堅物王子の側妃は降嫁と言われたので王宮騎士になって返り咲く

あさ田ぱん

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二章

3. リミントン公爵家

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 王宮騎士団の出願締切日が間近に迫っていたため、アナベルは早速、タメラベルムに面会を申し込んだ。
 断られることも十分予測していたのだが、あっさり了承された。タメラベルムに了承してもらった事に、アナベルは感動していた。初対面では失礼な真似をしたのに、と。
 タメラベルムに手土産を持っていこうと思いついたアナベルは、早速、騎士団の林の桃を取りに行った。ここの桃は瑞々しくて甘いのだ。アナベルは林檎を砂糖で煮たものを好んで食べたから、桃も少し砂糖で煮たら美味しいと考えた。パンにのせたり、紅茶に入れても楽しめそうだ。
 後宮の調理場をかりて甘い桃を煮て、召使から貰った瓶に桃を入れた。アナベルはこれで、タメラベルムと上手くいく、そんな気がしていた。

 


「アナベル様、この先触れですが、誤字ばかりで何が言いたいのかさっぱり分かりません。アナベル様は公用語も解らない阿呆だと聞いてはいましたが、まさかここまでとは」

 タメラベルムはアナベルを睨みながら、アナベルからの先触れをテーブルに叩きつけた。
 
「で、何の御用なのです?」

 アナベルは、タメラベルムを甘く考えていたことを恥じた。けれどもう、決めたことだ。意を決して話し出した。

 「私は、王宮騎士団に出願することにいたしました。そこで、タメラベルム様に保証人になっていただきたいのです」

「はあ?!」
 
 タメラベルムの声は裏返った。まさかとは思いますが、と前置きしてから話し始める。

「なぜ、王宮騎士団に?ギルフォード殿下のお側にいるため、なんていう理由ではないでしょうね?」


 ディボルにも言い当てられたが、タメラベルムにも言い当てられてしまった。アナベルは頷くことも出来ず、頬を染めた。タメラベルムは心底呆れたという顔をする。

「何と愚かな。騎士があなたに務まるとは思えません」

「タメラベルム様、もう一つお願いがあります。私は後宮に入ってから、実戦から遠ざかっております。リミントン公爵家は王都に邸宅を構えておられる。公爵家の私兵の方、どなたかに稽古をつけていただきたいのです」

「何故、私があなたのためにそんな事をしなければならないのです?あなた、ギルフォード様の寵愛をいただいているからと、思い上がりも甚だしい」

「寵愛をいただいたか…。ギルフォード殿下のお気持ちは分かりません。今分かるのは、もう後宮がないという事実だけです」

「………」

 タメラベルムは少し考え込んだ後「分かりました」と答えた。

「では、こう致しましょう。我が公爵家の騎士と手合わせなさい。あなたが勝ったら、推薦人になります」

 アナベルはその条件に頷いた。




 数日後、アナベルはリミントン公爵家を訪れた。

 アナベルを出迎えたのは、シャツに黒いスラックス姿の若い男だった。彼は栗色の髪を後ろで結んでいる。肌は日焼けしており、筋肉が盛り上がっているのがシャツの上からも分かった。

「アナベル様。ご無沙汰しています」
 
「ええと、も、申し訳ありません。どこかでお会いしましたか?」

「あなたが側妃としてお披露目された夜会でお会いしています。論功行賞が行われたでしょう?その騎士の中に、私もいました。リミントン家の三男で、タメラベルムの兄、オーディスです」  

「それは…。も、申し訳ありません…」

「いえ、あなたにそれを求めるのは酷でしょう。気にしていません。しかし、近くで見ると、より美しい。妖精だと言われるのも頷ける」

「いえ、そんな…」

「しかし如何せん頭のほうはお粗末なようだ。ギルフォード殿下の寵愛などというものを鵜呑みにして、騎士団に入りたいなどと…」

 突然の挑発に、アナベルは二の句を告げることが出来ない。オーディスは目を細めた。

「まさか、本当に信じておられるのですか?殿下があなたに誠意を見せるために、正妃になるはずだったタメラベルムを含め、後宮を解散させたと?」

「い、いえ。何も分かりません。後宮が解散する事実しか、知らされておりません」

 アナベルの返答に、オーディスは舌打ちした。

「はあー、私はあなたを好きになれそうにありません。子ができないから重宝されただけの男に何ができる。風紀を乱すだけだ。それとも騎士団で、戦い明けの男たちの夜伽でもするつもりか?」

「今後は己の腕で生きていくつもりです。もし騎士になれるのなら、それを証明出来ると思っています」

 アナベルはできるだけ、真摯に答えた。

 確かに、不快になる人がいるかも知れない。でも、剣の実力で挽回していきたい、そう思っている。

 その時、タメラベルムが優雅に二人の間に割って入ってきた。
 
「もうよろしいでしょう、お兄様。それより、アナベル様と手合わせ願います。アナベル様、真剣でよろしいですわね?」

「はい」
 勝たなくては……。いや、勝つ。
 アナベルは自分を鼓舞した。
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