不遇な孤児でβと診断されたけどαの美形騎士と運命の恋に落ちる

あさ田ぱん

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一章

6.ローレンの魔法

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 修道院では朝、入浴して身支度を整える。俺は誰よりも早く起きてその湯を沸かす。早朝、ローレンは起こさないつもりだったのだが、あまり寝付けなかった様子のローレンは既に起きていた。湯を沸かすと言ったら一緒について来て、手伝ってくれる。それはすごく助かった。でも。俺は、こんな下男がするようなことを准貴族の嫡男にさせていいものかと…迷った。
 俺とローレンも手早く入浴して身支度を整え朝食を食べに食堂に行く。食堂に入ると、それまでざわざわとしていた空気が一瞬で凍った。俺と一緒に、ローレンが食堂にやって来たからに他ならない。この分では俺が懲罰房にはいるきっかけになったマリクとローレンのいざこざも含め、全て知れ渡っているな?俺とローレンが朝食を持って席に着くころには、こちらをうかがうような視線とともに、「ローレン様が何故?」「マリク様に意見して、修道院に送られたらしい…。」などのひそひそとした声が聞こえて来た。最終的に「マリク様の言いなりに修道院送りにするなんて、やっぱりエドガー家当主の本当の子じゃないんだろう…。」という声が聞こえたところで俺はついに立ち上がった。

「ノア、いいんだ。」

 立ち上がった俺を制したのは、ローレンだった。ローレンに止められたら、俺はそれ以上なにも言えない。その後は黙って、朝食を流し込んだ。朝食の後、朝の祈りを終えると各自仕事に向かうのだが…。俺は高位の神父である、ウルク司祭の部屋に駆け込んだ。

「あの、ローレン様のことなのですが…。日中はどうされるのですか?私と一緒ではありませんよね?」
「いいやノア、ローレン様はお前に任せる!」
「し、しかし私は下男で…!つまらない仕事しかしておりません!掃除など汚れる仕事もありますのでローレン様には相応しくないかと…。」
「ノア!察しろ!私も辛い立場なんだ!マリク様からはローレンを冷遇しろと言われ、エドガー家からは息子をよろしく…と言われ…。エヴラール領の双璧から逆のことを言われているのだぞ!?もう、お前に頼むしかあるまい!」
「それで、なぜ私が…!?」
「お前は家族もなく、もともとエヴラール辺境伯からは嫌われているし、無敵ではないか!」
「…… 」
 
 そう言われると、俺は何も言い返せなかった。こうして部屋だけではなく、日中も一緒に過ごさなければいけなくなった。でも、ローレンに汚れ仕事などをさせるわけにはいかない。悩んだ末に、ローレンにはランタン作りと、法衣の繕いをお願いすることにした。ローレンは裁縫は初めてと言うことで、かなり苦戦していた。しかし教えたら一生懸命する様子が、大変かわいらしく見えて自然と俺の口元が緩んでしまう。それをローレンに指摘され、俺が笑うたびローレンは「バカにしてるな?」と、俺の頬を摘んだ。隣に座って教えながら作業する、身体の距離が近くて…。照れ笑いも含めて、笑顔の理由をごまかすのに苦労した。
 ローレンは裁縫はともかく、ランタン作りは完璧だった。想像よりも作業が早く進んで材料が足りなくなるくらい…。その日は少し作業を早めに切り上げて明日、ランタンの材料を調達するため市場に行くことに決めた。明日出かけることを考慮して今日は読み書きの勉強を諦め、早めに眠る事にした。ローレンは昨夜もろくに寝ていない。今夜はぐっすり、眠れると良いのだけれど…。俺は早めに灯りを消して横になった。

「ノア…起きているか?」
「ローレン様?」
「すまない。お前に負担を掛けているな… 」
「そんな、むしろ助かっています。ランタン作りも予想より早く進んで…材料が足りなくなるくらいですし、朝も湯まで沸かして頂いて… 」
「…ありがとう…ノア。お前は本当に偉いな。俺と同じ歳なのに両親もなく、もう働いて一人で暮らしている。お前から見たら俺は滑稽だろう?親と、血が繋がっていないかもしれない…そんなことくらいで落ち込むなんて 」
  暗闇の中、表情は見えなかったがローレンの声は酷く心細いものだった。俺はたまらず、布団から起き上がる。
「それは、もともと何もなかった私と、貴方とでは…比較にはなりません。」
「そうかもしれないけれど…。俺は家族に対してずっと、違和感…疎外感を感じていた。俺と弟に対する両親の接し方は全く別のものだったから…。それでも、孤児のお前と比べれば俺は恵まれていると…お前を見るたびに安心していた。それなのに、そのお前に同情されて、ついカッとなってお前を怒鳴ってしまった。そんな酷い男なんだ、俺は。…ノア、すまなかった… 」
 ローレンの寂しげな声をきいて俺は、もどかしかった。なんと言って慰めたらいいのか、わからない。
「ローレン様…。話して頂いて、ありがとうございます。俺なんかに謝ってくださるローレン様が酷い男のはずがありません。それに嬉しかった。ロザリオを渡した時も、先日もエリーと俺を助けてくれて…。」
 俺は辿々しく思いのままに話すと、涙が溢れた。良かった…灯りを消していて…。そう思ったのだが。

 突然、手元のランプに灯りが点った。確かに消したはずなのに、なぜ…?

「…泣くなよ。ノア… 」
 
 ローレンは俺の隣に移動して、手で頬の涙を拭ってくれた。

「灯りが…!」
「ああ、これは魔法だよ。ちゃんと習ってないから簡単な事しかできないけど… 」
「す、すごいっ…!」
 驚く俺に、ローレンは照れたように笑う。
「他にもどんな事が出来るの?飛んだりとかできる?」
「いや…そこまでは全然。本当に簡単なこと。火をつけたり、消したり。あと… 」
「あと?!」
 俺が興奮して尋ねると、ローレンはふふ、と柔らかく微笑んだ。
「泣く子を泣き止ませる…!」
「…!」

 そうだ…。それは、間違いない。泣き止んだ俺は、もう一度灯りを消して『おやすみ』をいった。でも心に点いた恋の火は、目を閉じても消えないまま…。
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