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二章
13.別れ
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ギルフォードと朝まで情事に耽っていたアナベルが目を覚ますと、そこは見た事もない部屋だった。
ギルフォードの姿は既になく、日も登りきっている。情事の痕跡も、粗方片づけられていた。ーアナベルは動揺した。
(服がない!)
アナベルは慌てて、部屋の中を見回した。ソファの背に外套が掛けられているのに気付いてそれを羽織る。
窓の外に見える王城の位置関係から、ギルフォードの宮なのではないかと思った。
(どうしよう……)
アナベルが悩んでいると、唐突に寝室の扉が開いて、ギルフォードの小姓と鉢合わせた。小姓の少年も、アナベルの姿に驚いて固まっている。アナベルは着られそうな服を見繕ってもらい、急いでギルフォードの部屋を飛び出した。
アナベルは自室に戻って着替えを済ませると、ディボルの部屋へ向かった。
今日はディボルが後宮を出ていく日だ。
アナベルがディボルの部屋に着くと、既に整然と片づけられていて、ディボルは窓からぼんやり外を見ていた。
ディボルはアナベルに気づくと破顔した。
「アナベル様!昨日の試合と叙任式拝見いたしました!おめでとうございます!」
「ディボル様、ありがとうございます!あの、ディボル様はどちらの教会に行かれるのですか?」
「王都の西にある、小さな教会です。アナベル様に来て頂けるような立派なところではありませんよ…」
ディボルは肩をすくめ、「わたしのような年増は引き取り手が無いのです。」と笑った。
アナベルとディボルが話しをしていると、周囲が急に騒がしくなった。
「ディボル、別れの挨拶に来ました。」
現れたのはエリザベートだった。
エリザベートは、数人の召使を引き連れてやって来た。アナベルがエリザベートに会うのはギゼルハールの部屋で会って以来だ。推薦人になっていただいた際、お礼状は差し上げたのだが、会う事はなかった。アナベルはエリザベートの癇癪が恐ろしかったのだ。
「痛み入ります」
「ディボル、これは私からの餞別であり忠告です。ここを出た後、陛下と閨を共にする事は私が許しません。良いですね?」
「肝に銘じます。」
「はぁっ!穢らわしい、こんな事を言わせないで頂戴!一刻も早く出ていきなさい!」
エリザベートはそう言うと、すぐに行ってしまった。アナベルとディボルは顔を見合わせた。
「エリザベート様は、皇帝陛下の寵愛を受けるディボル様に嫉妬していらっしゃるのでしょうか?やはり陛下を愛してらっしゃるから…?それに、ディボル様は陛下にお会いできなくなっても辛くないのですか?」
アナベルがディボルに問うと、ディボルは吹き出した。
「はは!アナベル様、まさか私と陛下の間に愛情があるとでも?」
「え?!」
「アナベル様、あなたは世間知らず過ぎて私は心配です。ここは魑魅魍魎の住まう伏魔殿。愛などありません。」
ディボルは「しかし」といって話続けた。
「昨日私はあなたに愛を教えられました。私は、私は良い死に方が出来ない男ですが、余生は正しく生きてみたいと思わされました。アナベル様、そこで一つお願いがございます」
「何でしょうか?」
「もし、私が最後の時を迎えたら、私の骸に真実の名を呼びかけていただけませんか?わたしの、養子に入る以前の孤児の時の名です。『ディオ・ヴァンタール』と。あなたに名を呼ばれた私の魂には、安寧が訪れるでしょう」
「ディボル様、そんな……」
「アナベル様、忘れないでください。」
ディボルはアナベルの手を取って『ディオ・ヴァンタール』ともう一度囁いた。
「ディボル様、ありがとうございます。私は、ディボル様がいなかったらどうなっていたか…!」
アナベルはディボルの優しい笑顔を見て、涙が溢れてしまい、言葉を紡げなかった。
アナベルは、ディボルの細い身体を抱きしめた。
「このまま、10秒数えると、良い夢が見られると言うローゼンダール国教会の習わしだそうで…」
「ふふ、そんな事、誰に教えられたのですか?でも、その方に感謝しなければ…」
ディボルはそう言って、アナベルを抱きしめ返した。
その後、アナベルも自室を片付けて、騎士の寄宿舎に移動する準備に追われた。準備がおわると、見送ってくれた召使達に感謝を言って別れた。
アナベルが後宮を出る頃には、夕焼けが白い石造りの宮殿を照らしていた。
アナベルは後宮の日々を、思い出していた。
後宮が解散になり、ギルフォードを待たない、と決めて騎士になった。
(また、ギルフォード殿下には待ってくれと言われた。でも、今度は待つだけではなく、殿下の力になりたい…)
アナベルは寄宿舎に向かって歩き出した。
ギルフォードの姿は既になく、日も登りきっている。情事の痕跡も、粗方片づけられていた。ーアナベルは動揺した。
(服がない!)
アナベルは慌てて、部屋の中を見回した。ソファの背に外套が掛けられているのに気付いてそれを羽織る。
窓の外に見える王城の位置関係から、ギルフォードの宮なのではないかと思った。
(どうしよう……)
アナベルが悩んでいると、唐突に寝室の扉が開いて、ギルフォードの小姓と鉢合わせた。小姓の少年も、アナベルの姿に驚いて固まっている。アナベルは着られそうな服を見繕ってもらい、急いでギルフォードの部屋を飛び出した。
アナベルは自室に戻って着替えを済ませると、ディボルの部屋へ向かった。
今日はディボルが後宮を出ていく日だ。
アナベルがディボルの部屋に着くと、既に整然と片づけられていて、ディボルは窓からぼんやり外を見ていた。
ディボルはアナベルに気づくと破顔した。
「アナベル様!昨日の試合と叙任式拝見いたしました!おめでとうございます!」
「ディボル様、ありがとうございます!あの、ディボル様はどちらの教会に行かれるのですか?」
「王都の西にある、小さな教会です。アナベル様に来て頂けるような立派なところではありませんよ…」
ディボルは肩をすくめ、「わたしのような年増は引き取り手が無いのです。」と笑った。
アナベルとディボルが話しをしていると、周囲が急に騒がしくなった。
「ディボル、別れの挨拶に来ました。」
現れたのはエリザベートだった。
エリザベートは、数人の召使を引き連れてやって来た。アナベルがエリザベートに会うのはギゼルハールの部屋で会って以来だ。推薦人になっていただいた際、お礼状は差し上げたのだが、会う事はなかった。アナベルはエリザベートの癇癪が恐ろしかったのだ。
「痛み入ります」
「ディボル、これは私からの餞別であり忠告です。ここを出た後、陛下と閨を共にする事は私が許しません。良いですね?」
「肝に銘じます。」
「はぁっ!穢らわしい、こんな事を言わせないで頂戴!一刻も早く出ていきなさい!」
エリザベートはそう言うと、すぐに行ってしまった。アナベルとディボルは顔を見合わせた。
「エリザベート様は、皇帝陛下の寵愛を受けるディボル様に嫉妬していらっしゃるのでしょうか?やはり陛下を愛してらっしゃるから…?それに、ディボル様は陛下にお会いできなくなっても辛くないのですか?」
アナベルがディボルに問うと、ディボルは吹き出した。
「はは!アナベル様、まさか私と陛下の間に愛情があるとでも?」
「え?!」
「アナベル様、あなたは世間知らず過ぎて私は心配です。ここは魑魅魍魎の住まう伏魔殿。愛などありません。」
ディボルは「しかし」といって話続けた。
「昨日私はあなたに愛を教えられました。私は、私は良い死に方が出来ない男ですが、余生は正しく生きてみたいと思わされました。アナベル様、そこで一つお願いがございます」
「何でしょうか?」
「もし、私が最後の時を迎えたら、私の骸に真実の名を呼びかけていただけませんか?わたしの、養子に入る以前の孤児の時の名です。『ディオ・ヴァンタール』と。あなたに名を呼ばれた私の魂には、安寧が訪れるでしょう」
「ディボル様、そんな……」
「アナベル様、忘れないでください。」
ディボルはアナベルの手を取って『ディオ・ヴァンタール』ともう一度囁いた。
「ディボル様、ありがとうございます。私は、ディボル様がいなかったらどうなっていたか…!」
アナベルはディボルの優しい笑顔を見て、涙が溢れてしまい、言葉を紡げなかった。
アナベルは、ディボルの細い身体を抱きしめた。
「このまま、10秒数えると、良い夢が見られると言うローゼンダール国教会の習わしだそうで…」
「ふふ、そんな事、誰に教えられたのですか?でも、その方に感謝しなければ…」
ディボルはそう言って、アナベルを抱きしめ返した。
その後、アナベルも自室を片付けて、騎士の寄宿舎に移動する準備に追われた。準備がおわると、見送ってくれた召使達に感謝を言って別れた。
アナベルが後宮を出る頃には、夕焼けが白い石造りの宮殿を照らしていた。
アナベルは後宮の日々を、思い出していた。
後宮が解散になり、ギルフォードを待たない、と決めて騎士になった。
(また、ギルフォード殿下には待ってくれと言われた。でも、今度は待つだけではなく、殿下の力になりたい…)
アナベルは寄宿舎に向かって歩き出した。
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