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二章

18.謎行動の男たちに翻弄される花嫁

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「アルノー様、今日からはいつ何が起こっても良いように、夜着はこれにいたしましょう。」
 メアリーは自信満々に、夜着だと言うものを広げた。
「なんだよこれ!?メイド服?!」
 その服は深い緑の生地に白いヒラヒラした襟がついたワンピースで、カチューシャまでついている。そう、それはつまり後宮の召使達の制服だ。

「アルノー様仕様に胸周りはぺたんこ、腰は寸胴に仕立て直しております!ちゃんとおそろいの色のはしたない…小さい布地に紐の下着付きです!着丈は通常の長さのものと丈が短いものと二つご用意がございます。着衣のまま挑まれる場合は丈が短い方がおすすめです。全く!二つも作らされて、なかなかの時間を要しました!あー手が痛かった!」
 メアリーは自分で仕立てたらしいその夜着と下着を「苦労させやがって」というよう俺に手渡した。好きで煩わせたんじゃない!だって胸がないのも寸胴なのも男なんだから仕方ないじゃないか!しかも何?着衣のまま挑むって…脱がされないの前提?!俺は怒ろうとしたが怒りを通り越して呆れてしまったので、メアリーには何も言わないことにした。

「鍵は掛けられておりますが、いつ、陛下がこちらにいらっしゃるか分かりませんから万全を期してください!そのために一人後宮に残され、引っ越しを私一人で行うハメになったのですから!」

 メアリーは孤児院に行きたくないがために逃げたと思っていたが、実は陛下に命じられて引っ越しの作業をしていたらしい。今、後宮の召使は数が激減しているのでかなり大変だったとメアリーは怒っている。だからしっかり、決めろ、というわけ…。

「色気も素っ気もない男のアルノー様ですから、これまでのお色気作戦は失敗に終わりました。ですのでこれからは陛下のご趣味に寄せる作戦で参ります。」
「陛下の趣味?」
「そうです。陛下の愛妾ジョゼット様は元召使、アルノー様が輿入れする一年前に死亡した恋人も召使…全員おっぱいの大きくて可愛いメイドさんなのです!カーッ!男の夢ですねぇ…!」
「え!?俺が輿入れする一年前に…恋人が亡くなった?」
 そう言えばナタが、ヒューゴが四人の妃を見殺しにした、と言っていたな…。王妃に側妃、愛妾ともう一人いたと言うことか…?
「そのようですね。その女も“呪われていた”そうです。おいたわしや…。」
 つまり彼女も湿疹が広がって亡くなった、ということなのか…。その「湿疹」というのはどのようなものなのだろうか?何が原因だ?その原因が分かれば、呪いではないというのも証明できるはずだが…。

 …王妃や側妃、愛妾が亡くなってからも、俺が花嫁候補として決まる半年前まで陛下には恋人がいたということは……それでは俺にはかなり、不満だっただろう…。

 あ、また鼻の奥がツーンとしてきた。か、花粉だな、また…!

 メアリーはメイド服以外の夜着を全部片付けてしまったので、俺は仕方なくメイド服を着て眠ることにした。念のため、、準備万端だったのだがその夜、寝室の扉が開くことはなかった。


 翌日俺は無駄に顔色が良かった。昨日、もちろん何もなかったからぐっすり眠れたし閨の準備の一環でヒューゴに貰った乾燥に効く薬を塗っていたからお肌もツルツルだったのだ。...それなのに、急に具合が悪くなってしまった。原因はこの二人。ナタとヒューゴがまた俺の部屋に来たからに他ならない。

「こちらの部屋は相変わらず、素晴らしいですね。日差しが柔らかく感じます。」
「ふん、ずいぶん褒めるじゃないか。ここはお前が呪われている、と言った場所だぞ?それに随分、貴族のサロンに顔を出しているらしいな…何を考えている。いい加減、正体を現せ。」
「なんとまあ、酷い言われようだ。私はあなたと違って星詠みの仕事をしているだけですよ。あなたは主治医の契約を切られて、仕事がないのでしょうが私は求められている…。」
「ふん…星詠みが求められているのか?本当に…?」

 ナタとヒューゴの二人は穏やかな口調で罵倒し合い言い、怪しく笑っている。
 辞めてえっ!俺の部屋で舌戦を繰り広げるのは…!!あー、胃が痛い!
 
「残念だったな。アルノー殿下がお帰りになり、王妃の間に移られた。当てが外れただろう?」
「いえ…とんでもない。これでより一層、私の星詠みの力が必要となるはずです。」
「なぜ?二人はもう、以前の王妃同様…強い絆で結ばれたのでしょう?今更恋占いなど必要ない。」
「それはどうでしょう、ふふふ…。」

 いや、強い絆では結ばれてないよ!?だってそもそもまだ結ばれてないんだから…!
 だからそんなに睨みあわないでくれっ!
 ヒューゴは俺の診察、ナタは俺の新しい部屋を見に来ただけのようだったのだが。とにかく二人は折り合いが悪い。決着がつかず、最後はヒューゴがナタを追い出した。

「アルノー様、湿疹は完全に治りましたね!ただ、フォルトゥナの花の最盛期は今です。本格的に熱くなるころに終息となりますので、それまで飲み薬は続けてください。」

 俺は頷いて、薬を受け取った。ヒューゴもナタがいない今は笑顔だった。

「この薬、どうやって作っていると思いますか?」
「作り方ですか…?うーん、全くわかりませんが…。」
  俺の答えにヒューゴはまた笑った。何だろう?そんなにおかしかった?
「騎士団に見張られながら、城にある材料を使い、城で調剤しているのです。陛下は私を疑っているのか、あなたが心配なのか、どちらだと思いますか?」
「え……、と…前者でしょうか?」
「私も初めはそう思っていました。しかし…先日、陛下はあなたが花粉で涙を流していた、と言うのを私に確かめさせました。私が薬は良く効いているようだがどちらとも言えないと報告した後…、あなたと泊まりがけで出かけて、部屋も移してしまわれた。意外でした。陛下はもう…。」
「もう…?」
 ヒューゴは柔らかく微笑んだ。
「続きは陛下にお尋ね下さい。」
 大量に疑問符が浮かんだ俺を無視して、ヒューゴは帰り支度を開始している。
 なんでそんな、含みをもつ言い方をするんだろう?この男といい、陛下といい…。

「アルノー!ヒューゴ!」

 ヒューゴが帰り支度をほぼ終えた時、リディアが部屋に駆け込んできた。
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