絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮

あさ田ぱん

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四章

50.愛する人

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 私は手紙を読んで、震撼した。アルノーに愛の告白をするだと…?そんなまさか…しかも…!
「召使のメアリーが…ジャメル・ベルだと…?!すると…!」
 何と言うことだ!ジャメル・ベルが召使のメアリーに化けていたということか…!しかも私はジャメル・ベルに騙されて、後宮を出てしまった…。狙いは当然、アルノーだ…。まさか、城でナタと合流してアルノーを人質に、逃げるつもりか…?!
「アルノーの召使は修道女のはずだ!教会に連絡して、メアリーという召使を調べてくれ!急げ!」
「畏まりました!陛下は…?」
「私は急ぎ、城へ戻る!」
 ああ、何ていうことだ…!私はなんて愚かなんだ…!無事でいてくれ!もうこれ以上、大切なものを失いたくない…!

 私は馬を走らせ、来た道を戻り城へ向かった。






「メアリー!」
「ジャメル!なんで…!」

 ジャメル…メアリーはナタに後ろから剣で刺され、俺の上に倒れこんだ。俺もメアリーを支えられずその勢いのまま一緒に床に倒れた。メアリーからは大量の血が流れている。はあはあと荒い息を吐いた後、メアリーは虚ろな目を俺に向けた。

「アルノー様…お怪我は…?」
「メアリー、傷に響く!喋るな…!いまヒューゴを呼んで…」
 メアリーは返事の代わりに、大量の血を吐いた。
「ジャメルッ!」
 ナタは泣きながら、メアリーに縋りつく。しかしメアリーはナタを見ずにまた、俺に虚ろな目を向けた。
「アルノー様…ジャメルはあなたに恋をしたとき、死にました。最期はメアリーと…。」
「メ、メアリー!!」

 メアリーは崩れ落ち、身体をさすったがピクリとも動かない。
 
 俺はメアリーを抱きしめた。
縋りついて泣いていたナタは立ち上がり、メアリーに刺さっていた剣を引き抜く。

「ジャメルを殺したのはお前だ…。お前さえいなければ…!」
「…ナタ…!」

 ナタは涙を流し、メアリーの血がついたままの剣を握り直すと、声にならない叫び声を上げながら俺に向かって切りかかった。

 その時、外から騒がしい音がして、一瞬だけナタが気を取られ動きを止める。瞬く間に鏡の間の扉が開き、暗闇に一気に光が降り注いだ。

眩しい…!

 扉を開けた者たちは全員手に灯りを持っている。ナタもあまりの眩しさに、目を瞑って、俺への攻撃を中断した。

「アルノー!」

 陛下と、明かりを手にした兵士たちが鏡の間になだれ込んできた。兵士たちは迷いなく、ナタを捕まえ拘束する。ナタは気が触れたように、奇声をあげながら抵抗していたがあっという間に縄を掛けられた。
 
助かった…!しかし…。

「陛下…!メアリーが…!ヒューゴを呼んでください!早く!」
「アルノー!」

 陛下は俺に駆け寄って、俺の上に倒れているメアリーを慎重に持ち上げて床に寝かせると、近くの兵士に視線で合図した。兵士はメアリーの腕の脈と首筋を触り心拍を確認している。
  兵士は陛下の方を見ると、首を横に振った。

「既に、こと切れております。」
「そうか…。」

 兵士と、陛下の会話に、目の前が暗くなる。
 陛下は俺の全身を見てから、手を握った。

「怪我はないか?血が酷い…。」
「メアリーが俺を庇って、ナタに刺されて…私は何も…でも…。」
 俺が動揺して捲し立てると、陛下は俺を抱きしめた。
「無事で良かった…!」
「陛下…!」

 俺は陛下の胸に縋りついて泣いた。

 捕えられたナタが俺に向かって叫ぶ。

「ジャメルを殺したのはアルノーだ!アルノーが、ジャメルを殺したんだ!ジャメルも言っていた…。」

 確かに…俺が陛下を遠ざけなければ、二人を命がある状態で、捕まえられていたのではないか?俺が…自ら罪を告白してくれなんて、言わなければ…。
 俺は考えると、涙が止まらなくなった。

 陛下は俺を抱きしめたまま、兵士にナタを連れて行くように命じた。

 ナタも泣いていた。
「お前に恋なんて…。馬鹿だ、ジャメルは。」

 それは愛する人を失った、心からの涙だった。
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