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一章

5.どうやら子育てと仕事の両立を要求されているようです

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 朝食を終えた俺は自室で、末の王女シャーロットと遊んだ。いや…遊ばされて…いや、召使のように扱われていた。
「いやーっ!だめぇー!」
  髪が邪魔そうだから縛ってやったらキレられた。どうやら大変な癇癪持ちの模様。メアリーも呆れて、そっと姿を消してしまった。…あいつ、また逃げやがった!

 遡ること一時間前…。
 朝食後、メアリーに匹敵する年老いた老紳士がげっそりとした表情で俺のところにやって来た。

「アルノー殿下。実は末のシャーロット王女殿下の事なのですが、昨日から乳母が風邪を引きまして、本日も風邪が拗れたとのことで休んでおり…他に乳母がおらず、難儀しております。」
 俺は風邪、と聞いてピンと来た。この、後宮にだけ流行してる風邪だろ?!どうせ!
「はぁ、でもシャーロット王女は三歳だから乳離はしているでしょう?乳母でなくても…。」
「乳母といっても母親代わりでしたので代役がなかなか…」
 母が亡くなって、乳母にまで逃げられた…シャーロット王女に同情した俺は快く遊び相手を引き受けてしまったのだ。

「わぁーーーん!」
「じゃ、やっぱり解く?」
「いゃぁーーーっ!」
「結び方が違った?」
「きぃーーー!!」
 手がつけられない!だめだこりゃ!

 俺は孤児院にいたし、自分も八人兄弟の末っ子だから子供の扱いは慣れてる!そう思っていたが、女の子は全然違うな。孤児院も、俺の兄弟も男ばっかりだったから初めての女の子に困惑した。どうしたら良いかわからない。ただ何か不満なのだろう。
 俺は考えうる全てを提案したがダメだった。仕方なく、シャーロットを抱っこして泣き止むのを待つことにした。次第に「結び方が乳母と違うこと」「リボンの色が嫌だったこと」が判明し、ようやく解決に至ったのはもう、まもなく昼食という時間だった。
 シャーロットは泣き疲れて眠ってしまった。

 シャーロットが泣き止んだ頃、現れたメアリーは「昼食はどうなさいますか?」と聞いて来た。
「俺は良いや…。シャーロット王女の分は起きたら食べられるように、何か用意して欲しい。」
「かしこまりました。それと、今少し宜しいですか?アルノー殿下にお目通を、というものが参っております。」
 そう言われて俺はシャーロットを寝室に寝かせると、すぐ隣の応接室に向かった。

 応接室には男性が三人待っていた。
「アルノー殿下。早速引き継ぎをお願いいたします。」
  彼らは後宮の官吏らしい。俺の前にどさどさと紙の束を置き、説明を始めた。
「こちらが後宮の予算と支出でございます。稟議も出ておりますので決済をお願いいたします。それとこちらは人事。召使の採用、退職について決済をお願いいたします。それとこちはら豊穣祭関連です。こちらはですね、実行委員が立ち上がりますが、それの理事になっていただきます。こちらも会員等のお目通しをお願いいたします。」
 官吏は言うだけ言うと、立ち上がった。「ここに長くいるとまずい。」そんな態度である。でも俺はざっと聞いただけで頭痛がした。なになに、これ全部?!ちょっとおー!一人じゃ無理だよ!!
 俺も慌てて立ち上がったが、ちょうど寝室から泣き叫ぶ声がして追いかけられなくなった。シャーロットが目を覚ましたのだ。
 まってー!仕事と子育てを両立しなきゃいけないなんて聞いてない!陛下からは後宮の仕事だけって言われてましたよ?!あ、ひょっとして子育ても仕事って考え?
しかも、地味に花粉のダメージがひどい…。

 俺が涙を流すと、メアリーはくす、と笑った。

「泣きっ面に蜂ですね?」

 言い返すのさえ馬鹿らしい。俺は取り敢えず、全力でシャーロットをあやした。
 シャーロットは俺が面白い顔をしたら、にこりと笑う。金髪に碧眼のシャーロットはどこか、陛下を彷彿とさせた。陛下が笑ったらこんな感じだろうか?
 俺もシャーロットに微笑んで返した。
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