前世を思い出したら愛したはずの旦那様を忘れてしまいました

あさ田ぱん

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三章

34.初めての嫉妬

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 その後、レオナードは俺の腹の上にぶちまけて、エプロンがどろどろ、べとべとに…。魔法できれいにしてもらったが、俺はもうへとへとだった。このまま寝てしまいたかったが、自分で人を呼んでおいて、挨拶もなしとはいかない。俺はレオナードに支えられながら、なんとか中庭に向かった。

 中庭につくと騎士団の面々が、生暖かい目で俺たちを迎える。もう、大体みんな察してる?だって待たせすぎだもんね。い、いたたまれない……!

 俺が乾杯の合図をすると、ようやく会は始まった。料理は大変好評で、安心した。
 乾杯が終わると、レオナードは騎士団の部下たちに囲まれて酒を注がれ始めた。こういうのって、日本とちょっと似てる…。俺は騎士団員ではないから蚊帳の外だ。
 少し離れたところからレオナードを見ていると、いつの間にか背後に、フローラがやって来ていた。

「先ほどのレオナード様、凄かったですわね。フェリシテ様の潔白を信じてらっしゃる。愛しているんですね、フェリシテ様を一途に…」
「は、はあ…」

 フローラは先ほど、ディオンヌや女性たちと帰ったと思っていたのだが、残っていた様だ。俺は大して仲が良くないフローラに突然声をかけられたことに動揺していた。

「私は王都の学校まで競技大会を見に行っていました。あの時は嫡男至上主義のディオンヌ様に虐げられていたレオナード様が、承認欲求を満たすためにアリエス様を打ち負かしたのだと思っていましたけど、違ったのですね…」
「違った、とは…?」
「レオナード様はあの時から、フェリシテ様を深く愛していたのですわ。例え、兄であってもフェリシテ様を渡したくなかった。それで、兄、アリエス様を殺しかけた……」
 
 兄を、殺しかけた…?まさか、そんな…。

『競技大会に優勝してフェリシテと結婚したかったレオナードが優勝して黒魔術を使い、兄、アリエスを殺しかけた』というのは、マリアも言っていた。
 そして俺が来たから結界への魔力補充の目的で、魔物にフェリシテの魔力を渡していた。それが一番、やりやすい立場にあるのは確かにレオナードだ。でも、今は俺を遠ざけている。それは…?もう両思いだと分かったから、術者として責任を取るつもりとか……。
 そういえばフェリシテも、アリエスの周りをうろちょろしていたと聞いた。まさか、レオナードの罪を探るため、とか?いや、それならレオナードを探るんじゃないか?…考えすぎだ。考え過ぎだよな……?

 俺はフローラの言ったことをぐるぐると考えていた。しかし、考えがまとまらない。

 考えがまとまらないからつい、うっかり、夜泊まった騎士達にバレないかヒヤヒヤしながらも、レオナードと裸エプロン二回戦が行われてしまったのだ!だってアレ、レオナードの反応がいいから、つい…!

 翌朝、邸に泊まった騎士の皆をお見送りしようと思っていたのに、寝坊して出来なかった。ホストとして失格だ!情けない…!



 昼まで寝ていた俺のところにやってきたレオナードは、昨日とは打って変わって機嫌が良かった。

「昨日の女の正体が分かりました。娼館に勤める娼婦でした。鑑定をすると言ったら明らかに動揺していましたから、どうせ母上が金でも握らせてつれてきたのでしょう。不快な思いをさせて申し訳ありません」
「俺の潔白が証明出来て良かった。でも、そんなにディオンヌ様に嫌われてるのは、ちょっと複雑だな…」
「フェリシテ殿下が気に入らない…ということではありません。アリエスの子を養子にするという私が気に入らないのです。殿下は気にしないでください。この件は私が…」
 レオナードは苦虫を噛み潰したような顔をする。フローラが言っていたが、ディオンヌは以前は嫡男のアリエス至上主義だった。それなのになぜ、アリエスの子を養子にするに反対しているのだろうか?なぜ、以前は冷遇していたレオナードの子を、急に欲しがっているのだ?
 でも、そのことできっと傷付いているだろうレオナードには聞きづらい…。

「そう言えば、レオナードは俺が娼館に行ったって疑っていたけど、レオナードは行ったことあったりする?」
「ありません。私はフェリシテ殿下以外、考えられません。私の心も身体もすべてフェリシテ殿下のものです」
「そ、そっか…」
 ――愚問だった。レオナードって、男前だし体格もあそこも立派だけど、まさかフェリシテしか経験がないとか…。な、なんかそこまでだと俺はちょっと重く感じちゃう派…。処女には手を出せないタイプなんだよな、俺って。
 だからその話題もそこで止めた。でも、先日やって来た、娼婦だという女とその子供こことが、何となく気になっていた。俺の子だという男の子が、俺と言うよりむしろ、どことなくレオナードに似ているような気がして……。

「その、先日来た娼婦が働いてる娼館ってひょっとして、領都南西の裏路地にある…?」
「ええ、そうですが……」
「それでさ、表向き『大衆浴場』になっていて、ピンクの看板が付いてたりする?」
「ええ……」

 セレナが教えてくれた、無許可営業のお風呂屋さんソープだ…。でも、本当にレオナードの子だとしたら、こんなに素直に俺に言わないと思うんだけど…。どうしても気になるんだよな…。

「…まさか、身に覚えがあるのですか…?」
「は、はあ?!まさかっ!俺の潔白は証明しただろ!?」
「本当ですね…?!もし行ったりしたら、許しませんよ?」
「行かないよ!行くわけないだろ!」

 ジト目で見てくるレオナードに俺は言い切った。言い切ってやった…!そう言えば先日、セレナに忠告された時も「いかない」って言ったんだ。

 確かに言った。言ったんだけどさ…。


 翌々日、レオナードはまた仕事に戻って行った。今度も一週間ほど、戻らないらしい。先日から行っている結界で使う光の魔力を減らす実験はおおむね良好で、魔物の数が減ったらしい。魔物達は光の魔力で力を得ていたのだ。やはり、術者が光の魔力を対価として何らかの術を使ったことは間違いないようだ。

 引き続き結界の状況を注視して、更にもう一段結界から光の魔力を少なくするのか…実験をするらしい。減らしているおかげで、光の魔力は余っていて俺はお役御免。また、邸に置いて行かれたというわけなのだが…。

 一人になったら、あの子のことを考えていてもたってもいられなくなった。これってひょっとして嫉妬か?!

 嫉妬する奴ってやや、うざい……。当然前世の俺はそう思っていて、嫉妬されることはあっても嫉妬することはなかった。それなのに…。
 俺が産めないレオナードの子を、もしあの女が産んでいたとする。そう考えるといても立ってもいられなかったのだ。
 
 俺は教会の畑に行くと偽って一人、娼館に向かった。何かあっても昼間なら言い逃れできる……そう思っていたのだ。

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