呼び出してもらう。ローレンは俺が呼び出したことに驚いた様子だったが、嫌がる素振りはなく、近づいてくる。
正面からローレンを見つめて話をするのは何年ぶりだろう…。
「ノア…?どうした?」
「ローレン様、あの…お願いがありまして。少しよろしいでしょうか…」
「…わかった 」
俺とローレンは、訓練場を出た。あの場では話しにくい事だから。訓練場を離れるとローレンは俺に向き直る。何年かぶりにローレンと目があった。でもすぐ、逸らされてしまう。
「何…?」
「あの…上着を貸していただけないでしょうか?」
「なぜ…?理由は?」
「マリク様が発情期で…。アルファの匂いがするものを待つと落ち着くとお医者様がおっしゃいまして 」
「…それで?」
「婚約者のローレン様の上着をお借りできないかと… 」
俺も思わず下を向いた。ローレンがどんな反応をするか、怖かったのだ。本当は心のどこかで『貸せない』って言ってほしいと思っているんだから。
「婚約者…?本当に婚約者だと思うなら、服ではなく『一晩過ごしてくれ』というべきなのではないか?」
…確かにそうだ。そうなのだが、俺には言えなかった。だって俺はまだローレンが好きだから…。俺は下を向いたまま、言葉を発せずにいた。ローレンもそれ以上何も言わない。
下を向いていると、ローレンが上着を脱ぐ気配がした。俺が顔を上げると、ちょうど上着を脱いで、薄いシャツ一枚になったローレンと目が合う。ローレンは俺の頭に上着をばさ…と投げて被せた。俺が自分の頭にかかった上着を取ると、もうローレンは後ろを向いて訓練場へと走っていた。
ローレンの上着、久しぶりにローレンの匂いを嗅いだ。思わずもう一度、顔を埋める。…渡したくない。誰にも、渡したくない…。
俺がマリクの部屋に戻ると、マリクは一目散に俺のところへやって来た。ローレンの上着を俺から奪ってマリクは寝台へ倒れこむ。その恍惚とした表情を見て、俺はマリクの部屋を出た。
翌日…呼ばれてマリクの部屋に入ると、マリクはかなり落ち着いた様子だった。入浴の手伝いをして、シーツなど汚れたものを回収する。その中には見るのも憚られる状態の、ローレンの上着があった。俺はそれを丁寧に、何度も洗った。オメガのフェロモンにローレンが反応するところを想像するだけで苦しいから、念入りに。ベータの俺にフェロモンを嗅ぎ分ける力はないが、乾かした後も、何度も匂いを嗅いで確認して…最後に一度だけ袖を通して、自分で自分を抱きしめてみる。すると何となく、ローレンに抱きしめられたような気分を味わえた。
上着を返しに行くとローレンは別の上着を着ていたのだが、上着を脱いで、俺が返した上着を羽織った。それは…できれば着ないでほしかったのに…。
「これ、ノアが洗ってくれた…?」
「え…ええ 」
俺はどきりとした。ひょっとしてまだ、マリクのフェロモンが残っているのだろうか?ローレンは気のない素振りで「ふうん…」と呟いたので、俺はお礼を言ってから、背を向けた。
「ノアの匂いがする 」
ローレンの言葉に俺が振り返ると、ローレンは困惑したのか、口元を抑えて俯いていた。
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