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一章
2.絶対愛されない花嫁
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「私はお前を愛するつもりはない。」
いやそれ、こっちのセリフだよ?バーカバーカ!!
俺は引きつりながらも、心の中で盛大に悪態をつきなんとかぎりぎりの精神力でその場に立っていた。
「それより…その衣装、薄すぎる!誰か上着を持ってまいれ!」
俺の身体のラインが見えすぎて気持ち悪いってこと?!いや俺も着せられただけだからな!お前のために自分から着たんじゃないからな!?
俺が心の中で悪態をついている間に、メアリー始めとした召使たちは慌てて結婚式に着てもおかしくない様な立派なマントを用意して俺にかぶせた。それを指示したやつのことは一瞬で大嫌いになったが、マントはレースの衣装より厚手で身体のラインが隠れて恥ずかしくないからありがたかった。
「ありがとうございます。」
俺はしぶしぶお礼を口にしたが、そいつは俺のお礼を無視して背を向けた。
俺に背を向けたそいつ…は本日、俺の夫になるイリエス・ファイエット国王陛下その人である。陛下は王族特有の美しい艶やかな金の長い髪に、澄み切った空のように晴れやかな碧眼というゾッとするほどの美貌の持ち主だった。御歳三十五歳との事だがもっと若く見える。初めて見た時、あまりに美形なので俺はドキリとした。しかし、それは先ほどまでのこと。
なになにそんなに背中向けちゃって!俺だって何なら背中を向けてここから逃げ出したいくらい嫌なんだからな!俺はまたそいつの背中に向かって悪態をついた。
「お前に臨むことは、後宮の仕事をしてほしい、それだけだ。それさえしてもらえれば、特に干渉しない。好きにするといい。」
それって浮気したっていいってこと?!あーそうですか!ありがとうございます。ありがたく、そうさせていただきます!俺だって十五も上のおじさんじゃなくて若い女の子の方が良いんだからな!?
初対面でそんなことを言われた俺は頭に血が上った。だってムカつかない?!俺はさ、そうはいっても夫夫になるんだから…恋愛はないにしろそれなりに協力し合って生きていけたらって思っていたのに…。
俺はふんぞり返りたい気分だったが辞めた。俺と陛下の控室に来た両親が「よかったな!」と言って泣いていたからだ。確かに、この婚姻は俺には「よかった」のかもしれない。妃達が全員亡くなっているから侯爵家八男と言う微妙な立場にも関わらず、何と俺は第一妃!
「善良で真面目な」俺としては素直に喜ぶ両親の顔を見た後で悪態は付けないのだ…。
その後、親族の顔合わせが行われた。俺側の親族だけ、喜んでいたのが印象的だった。王族側の連中はまるで官吏を品定めするような目で俺を見ていた。うん。そうだよな、そんな感じ。しかし、王妃たちの忘れ形見の王女達は俺を思い切り睨んでいた。それも分かる。だって突然知らない奴が、最愛の母親に代わって父親の隣に立つなんて嫌だよな。分かるよ、それ。半年一緒にいた孤児院の子供達に結婚するから出て行くって言ったら俺もすごい泣かれたんだ。だから俺は成人もしていない王女達を責める気になれなかった。
「初めまして。第一王女のリリアーノでございます。アルノー様が豊穣祭の采配を振るうお姿、楽しみにしております。」
リリアーノは一人だけ、笑顔に俺に近寄って、それはそれは美しいカーテシー姿を披露した。それが終わると俺に一歩近寄り笑顔を消し去って囁いた。
「どうぞお一人で立派に神事を行ってください。私たちは参加いたしませんので、そのおつもりで。」
リリアーノはまたニコリと微笑んだ。周囲はパチパチと拍手をしている。俺はまた顔から血の気が引いた。
え?俺一人でってことは王女様たち、全員ボイコット?陛下の子供って六人いて、全員王女だよね?一人も踊ってくれないってこと?!まさか俺が嫁に来て臍曲げたの?そんな子供みたいなこと言わないでよ、って子供か!ちょ…男の俺が花を散らせて舞う姿なんて…誰かみたい?
いや、見たくないよね?多分神様も見たくないと思うよ?怒り買わない?大丈夫?
そうして俺の顔から血流を止めた、親族の顔合わせ会は終わった。
いよいよ結婚式本番という時になって、メアリーはそっと俺に近寄った。
「アルノー様。本番ではこれに、ベールを被ります。しかしですね、ベールボーイが次々に病を発症しまして。本日、手配ができませんでした。」
「ベールボーイって、ベールを持ってくれる子供のこと?そんなに今、風邪流行ってる?!」
「今は春が終わりこれから夏、という過ごしやすい季節です。しいていうなら季節の変わり目ですかねえ?」
メアリーは遠い目をした。その目を見て俺は察した。仮病だな?だってそんな、子供が誰もいないってこと、ないよね?どうなってんの?!
誰か召使に持たせようかという話にもなったらしいのだ、この国ではベールボーイは貴族の子供と決まっていて誰にでも出来るものではないらしい。俺はとんでもなく長いベールをかぶってベールボーイなしに、教会の入り口から祭壇までの長い身廊を歩かなければならなくなった。花嫁のベールは身分によって長さが決まる。だから国王陛下の嫁の俺はベールの長さを短くすることは出来ない。俺の首、持つ?俺はまた不安になった。
不安なまま教会の扉の前に立つと、ブーケを持つように言われた。ブーケは真っ白な花に所々、黄色の小さな花がアクセントとして飾られている。やや乱暴に手渡されるとその黄色い花から、少し痺れるような花粉が飛び散った。
いよいよ扉が開く。長い身廊の先、祭壇の前に陛下が立っていて、俺はそこまで父親と歩かねばならない。長いベールが途中何かに引っかかって、後ろに転ぶというアクシデントはあったが何とか陛下のところまで辿り着いた。
必死に辿り着いた俺を、そいつは冷たく見下ろしていた。
祭壇の前に着くと、神に愛を宣誓する。先に陛下が「誓います。」と言ってそれから俺の番。俺には愛するつもりがないって言ったくせに…。そんな事をぼんやり考えていると、隣から手が伸びてきた。早く言えという催促だった。
俺はいつの間にか涙を流していた。その人を見上げると、その人は美しい顔を歪めて舌打ちした。
ねえ、こんなにみんな結婚に反対、というか本人さえ嫌がっているのに結婚する意味ってある?
俺は心から疑問に思った。
そんな疑問を持ったのがよくなかったのか俺は誓いを立てる前に意識を失ってしまった。
いやそれ、こっちのセリフだよ?バーカバーカ!!
俺は引きつりながらも、心の中で盛大に悪態をつきなんとかぎりぎりの精神力でその場に立っていた。
「それより…その衣装、薄すぎる!誰か上着を持ってまいれ!」
俺の身体のラインが見えすぎて気持ち悪いってこと?!いや俺も着せられただけだからな!お前のために自分から着たんじゃないからな!?
俺が心の中で悪態をついている間に、メアリー始めとした召使たちは慌てて結婚式に着てもおかしくない様な立派なマントを用意して俺にかぶせた。それを指示したやつのことは一瞬で大嫌いになったが、マントはレースの衣装より厚手で身体のラインが隠れて恥ずかしくないからありがたかった。
「ありがとうございます。」
俺はしぶしぶお礼を口にしたが、そいつは俺のお礼を無視して背を向けた。
俺に背を向けたそいつ…は本日、俺の夫になるイリエス・ファイエット国王陛下その人である。陛下は王族特有の美しい艶やかな金の長い髪に、澄み切った空のように晴れやかな碧眼というゾッとするほどの美貌の持ち主だった。御歳三十五歳との事だがもっと若く見える。初めて見た時、あまりに美形なので俺はドキリとした。しかし、それは先ほどまでのこと。
なになにそんなに背中向けちゃって!俺だって何なら背中を向けてここから逃げ出したいくらい嫌なんだからな!俺はまたそいつの背中に向かって悪態をついた。
「お前に臨むことは、後宮の仕事をしてほしい、それだけだ。それさえしてもらえれば、特に干渉しない。好きにするといい。」
それって浮気したっていいってこと?!あーそうですか!ありがとうございます。ありがたく、そうさせていただきます!俺だって十五も上のおじさんじゃなくて若い女の子の方が良いんだからな!?
初対面でそんなことを言われた俺は頭に血が上った。だってムカつかない?!俺はさ、そうはいっても夫夫になるんだから…恋愛はないにしろそれなりに協力し合って生きていけたらって思っていたのに…。
俺はふんぞり返りたい気分だったが辞めた。俺と陛下の控室に来た両親が「よかったな!」と言って泣いていたからだ。確かに、この婚姻は俺には「よかった」のかもしれない。妃達が全員亡くなっているから侯爵家八男と言う微妙な立場にも関わらず、何と俺は第一妃!
「善良で真面目な」俺としては素直に喜ぶ両親の顔を見た後で悪態は付けないのだ…。
その後、親族の顔合わせが行われた。俺側の親族だけ、喜んでいたのが印象的だった。王族側の連中はまるで官吏を品定めするような目で俺を見ていた。うん。そうだよな、そんな感じ。しかし、王妃たちの忘れ形見の王女達は俺を思い切り睨んでいた。それも分かる。だって突然知らない奴が、最愛の母親に代わって父親の隣に立つなんて嫌だよな。分かるよ、それ。半年一緒にいた孤児院の子供達に結婚するから出て行くって言ったら俺もすごい泣かれたんだ。だから俺は成人もしていない王女達を責める気になれなかった。
「初めまして。第一王女のリリアーノでございます。アルノー様が豊穣祭の采配を振るうお姿、楽しみにしております。」
リリアーノは一人だけ、笑顔に俺に近寄って、それはそれは美しいカーテシー姿を披露した。それが終わると俺に一歩近寄り笑顔を消し去って囁いた。
「どうぞお一人で立派に神事を行ってください。私たちは参加いたしませんので、そのおつもりで。」
リリアーノはまたニコリと微笑んだ。周囲はパチパチと拍手をしている。俺はまた顔から血の気が引いた。
え?俺一人でってことは王女様たち、全員ボイコット?陛下の子供って六人いて、全員王女だよね?一人も踊ってくれないってこと?!まさか俺が嫁に来て臍曲げたの?そんな子供みたいなこと言わないでよ、って子供か!ちょ…男の俺が花を散らせて舞う姿なんて…誰かみたい?
いや、見たくないよね?多分神様も見たくないと思うよ?怒り買わない?大丈夫?
そうして俺の顔から血流を止めた、親族の顔合わせ会は終わった。
いよいよ結婚式本番という時になって、メアリーはそっと俺に近寄った。
「アルノー様。本番ではこれに、ベールを被ります。しかしですね、ベールボーイが次々に病を発症しまして。本日、手配ができませんでした。」
「ベールボーイって、ベールを持ってくれる子供のこと?そんなに今、風邪流行ってる?!」
「今は春が終わりこれから夏、という過ごしやすい季節です。しいていうなら季節の変わり目ですかねえ?」
メアリーは遠い目をした。その目を見て俺は察した。仮病だな?だってそんな、子供が誰もいないってこと、ないよね?どうなってんの?!
誰か召使に持たせようかという話にもなったらしいのだ、この国ではベールボーイは貴族の子供と決まっていて誰にでも出来るものではないらしい。俺はとんでもなく長いベールをかぶってベールボーイなしに、教会の入り口から祭壇までの長い身廊を歩かなければならなくなった。花嫁のベールは身分によって長さが決まる。だから国王陛下の嫁の俺はベールの長さを短くすることは出来ない。俺の首、持つ?俺はまた不安になった。
不安なまま教会の扉の前に立つと、ブーケを持つように言われた。ブーケは真っ白な花に所々、黄色の小さな花がアクセントとして飾られている。やや乱暴に手渡されるとその黄色い花から、少し痺れるような花粉が飛び散った。
いよいよ扉が開く。長い身廊の先、祭壇の前に陛下が立っていて、俺はそこまで父親と歩かねばならない。長いベールが途中何かに引っかかって、後ろに転ぶというアクシデントはあったが何とか陛下のところまで辿り着いた。
必死に辿り着いた俺を、そいつは冷たく見下ろしていた。
祭壇の前に着くと、神に愛を宣誓する。先に陛下が「誓います。」と言ってそれから俺の番。俺には愛するつもりがないって言ったくせに…。そんな事をぼんやり考えていると、隣から手が伸びてきた。早く言えという催促だった。
俺はいつの間にか涙を流していた。その人を見上げると、その人は美しい顔を歪めて舌打ちした。
ねえ、こんなにみんな結婚に反対、というか本人さえ嫌がっているのに結婚する意味ってある?
俺は心から疑問に思った。
そんな疑問を持ったのがよくなかったのか俺は誓いを立てる前に意識を失ってしまった。
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