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二章

13.招かれざる客の付添をする花嫁

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 王家の縁続きであるデュポン公爵家のサロンには優秀な音楽家達が集まると言う。豊穣祭ではその音楽家達の協力が必要不可欠だ…。
 
 デュポン公爵家のサロンが開かれる美しい庭園に、夜闇の精霊が舞い降りた。
 その名はナタ。漆黒の艶やかな髪を靡かせて、弦楽器ヴァイオリンを弾く姿は精霊にしか見えない。しかもその奏でる旋律の甘美なことといったら…。

 ヴァイオリンなど楽器は貴族の嗜みだ。勿論俺も少しは弾けるのだが、見た目も演奏も平凡な俺がナタの演奏の後に弾くなんて結婚式以来の公開処刑だろう。

「豊穣祭でも是非、ナタ様の演奏をお聴きしたいわ!」
「ナタ様なら、舞を舞っていただいた方が良いのではないですか?」
「声も素敵だから歌も聴いてみたいわ~!」
「豊穣祭ではナタ様が指揮を取られるのでしょう?後宮に入られたのですから!」

 夫人達はナタを讃え、羨望の眼差しを向けた。

「いえ、豊穣祭はアルノー殿下が采配を振るわれます。私は後宮に部屋を頂いただけですから。」

 ナタの回答に、サロンに集まった人の視線が急に俺に集まった。
 やめてっ!見ないでー!わかってます。誰も俺の舞なんか見たくないってことは!

 夫人達は俺を見ながら「残念ねぇ…」と言い、それからナタに視線を戻すとため息をついた。

 陛下からいただいた招待状には確かに俺の名前と陛下の名前が記されていた。しかし、陛下が参列できないと知ったナタが勝手について来たのだ。
 サロン会員達はほぼ全員ナタの神がかりを見ていたようで、ナタの来訪を歓迎した。

 招かれざる客なのにだよ?!

 むしろ俺の方が付き添いのようになってしまった。

 俺に声を掛けるものは皆無…いや、二人いた。
 彼女達はデュポン公爵家の子女。

「えーと、君たち、いくちゅ?」
 俺は思わず”ちゅ”と言ってしまった!
「「みっつ!」」
 声が揃った!どうやら二人は双子のようだ。お揃いのドレスが可愛らしい。
「そっかぁ~。どうしたの?だれか待ってるの?」
「「かあさま!」」
「そーなんだ。でもまだ終わらなそうかな…。もう少し待ってられる?」
 二人はうるうるして、ついに泣き出した。うわーん、と二人が泣くと、周囲から「泣き止ませろ」という冷たい視線が俺に送られた。

 俺は仕方なく、二人と遊ぶことにした。広大な公爵家の庭を使用して鬼ごっこに、かくれんぼ。俺が一生懸命二人を追いかけて遊んでいると、公爵家の執事が血相を変えて追いかけて来た。
「これから二人は勉強の時間なのに、こんなに疲れさせてしまって!!困りますっ!」
「え?三歳なのに、勉強?!」
「お二人はシャーロット王女殿下の御学友候補ですから当然です。さ、家庭教師が参りました。行きますよ!」
 公爵家の執事は有無を言わさず二人をつれていってしまった。

 まずいな…シャーロット、乳母がいなくなってから遊んでばっかりだ!!他の王女達も家庭教師がいなくなってしまって、勉強が遅れているのではないか?乳母と家庭教師の件、なんとかしなければ!

 また頭の痛い課題が浮き彫りになったところで、サロンはお開きになった。
 帰り際ナタは引き止められ、多くの貴族から茶会や夜会に来てくれと誘われていた。

 招かれざる客なのにだよ?!

 ねえ俺が招待客だったってみんな覚えてる?!
 いや、いいんですよ、別に俺は。ただ豊穣祭の時にこのサロンメンバーの演奏家達に協力してもらえればそれで…。
 
 正式な客である俺は誰にも引き止められずに、帰路についたのだった。
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