前世を思い出したら愛したはずの旦那様を忘れてしまいました

あさ田ぱん

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一章

5.やっぱり俺TUEEE系、異世界転生な模様

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 セバスチャンは無茶です!と俺を止めた。

 ーーでも、俺は行く。なぜなら俺は人に親切にするとギリ、死なないのだ。むしろここに残った方が死んじゃうんだよ?行く以外選択肢ないんだわ…。
 でもそんなことセバスチャンに言うわけにいかないわけで…。

「結界が壊れたのは俺の責任かもしれない。それを見て見ぬふりはできない。危険なのはわかる。お前を道連れにしようなど思っていない。一人で行ってくるから何か、移動できる手段を貸してくれ。馬とか?」
  この世界なら、馬でしょ!でもそれで間に合うかな?距離感もわからないし…。やっぱり今世の記憶がないと言うのは生きていく上で大問題だ。

「本気ですか…?」
  俺はこくりと頷いた。セバスチャンは「わかりました」というと俺を別邸へと連れて行く。

 別邸は三階建らしい。その別邸の二階、奥まった物置のような窓さえない部屋に転移魔法陣はあった。床一面に見たこともない模様と文字で魔法陣がびっしりと描かれている。

「転移魔法陣があればそれを目印としてとして、魔法陣から魔法陣へと一瞬で転移できます。結界近くの砦にも転移魔法陣がありますから、フェリシテ様はいつもこれを使っておられました」
「分かった。これに乗ればいいんだな?」
「ええ。魔力を込めて呪文を唱えていただければ発動します」
「魔力を込めるってどんな感じ?力を込める感じ?あと呪文ってなんて言えばいい?」

 俺が聞くと、セバスチャンの顔色はサッと青くなった。
「まさかあの、フェリシテ様が魔法を全てお忘れになっているとか…?」
「うん。全然わからない」
「さすがに無茶です!そんな状態で!」
  セバスチャンは血相変えて、俺を止めようと魔法陣まで飛び込んでこようとした。するとまた胸が痛む。

「セバスチャンくるな、俺だけで行く!」

  俺は胸の痛みを抑えるように叫んだ。行かないと逆チート発動だ。行くしかない…!

 『行く』という言葉を発すると、床の魔法陣が反応して光り始めた。あっという間に全身を光が包み、周りの空間が歪んでいく。全然記憶なかったのに、俺、魔法使えちゃったよ!!!

「フェリシテ様、お待…!」

 セバスチャンの声は、最後まで聞こえなかった。

****

 
 身体が宙に浮いた。そしてまた重力で下に引き寄せられている。

「うわーーーっ!」
「「「「「わあーーーーっ!!」」」」」

 大勢の悲鳴が聞こえる。と、思ったら俺は柔らかくて茶色い草が敷き詰められた荷台の上に落ちていた。着地失敗……。やっぱり唱えた呪文が適当すぎたらしい。
 草に埋もれてジタバタしていると、起き上がるより前に俺は、騎士服を着た男たちに囲まれてしまった。
 どうやら俺が落ちたのは藁を積んだ荷馬車の上だった様だ。騎士たちが俺を起こしてくれる。

「人が空から落ちたと思ったら、フェリシテ様ではありませんか!」
 騎士たちは俺のことを知っていたらしい。俺って元王子だし、レオナードの妻だし結構有名なんだろうか…?

「ねえねえここ、どのあたり?結界を見に行きたいんだけど」
「結界を?!だめです!周辺は住民も全て避難させ、封鎖いたしました。これ以上魔物が増える様なら森を焼いて足止めするしかないと…!」
  なるほどそれで、藁を運んでいたんだな?森を焼くなんて勿体無い。その前に結界を治したいが…。

「この森の先に結界はあるの?」

  俺が指さすと、騎士たちは「だから危ないっていってんじゃん、聞くなよ…」みたいな顔をして固まってしまった。どうやら正解らしい。俺は走り出そうとしたのだが…。

「だめです!俺たちレオナード様に叱られます!」
「大丈夫だよ!」

 俺たちは政略結婚で、しかも相手は離婚したいらしいから気にしないはず。しかし騎士たちは俺を離してくれない。
 俺がバタバタ暴れていると、俺の暴れる以上の『バタバタ音』が辺りに轟き始めた。

「見ろ!前方、魔犬ではないか…?!もの凄い悪臭に煙も立っている!あれは、ティンダロスだっ!ぜ、全員退避ーーー!」

 ディンダロス…。昔ゲームで見たことがある気がする。たしかドロドロした恐ろしい犬だろ…?!実物はこんな醜悪さなんだな…!ひいい!
 前方、南以外にも東西の方角からも悪臭と、気配を感じる。ひょっとして囲まれている…?これはまずい。

「まてよ!固まっていた方がいい!」

 俺が咄嗟に叫ぶと、東西の方角から魔犬が飛び出してきた。更に前方にも迫っている!

 絶対絶命…。こんな時、なんて魔法が効くんだ?わからないけど、やるしか無い。俺は立ったまま叫んだ。

「動くな!」

 すると、辺りに一斉に、糸の様な物が張り巡らされた。それはまるで巨大な蜘蛛の巣のように、魔犬達を一斉に捉える!

 ーー騎士達から、歓声が上がった。

 俺…………TUEEEE!!!!

 女神様の言った通り、チートあり異世界転生だった!しょーもないとか言っててごめん…!

 そして俺は騎士たちが止める声を無視してまっすぐ最短距離で結界へと走った。胸が苦しくならない方へ進めばいいのだから自ずと最短距離を通れるというわけ。慣れてしまえばこれもチートなのかもしれない…。

 結界が近づくにつれて、森は深くそして魔獣が増えてきた。不気味な犬に、狼、猪…。さっき出した糸で片っ端から捕まえていく。捕らえた獲物は俺を見ると一斉に雄叫びを上げた。それは人間の子供の悲鳴のような、何かを怒鳴っているような…不思議で不気味な一定の音…。改めて俺はここが異世界だと、足が震えた。

 でも大丈夫。俺!ギリ、死なないから!
 

 ーーそしてついに結界に到着した。


 魔の森にかけられた結界とは、オーロラのようにキラキラと光っている壁のようなものだった。しかし確かに一部綻びがあり、そこから魔獣が飛び出している。

 『動くな』で糸が出せた。ではあの結界は、何と言えば修復できるのだろう?せめて、その呪文くらい覚えてくるんだった!仕方なく、魔法の糸を出して魔獣の侵入を防ぐが、大量に押しかけている魔獣達を糸だけで防ぐのは限度がある。根本的に塞がなければ。

 思いつく限り呪文になりそうな言葉を叫んでみた。

 『閉じろ』、『閉まれ』、『塞がれ』!

 でも全然、効果がない。あー、あとそれ系の言葉って何かある?魔法は使えるんだ、あとは呪文のみ!いでよ、俺の語彙力…!!!

 俺が呪文に四苦八苦している間に、遠くの方で魔獣とは違う、咆哮が上がった。目を凝らしてみると、遠くの空が一際暗くなっている。何だ、あれ…。

 その恐ろしい声はどんどん近付いてくる。近付いてくるにつれて、その姿を自分の目で捉えた。

「あれ、イギリスの紋章じゃん!たしか竜、ワイバーンだ!しかも群れになっちゃってるよ!」

 大きな羽を持つ巨大な竜なのに、飛ぶスピードが異常に早い!俺は全身が震えた……!早く、早く呪文を…!しかし焦れば焦るほど何も出てこない。そうこうするうちに、ワイバーンの群れはより結界に接近し、その声で結界がゆらゆらと揺れるほどだった。

 ワイバーンの接近で、地上の魔獣達も興奮している。もう、保たない…!

「フェリシテ!!」
「レオナード…様?!」

 ワイバーンや魔獣達の凄まじい雄叫びに紛れて、馬で後方から向かってくるレオナードに気が付かなかった。レオナードは俺を追ってきたのか、結界の様子を見にきたのか、どっちだ?いや、どちらにせよ…!

「だめだ、危ない!ワイバーンも来ているんだ!戻ってくれ!」

 俺は必死に、レオナードに向かって叫んだ。聞こえていないのだろうか、レオナードは止まる気配がない。
 あー、お前あれか?嵐が来たって言うと謎に船の様子を見に行く漁村のじいちゃん…!危ないつってんだろーが!

 焦って正面を見ると、もう目の前までワイバーンの群れが迫っていた。

 間に合わない…!レオナード…!

「レオナード!引き返してくれ!早く!」
「フェリシテ!今、行く!」
「来るなっ!」

 俺の叫び声はワイバーンの群れが結界に激突した衝突音に掻き消された。魔法の糸は限界まで引き延ばされている。このままだと、結界も…!
 ミシミシと結界が軋む音がする。ワイバーンの群れは羽をばたつかせ、次々とぶつかり結界を破壊するつもりの様だ。
 結界の正面が一際暗くなり、今までで一番大型のワイバーンが結界にぶつかった。その巨大なワイバーンは一際大きい咆哮を上げる。それも、先ほどのディンダロスと一緒の音程だ…。これは、魔物の言葉なのか…?


 耳をつんざく不快な音を立てて結界が崩れ落ちる…!

 後方をみると、レオナードが必死の形相でこちらに走ってきていた。このままじゃ、レオナードも巻き込まれてしまう。

 だめだ、レオナードだけは…!

 そう思った瞬間、俺は無意識のうちに跪き、祈っていた。
 
 神様、お願いです!を助けてください……!



 ――そう、神に祈ったのは確かに俺だけど、何だか遠い、心の奥に眠っていた俺が咄嗟に叫んだ様な気がした。

 これはひょっとして、フェリシテ…?

 フェリシテが神に祈った途端、目の前は眩い光に包まれた。そして瞬く間に結界が構築されていく。
 新たに内側に出来た結界は厚く、ワイバーンが激突しても、その衝撃を全て吸収し、無力化してした。

 す、すごい……!これってひょっとしなくても『人に親切にするとギリ、死なない』能力じゃないのか?!レオナードに逃げて、って言ったのが親切だったんだ。たぶん…!

「フェリシテ!!」

 レオナードは馬を降りて走ってきた。その勢いのまま、俺に飛び掛かってくる。

「レオナード様?!」

  レオナードは俺をキツく抱きしめた。

 抱きしめる腕は小刻みに震えている。
 離婚しようとしてた癖に…。俺を助けに来てだきしめたりして、一体、何なんだよ。

 でもレオナードに抱き締められると、心が暖かくなった…。

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