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四章
54.花嫁捕まる
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今はジャメルの事件の直後で王都は取り締まりが厳しく、むしろ治安は良いはずだ。それなのに城から狼煙が上がるなんて、よほどの事だろう。王女達は無事だろうか?陛下は?
外の様子が気になった俺は、扉を少しだけ開けて外を覗いた。
外には教会所属の兵士達が大勢集まっている。たぶん、先ほどの狼煙のせいだな…。何があったんだ?
俺が顔を出した事に気付いた兵士が、怒りながら扉を閉めた。
「出てはいけません!」
「あの、城で何かあったのですか?!」
聞こえているのかいないのか、兵士達は俺の質問に答えない。
裏口なども探したがもれなく鍵が掛かっている。完全に閉じ込められた!
な、なんだよ?!何かあったのかくらい教えてくれよー!
不安だったが、どうにもならないので大人しくみんなの無事を祈りながら待った。
しばらく祈っていると、けたたましい音と共に正面の扉が開く。
逆光で顔は見えないが…美しい金の髪…。
「アルノー!」
「陛下?!」
陛下は走って俺に駆け寄って来る。
逆光で表情が見えないけど、声が怒ってる!ひいい!怖い!
俺の目の前まで来ると陛下は無言で、胸ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
それ、俺が離婚したい、って書いた便箋…?
陛下は俺の前でその手紙をビリビリに破いた。手のひらの上で細かくなった紙は開いた扉から吹く風に舞い上がり、辺りに散る。
俺は咄嗟に身を翻して逃げ出したが、すぐ陛下に捕まった。そうだ俺は、王立学校の武術の成績が中の下、運動神経が良くないんだった…!
痛いくらい腕を掴まれ引き寄せられて、抱きしめられた。
「もう、私から大切な物を奪わないでくれ!」
陛下の涙声に、俺は顔を上げた。
陛下は美しい顔に、涙を浮かべていた。
な…、泣きたいのはこっちなんだけど!
でもこの美しい人に、そんなことが言えるはずがない。
「アルノー、帰ろう?」
俺は頷けなかった。だって…。
「い、嫌です。帰ったら、貴方のお嫁さんを選ばないといけなくなる…。そんなの、耐えられない!」
「嫌なら断れば良い。お前に任せると言ったはずだ。」
「でも…テレーズ様が貴方の王子を、楽しみにしてて…!」
「はあ…。アルノーお前もまだ”後宮の呪い”に掛かっている。もうやめよう、そんな事は。」
「そんな事?!」
そんな事じゃないんだ!今、ここにある危機なんだぞ、俺にとっては!陛下は、いつの間にか流れていた俺の涙を手で拭う。
「もう呪いは無いとお前が証明した。だから終わりにしよう。」
「…ですから私は、もう後宮に必要ない…。」
そうなのだ、もう呪われない花嫁は必要ない。陛下は可愛らしい、本物の花嫁を迎えられる。
「アルノーは私に必要だ。あと、子供達にも…。今度こそ、ちゃんと家族になろう。もう、白い結婚は終わりだ。」
陛下はまた俺をきつく抱きしめた。「離さないから」と言って…。
俺たちは見つめ合って、口付け…………できなかった!
外にいた兵士たち…いや、違う。王宮の騎士団の兵士たちが教会の中になだれ込んできたのだ。
「陛下!アルノー殿下はご無事ですか?!」
「アルノー殿下を攫った犯人はどこですっ?!」
「陛下、検問の設置も完了しました!ご指示を!」
え?!俺攫われてないけど?!手紙もちゃんと、書いて置いたよ?!しかも検問?!検問で俺を捕まえようとした?!
「敵は後宮にいる!戻るぞ!」
陛下?!どういう事?!
兵士たちも陛下と俺を見て、訝しげな顔をしている。
よく分からない…。事態が飲み込めない…。
大量の疑問符を浮かべている俺と兵士たちの前に、マルセルが現れた。
「狼煙をあげて、騎士団を連れて、検問敷いて陛下が探してたのはアルノーなのか?でもアルノーは攫われたとかじゃなく、普通に馬車で教会に来たよな?あ、ひょっとして喧嘩して飛び出して来たとか?それで陛下に探されてたってことであってる?」
そうなの?!あの狼煙、俺を探すため?!それでこんなに騎士団も動員しちゃったの?!検問まで?!
動揺する俺と兵士たちに、陛下はもう一度号令をかける。
「後宮に戻る。引き続き警戒は続けろ!」
ねえ、何の警戒?!
俺と騎士団の兵士たちは心の中で突っ込んだが、陛下は平然としている。しかしそのおかげで、王都は豊穣祭のため内外からの人でごった返していたのに、すこぶる治安が良かったのだとか…。
外の様子が気になった俺は、扉を少しだけ開けて外を覗いた。
外には教会所属の兵士達が大勢集まっている。たぶん、先ほどの狼煙のせいだな…。何があったんだ?
俺が顔を出した事に気付いた兵士が、怒りながら扉を閉めた。
「出てはいけません!」
「あの、城で何かあったのですか?!」
聞こえているのかいないのか、兵士達は俺の質問に答えない。
裏口なども探したがもれなく鍵が掛かっている。完全に閉じ込められた!
な、なんだよ?!何かあったのかくらい教えてくれよー!
不安だったが、どうにもならないので大人しくみんなの無事を祈りながら待った。
しばらく祈っていると、けたたましい音と共に正面の扉が開く。
逆光で顔は見えないが…美しい金の髪…。
「アルノー!」
「陛下?!」
陛下は走って俺に駆け寄って来る。
逆光で表情が見えないけど、声が怒ってる!ひいい!怖い!
俺の目の前まで来ると陛下は無言で、胸ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
それ、俺が離婚したい、って書いた便箋…?
陛下は俺の前でその手紙をビリビリに破いた。手のひらの上で細かくなった紙は開いた扉から吹く風に舞い上がり、辺りに散る。
俺は咄嗟に身を翻して逃げ出したが、すぐ陛下に捕まった。そうだ俺は、王立学校の武術の成績が中の下、運動神経が良くないんだった…!
痛いくらい腕を掴まれ引き寄せられて、抱きしめられた。
「もう、私から大切な物を奪わないでくれ!」
陛下の涙声に、俺は顔を上げた。
陛下は美しい顔に、涙を浮かべていた。
な…、泣きたいのはこっちなんだけど!
でもこの美しい人に、そんなことが言えるはずがない。
「アルノー、帰ろう?」
俺は頷けなかった。だって…。
「い、嫌です。帰ったら、貴方のお嫁さんを選ばないといけなくなる…。そんなの、耐えられない!」
「嫌なら断れば良い。お前に任せると言ったはずだ。」
「でも…テレーズ様が貴方の王子を、楽しみにしてて…!」
「はあ…。アルノーお前もまだ”後宮の呪い”に掛かっている。もうやめよう、そんな事は。」
「そんな事?!」
そんな事じゃないんだ!今、ここにある危機なんだぞ、俺にとっては!陛下は、いつの間にか流れていた俺の涙を手で拭う。
「もう呪いは無いとお前が証明した。だから終わりにしよう。」
「…ですから私は、もう後宮に必要ない…。」
そうなのだ、もう呪われない花嫁は必要ない。陛下は可愛らしい、本物の花嫁を迎えられる。
「アルノーは私に必要だ。あと、子供達にも…。今度こそ、ちゃんと家族になろう。もう、白い結婚は終わりだ。」
陛下はまた俺をきつく抱きしめた。「離さないから」と言って…。
俺たちは見つめ合って、口付け…………できなかった!
外にいた兵士たち…いや、違う。王宮の騎士団の兵士たちが教会の中になだれ込んできたのだ。
「陛下!アルノー殿下はご無事ですか?!」
「アルノー殿下を攫った犯人はどこですっ?!」
「陛下、検問の設置も完了しました!ご指示を!」
え?!俺攫われてないけど?!手紙もちゃんと、書いて置いたよ?!しかも検問?!検問で俺を捕まえようとした?!
「敵は後宮にいる!戻るぞ!」
陛下?!どういう事?!
兵士たちも陛下と俺を見て、訝しげな顔をしている。
よく分からない…。事態が飲み込めない…。
大量の疑問符を浮かべている俺と兵士たちの前に、マルセルが現れた。
「狼煙をあげて、騎士団を連れて、検問敷いて陛下が探してたのはアルノーなのか?でもアルノーは攫われたとかじゃなく、普通に馬車で教会に来たよな?あ、ひょっとして喧嘩して飛び出して来たとか?それで陛下に探されてたってことであってる?」
そうなの?!あの狼煙、俺を探すため?!それでこんなに騎士団も動員しちゃったの?!検問まで?!
動揺する俺と兵士たちに、陛下はもう一度号令をかける。
「後宮に戻る。引き続き警戒は続けろ!」
ねえ、何の警戒?!
俺と騎士団の兵士たちは心の中で突っ込んだが、陛下は平然としている。しかしそのおかげで、王都は豊穣祭のため内外からの人でごった返していたのに、すこぶる治安が良かったのだとか…。
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