前世を思い出したら愛したはずの旦那様を忘れてしまいました

あさ田ぱん

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一章

3.セバスチャンに聞いてみた俺の今世

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「フェリシテ様!レオナード様の治癒魔法が効いたと言っても、きちんと医師に診せませんと!まもなく医師が参りますので、寝台へお戻りを…!」

 レオナードの治癒魔法?さっき身体がふわっとしたの魔法だったのか…。あんなに睨んでいたけど治癒魔法掛けてくれてたんだ。どうりで先ほどまで身体が動かなかったのに、立ち上がれた訳だ。
 それならそうと言えばいいのに。あんなに凄んで睨むから俺の転生先は魔界で夫じゃなくて魔王かと思ったぞ?ちょっと、気難しい男なのかも知れない。面倒だなあ…。

「セバスチャン、ひょっとして、俺と旦那様ってあんまり上手くいってなかった?聞いたと思うけど俺、全然記憶が無くて…」
「お二人の間のことを、私の口から憶測でお話しすることは出来かねます」
「あ、まあ…そっか…」
  そうだよな。セバスチャンから聞き出したら迷惑をかけてしまうかもしれない。自分であいつに聞くか、思い出すしかない。

 ないのだが……。

「脳には異常が無さそうです。きっと解離性健忘ですね。強烈な精神的損傷により発症します。治療法は精神療法…原因を解決するしかありません」
「原因がわからない場合は…?」
「…記憶が戻らない可能性もありますね…」
  脳には異常がないという診断には一旦安堵した。しかし記憶が戻らないのは流石に困るだろう。この世界の知識が全くないというのは不安すぎる!そもそも自分が何者なのかは知らなくては。

 医師が帰った後、俺は改めてセバスチャンに尋ねた。

「なあ、俺自身のことなら聞いてもいいだろう?俺がどんな奴だったのか教えてくれよ」
「…フェリシテ様はこの国、ヴェルデ王国現国王の第五王子であらせられる。陛下はフェリシテ様が王立魔法学校卒業の年の競技大会で優勝した者にフェリシテを嫁がせると仰って。それに優勝したのが当時、二学年下に在籍していたレオナード様です。そしてレオナード様の卒業を待って四年前、レオナード様十九歳、フェリシテ様二十一歳でご成婚となりました」
「その競技大会って、強制?あと、出場は男だけ…?」
「競技大会はその年の一番強いものを選ぶ大会です。勿論、戦闘向きで無いものもおりますから強制では無く選択制です。男性でも女性でも出場は可能です」
 選択制だったのに、大会に出た理由は何だ?まさか、俺のこと…?!
「レオナードは何で出場したんだ?俺と結婚しなければならないから辞退者が沢山出てうっかり優勝しちゃったとか…?」
 俺がおずおずと尋ねると、セバスチャンはくすりともせずに答えた。俺、一応王子なんだろう?なのにずいぶん塩対応じゃない…?
「フェリシテ様は第五王子ですが、国王陛下の寵愛をうけてらっしゃいました。そのフェリシテ様との結婚という人参があったため辞退者はありませんでした。ルーベルは特に、魔の森を挟み国境に接しており魔獣も多く、ヴェルデ国王陛下の支援が欲しかった。それにフェリシテ様は王族特有と言われる光魔法の、優れた使い手。国境を有するルーベルは、結界を強化するためその力が喉から手が出るほど欲しかった。そこで前々辺境伯より優勝してフェリシテ様を妻とせよ、と、レオナード様に厳命が下りました。そして壮絶な兄弟対決の末、レオナード様は勝利されたのです」
 魔の森…?それってやっぱり魔王が…。いや、それよりも…。
「兄弟対決ってなんで…?兄は家を継ぐからレオナードに勝つように厳命が下ったんだろう?」
「奥様は大反対されましたが、兄アリエス様はフェリシテ様と同じ最終学年と言うこともあり早々に出場手続きを済まされており…。アリエス様は勇敢で、辞退するのも逃げるようで嫌だ、陛下の御前試合でもあるため如何様はできないと仰って。最終的には奥様は許可され…勿論、水面下ではアリエス様が勝ち競技会が終了した後、殿下とのご成婚はレオナード様をと交渉する準備もしておりました」
「な、なるほど……?」
  アリエスって兄は凄いやつだったんだな…?でもそれに勝ったレオナードをもう少し褒めても良いはずだが、現辺境伯であるレオナードへの賛辞がない様子に違和感を感じた。
 それに、前々辺境伯つまり父親からの厳命のはずが、いつのまにか奥様が許可した、とセバスチャンは言う。それはどういうこと?ここの家は奥様が実権をにぎっているのか?
 まあつまり、俺たちはガッチガチの政略結婚という訳だ。前世女遊びをしまくった俺が男同士で結婚するなら、その理由には納得する。
「兄弟対決に勝って俺と結婚したレオナードが辺境伯になっているのは何故…?」
「…アリエス様は、事故でお亡くなりに…」
「そ、そう…」
 そんな大切なことも忘れていた…よかった聞いておいて!でもさっきのアリエス兄上げ発言は亡くなったことも関係してるのかもしれない。過去は美化されるものだから。俺はともかく…。
「あと俺、普段は何してた?辺境伯の仕事を手伝ったりとか?」
「……私は基本、本邸におりまして、フェリシテ様については詳しくなく…。別邸はフェリシテ様との結婚に合わせて作られ、使用人たちは本邸の持ち回りで固定では無く…」
 セバスチャンは口篭った。知らないはずはないが、執事という立場からは言いづらいのだろう。これ以上、セバスチャンに聞くのは難しそうだ。
「本邸があるの?」
「ええ。レオナード様のご両親は引退されましたがまだご健在ですので」
「ふーん…」
  
  本邸には、両親がいるのか…。政略結婚だし、両親なら色々と知っているだろう。

「本邸に行ってみてもいい?」
「本邸にですか?」
「今回の事で迷惑かけちゃっただろ?挨拶もしたいし…」
 セバスチャンはあからさまに嫌そうな顔をした。でも、俺は引かなかった。だって俺はこれからここで生きていかなきゃならないんだから…!できたら前世で叶えられなかった幸せな家庭を築くという夢も叶えたい!
 そう、俺が生きていくために…。そのためには、めちゃくちゃ聞きづらいけど、どうしても聞かなければならないことがもう一つある。

「セバスチャン、最後に…。俺って何で窓から落ちたの?事故?それとも…」
 まさか、殺されかけたとか…?俺は聞きながら声が震えた。もしくは…。
「……分かりません。ただ、フェリシテ様が窓から落ちた時、駆けつけた私とレオナード様は部屋の鍵が掛かっている事を確認しています。レオナード様が扉を打ち破り部屋に入った時、部屋には誰もいらっしゃいませんでしたから、状況からいって…」
「じ、自分で、落ちた……?」
「………フェリシテ様はレオナード様との結婚を大変嫌がっておいででしたから…」
 嘘だろ…!
前世の俺、結構酷い環境だけど殺されるまでは楽しく生きてたよ?そんな楽天家の俺が、まさか…!
 前世の俺の記憶しかない今の俺は死にたくない。自分のはずなのに、『フェリシテ』に恐怖を感じた。ひょっとして、思い出さない方が幸せだったりする…?
 俺は早速、セバスチャンに尋ねた事を後悔し始めていた…。
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