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二章
24.酒と泪と陛下とひねくれ者の花嫁
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俺は幸せな気持ちのまま寝室の布団に潜り込んだ。直ぐに眠気が来て、もう夢の中…。既の所で、扉をコツコツと叩く音に起こされた。陛下の部屋の扉からだ。陛下…?まさか?
俺は起き上がって、恐る恐る、寝室の奥にある陛下の部屋に続く扉を少しだけ引いた。鍵はかかっておらず、光が漏れてこちらに伸びてくる。
「アルノー、まだ起きているか?」
「陛下?!」
扉のすぐそばには陛下がいた。
「まだ起きているなら少し、飲み直さないか?」
「え…でもその…。」
今日は何も支度をしていないんだけど…どうせいつも何もないからこのままで良いだろうか?でも…。
「では、支度して参ります。」
「いや、そのままでよい。」
そのままだと、メイドさんなのだ、俺は…!!今日は先触れなどは無かったからメアリーに取り上げられなかった上着を羽織って、扉を開けた。
「…いつもその格好なのか?」
「これ以外、取り上げられてしまったのです。」
「そうか…。」
ほらぁ!陛下に不審がられてしまった!もうこの服はやめさせる!絶対!
扉の向こうは陛下の寝室で、それを通り抜けると、応接室。想像していたより華美な部屋ではない。でも落ち着いた瀟洒な飾りのある素敵な部屋だ。
テーブルの上にはお酒と、果物など軽食が用意してある。テーブルの前のソファーに座るように案内され腰掛けた。
「今日はどうしても飲みたくなってしまった。付き合ってくれ。」
陛下は俺の反対側に座るとグラスに果実酒を注いだ。
「あ、私が…!」
「いや、いいんだ。さぁ、乾杯しよう。」
陛下は俺に果実酒が並々と注がれたグラスを差し出した。俺、あんまり飲めないんだけど…大丈夫だろうか?
陛下は俺のグラスに自身のグラスを合わせると「乾杯」と言って、果実酒を一気に飲み干した。顔色は全く変えない。
「アルノーに礼を言わなければならない。ありがとう…。今日の準備をしてくれたこと、それにリリアーノがあんな、立派な挨拶をしたのは、アルノーのおかげだ。」
「いえ!私は孤児院に行っただけです。それに今日の会は太后様がおっしゃったことですし…私はなにも…。」
「アルノー…。王妃たちが亡くなってから食事の場は決して楽しいものではなかった。アルノーが来てからまた以前の様に話ができる様になったんだ…。それに母上のことも聞いた。…ありがとう。」
陛下は向かい合った俺のことをじっと見つめて微笑んだ。俺は酒も飲んでいないのに、頬に熱が集まるのを感じる。これはまずい!とりあえず飲んでおかないと、言い訳できない。俺は思い切りグラスの中の酒を煽った。
俺がグラスを置いても、陛下は俺から目をそらさない。俺は酒を煽ったからか、目の前の陛下に見惚れ過ぎたからなのか、この状況に目眩がしそうだった。
「貴族の結婚は相手を選べない。まさにお前がそうだな…?私も、今まではそうだった。でもアルノーは私が選んだんだ。一年前の私を、今は褒めてやりたい。」
「陛下が…?お会いしたことは無かったと思いますが…?」
「会ってはいない。アルノーの調査報告書を見て決めたんだ。善良で真面目な男、と書いてあったから、それで…。その、調査報告書は正しかった。」
陛下は酒のせいなのか、顔が少し赤くなっている。美しい碧い瞳は瞬きもせず、俺を見つめたまま。
「いえその報告書は誤っています…私は捻くれてしまって…。」
陛下に愛される事はない後宮の雑務と子育て担当というだけの男のはずなのに、見つめられると胸が締め付けられる。陛下からおやすみのキスを欲しがって…今だって…。ああ、ほら、捻くれてる…!
俺は陛下の視線に耐えきれずに、手酌で二杯目を煽った。目の前がぼやけたのは酒のせいなのか花粉の薬のせいなのか、はたまた、溢れ出た涙のせいなのか…。
陛下は俺の涙を手で拭ったので、俺はその優しい掌に思わず頬擦りした。
俺は起き上がって、恐る恐る、寝室の奥にある陛下の部屋に続く扉を少しだけ引いた。鍵はかかっておらず、光が漏れてこちらに伸びてくる。
「アルノー、まだ起きているか?」
「陛下?!」
扉のすぐそばには陛下がいた。
「まだ起きているなら少し、飲み直さないか?」
「え…でもその…。」
今日は何も支度をしていないんだけど…どうせいつも何もないからこのままで良いだろうか?でも…。
「では、支度して参ります。」
「いや、そのままでよい。」
そのままだと、メイドさんなのだ、俺は…!!今日は先触れなどは無かったからメアリーに取り上げられなかった上着を羽織って、扉を開けた。
「…いつもその格好なのか?」
「これ以外、取り上げられてしまったのです。」
「そうか…。」
ほらぁ!陛下に不審がられてしまった!もうこの服はやめさせる!絶対!
扉の向こうは陛下の寝室で、それを通り抜けると、応接室。想像していたより華美な部屋ではない。でも落ち着いた瀟洒な飾りのある素敵な部屋だ。
テーブルの上にはお酒と、果物など軽食が用意してある。テーブルの前のソファーに座るように案内され腰掛けた。
「今日はどうしても飲みたくなってしまった。付き合ってくれ。」
陛下は俺の反対側に座るとグラスに果実酒を注いだ。
「あ、私が…!」
「いや、いいんだ。さぁ、乾杯しよう。」
陛下は俺に果実酒が並々と注がれたグラスを差し出した。俺、あんまり飲めないんだけど…大丈夫だろうか?
陛下は俺のグラスに自身のグラスを合わせると「乾杯」と言って、果実酒を一気に飲み干した。顔色は全く変えない。
「アルノーに礼を言わなければならない。ありがとう…。今日の準備をしてくれたこと、それにリリアーノがあんな、立派な挨拶をしたのは、アルノーのおかげだ。」
「いえ!私は孤児院に行っただけです。それに今日の会は太后様がおっしゃったことですし…私はなにも…。」
「アルノー…。王妃たちが亡くなってから食事の場は決して楽しいものではなかった。アルノーが来てからまた以前の様に話ができる様になったんだ…。それに母上のことも聞いた。…ありがとう。」
陛下は向かい合った俺のことをじっと見つめて微笑んだ。俺は酒も飲んでいないのに、頬に熱が集まるのを感じる。これはまずい!とりあえず飲んでおかないと、言い訳できない。俺は思い切りグラスの中の酒を煽った。
俺がグラスを置いても、陛下は俺から目をそらさない。俺は酒を煽ったからか、目の前の陛下に見惚れ過ぎたからなのか、この状況に目眩がしそうだった。
「貴族の結婚は相手を選べない。まさにお前がそうだな…?私も、今まではそうだった。でもアルノーは私が選んだんだ。一年前の私を、今は褒めてやりたい。」
「陛下が…?お会いしたことは無かったと思いますが…?」
「会ってはいない。アルノーの調査報告書を見て決めたんだ。善良で真面目な男、と書いてあったから、それで…。その、調査報告書は正しかった。」
陛下は酒のせいなのか、顔が少し赤くなっている。美しい碧い瞳は瞬きもせず、俺を見つめたまま。
「いえその報告書は誤っています…私は捻くれてしまって…。」
陛下に愛される事はない後宮の雑務と子育て担当というだけの男のはずなのに、見つめられると胸が締め付けられる。陛下からおやすみのキスを欲しがって…今だって…。ああ、ほら、捻くれてる…!
俺は陛下の視線に耐えきれずに、手酌で二杯目を煽った。目の前がぼやけたのは酒のせいなのか花粉の薬のせいなのか、はたまた、溢れ出た涙のせいなのか…。
陛下は俺の涙を手で拭ったので、俺はその優しい掌に思わず頬擦りした。
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