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二章

19.八男の花嫁、慌てる

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 ヒューゴが帰り支度をほぼ終えた時、リディアが部屋に駆け込んできた。

「リディア?」
「アルノーとヒューゴに来てほしいの。リリアーノが…っ!」
「リリアーノが?!」

 俺とヒューゴはリディアに促されてリリアーノの部屋に向かった。部屋に入るとリリアーノは寝台の上にいた。布団をかぶり蹲ってガタガタと震えている。

「ついに私も呪われてしまったの…!」
「なんだって?!」
「まさか、湿疹が…?!」
 リリアーノの言葉に俺とヒューゴは立て続けに質問を浴びせた。リリアーノは布団の中から青い顔を覗かせ、目を潤ませている。

「ち…ちがうの。しゅ…出血しているの…お手洗いにいったら…。」
「血が…?!」
 俺は驚いてヒューゴを振り返った。するとヒューゴは無言でリリアーノに近づいていき、そっと背中をさすった。

「リリアーノ王女殿下。ひょっとして…下腹部に痛み…不快感などもありますか?」
「…うん…。」
「そうですか…それは多分…。おめでとうございます。」
 ヒューゴはリリアーノを覗き見て微笑んだ。俺はまた頭に疑問符が浮かんだ。出血したのに、“おめでとうございます”、とは?リディアも訳が分からずぽかん、としている。

 そんな俺たち三人を、ヒューゴはため息交じりに見つめた。
「リリアーノ王女殿下は初潮を迎えられた。後宮にはその、準備があるはずですが…何もされていないのでしょうか?アルノー様、女性の召使を呼んでください。知っているはずです。」
 初潮と聞いて、さすがの俺でも事態を飲み込んだ。「す、すぐに…!」と言って慌ててメアリーを呼びに行くため俺は部屋を飛び出した。メアリーに急いで用意をしてくれというと「なぜ私が…?!業務外です!」と憤っていたがなんとかお願いして用意してもらった。


「月経は月の満ち欠けに似ています。決まった日数で繰り返し、月の周期で言うと新月に受胎するのです。それはだいたい、周期の真ん中、とも言われています。」
「なるほど…!」

 ヒューゴは医学書を開きながら、リリアーノとリディアに月経と受胎について説明してくれた。俺も一緒に聞けと言われて同席したのだが…。ヒューゴは流石医師。詳しい説明で感動した。受胎とは神秘だ。

「なるほど、じゃ、ありません。あなたが無知な事に驚きました。そんな事で、後宮の王妃…王配としてやっていけるのですか?後宮の仕事が何なのかご存知ですか?」
「は、はぁ…。」
 それはいずれ陛下が子を成すため、側妃か愛妾を娶った時に、という事?でもそれが出来るならそもそも俺、いらないと思うよ?

「ヒューゴ!アルノーを虐めないで!」
「そうよ!いいのよ、アルノーは!アルノーはねぇ、私たちの兄妹みたいなものなの!」
「兄妹?!」
 ヒューゴは目を瞬いた後、吹き出した。あーっ!陛下に続いて王女達からも子供扱いされてる...!俺は愕然とした。この感じ既に、王女たちにも陛下に俺が抱かれてない、白い結婚だってバレてる?!

「驚きました…アルノー様。あなたにはいつも驚かされます。」

 ヒューゴはひとしきり笑った後、月経痛に効くと言う煎じ薬を置いて、部屋を出た。俺もヒューゴについて、リリアーノの部屋を後にする。

 ヒューゴは別れ際、俺に諭すように話した。

「市井の子供達の初潮は十三歳以上が多いのですよ。王族は栄養状態がいいから早い傾向にあるようだ。リリアーノ王女殿下は勿論、リディア様も、もう十を超えていますから、閨の教育が必要でしょう。ここ数年で、大人の女性…王妃達が後宮を去り、その教育は全くの手付かずのご様子。その下の王女達もいるのですから早く手を打たねばなりません。」
「そ、それはそうですね…!」
「教師は経産婦が良いでしょう。家柄の良い貴族を当たって下さい。」
「家柄の良い貴族…ですか…。」

  俺は一つだけ、心当たりがあったので、早速筆を取った。
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