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一章
1.前世と今世
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街の喧騒の中で近付く足音に気づくはずもない。人にぶつかることもよくある事で、その時も気にも止めていなかったのだが、背後に気配を感じたのと同時に突然、背中を重い激痛が襲った。痛みのせいで声も出せない…。かろうじて首を捻ると、茶色の髪を振り乱した、細面の女と目が合う。その女は青白い顔を歪ませていた。男の骨ばった背中を刺すというのは相当な力がいるらしい。噛み締めた唇には血が滲んでいる。
いや、それは俺の血なのかもしれない。そう思った瞬間から、意識は急速に闇に染まっていく。最期に見た、女の目は涙に濡れていた。
俺のために泣くなんて……馬鹿な女だなあ……。
――そして暗転…………。
の、直後、俺の身体は眩い光に包まれていた。目を開けて辺りを見回すと、どこまでも真っ白な空間が広がっている。これって…?
「目が覚めたのね。鷹見一生さん」
俺に突然声を掛けて来たのは、黄金の髪に真っ青な瞳、陶器のような肌をした豊満な美女だった。何だこの、とんでもない美女は!?しかもおっぱいおっきいし!つまり…ここって…。
「ここ、天国だったりする?」
「察しがいいな!正解!」
「ええー?!じゃ俺死んだの?!ひょっとして殺された?!」
「またまた正解!そんなお前には褒美をとらそう!」
死んだのに褒美…?でも、地獄に堕とされなかっただけでおれはちょっとほっとした。だって、女遊びの限りを尽くして殺されちゃったんだから。最後に見たあの顔、たしかセフレだ。
「お前は『セフレに殺された』と思ってるだろう?でも相手は違う。お前を恋人だと思っていた。まったく、根っからの遊び人が初心な女に手を出すなんて……!しかもあれは私の上司の愛し子なんだぞ?!」
「愛し子?」
「そうだ。だから彼女はタイムリープして人生をやり直し中なんだが。問題はお前だ!私の上司はとっても偉い神なんだが、酷くお怒りで…。愛し子の世界には戻すなと、仰ってな?」
何だそのエコ贔屓は!人のこと刺しちゃうやつより断然俺の方が善良だろうが!
「……お前の言いたいことはわかる。私もちょっと何だかなあとは思ってる。だから喜べ!お前にちょうど良い世界を見つけて来たのだ!おまけもつけてやろう!今流行りのチートあり異世界転生だぞ!俺TUEEEEだぞ?!」
チートあり異世界転生?そういえばそう言うの、流行ってた気がするけど…。
「どんな世界?それによる」
「魔法がある世界だ。楽しいぞ~、夢いっぱいだぞ?しかも、女好きの遊び人のお前を矯正させられる環境だ。しっかり生き直せ!」
「え、なんか嫌な予感しかしないっ!ちょっと待ってくれ!考えさせて!」
「考える時間などない。こういう世界じゃないと稟議が通らなかったんだ。許せ…!だからチートをつけておいてやるんだ!」
いうか早いか女神様は持っていた杖で真っ白な床を掻き回し始めた。すると眼下には中世ヨーロッパのような街並みが広がる。
「私からのプレゼントは『人に親切にするとギリ、死なない』能力だ!どうだ、凄いだろ!」
「はあ?!凄くない凄くない!どんな罰なのそれ!」
「許せ!これしかギリ、稟議が通らなかった!」
やっぱりーーー!そもそもちゃんとしたやつ通す気あったのかよー!
抗議の声虚しく、俺の身体はあっという間に眼下の世界に吸い込まれていった。
****
そうそう、そうだった、そうだった。それは確かに前世の俺、日本人『鷹見一生』二十九歳の、人生の終わりと始まりだった。
どうしてそんな大切なこと、今まで忘れていたんだろう……?
俺は前世と、この世界に転生した経緯を突然思い出したのだ。一気に前世の記憶が流れ込んでくる…!まだ若くて、やりたい事も色々あった。自分の両親とは上手くいかなかったけど、いつか好きな人と結婚して暖かい家庭を作れたらなって思ってたんだ!
しかし、思い出した時…、俺の身体は窓の外、空中に投げ出されていた。身体が重力に持ってかれる感覚に、ここが結構高いと直ぐに理解した。
――――落ちるッ!
いやでも俺、「人に親切にしたらギリ、死なない」チート能力があったんだ!ラララ、ラッキー!
…ん?ちょっと待て。俺、「人に親切に」してた?前世の俺は女好きの遊び人の、親と不仲で半グレのしょーもないやつだったけど…。
じゃ、じゃあやっぱりダメかもしれない!あの女神のやつしょーもないチートつけやがって!
憤る暇もなく俺は落下し、そしてあっという間に意識を失った。
いや、それは俺の血なのかもしれない。そう思った瞬間から、意識は急速に闇に染まっていく。最期に見た、女の目は涙に濡れていた。
俺のために泣くなんて……馬鹿な女だなあ……。
――そして暗転…………。
の、直後、俺の身体は眩い光に包まれていた。目を開けて辺りを見回すと、どこまでも真っ白な空間が広がっている。これって…?
「目が覚めたのね。鷹見一生さん」
俺に突然声を掛けて来たのは、黄金の髪に真っ青な瞳、陶器のような肌をした豊満な美女だった。何だこの、とんでもない美女は!?しかもおっぱいおっきいし!つまり…ここって…。
「ここ、天国だったりする?」
「察しがいいな!正解!」
「ええー?!じゃ俺死んだの?!ひょっとして殺された?!」
「またまた正解!そんなお前には褒美をとらそう!」
死んだのに褒美…?でも、地獄に堕とされなかっただけでおれはちょっとほっとした。だって、女遊びの限りを尽くして殺されちゃったんだから。最後に見たあの顔、たしかセフレだ。
「お前は『セフレに殺された』と思ってるだろう?でも相手は違う。お前を恋人だと思っていた。まったく、根っからの遊び人が初心な女に手を出すなんて……!しかもあれは私の上司の愛し子なんだぞ?!」
「愛し子?」
「そうだ。だから彼女はタイムリープして人生をやり直し中なんだが。問題はお前だ!私の上司はとっても偉い神なんだが、酷くお怒りで…。愛し子の世界には戻すなと、仰ってな?」
何だそのエコ贔屓は!人のこと刺しちゃうやつより断然俺の方が善良だろうが!
「……お前の言いたいことはわかる。私もちょっと何だかなあとは思ってる。だから喜べ!お前にちょうど良い世界を見つけて来たのだ!おまけもつけてやろう!今流行りのチートあり異世界転生だぞ!俺TUEEEEだぞ?!」
チートあり異世界転生?そういえばそう言うの、流行ってた気がするけど…。
「どんな世界?それによる」
「魔法がある世界だ。楽しいぞ~、夢いっぱいだぞ?しかも、女好きの遊び人のお前を矯正させられる環境だ。しっかり生き直せ!」
「え、なんか嫌な予感しかしないっ!ちょっと待ってくれ!考えさせて!」
「考える時間などない。こういう世界じゃないと稟議が通らなかったんだ。許せ…!だからチートをつけておいてやるんだ!」
いうか早いか女神様は持っていた杖で真っ白な床を掻き回し始めた。すると眼下には中世ヨーロッパのような街並みが広がる。
「私からのプレゼントは『人に親切にするとギリ、死なない』能力だ!どうだ、凄いだろ!」
「はあ?!凄くない凄くない!どんな罰なのそれ!」
「許せ!これしかギリ、稟議が通らなかった!」
やっぱりーーー!そもそもちゃんとしたやつ通す気あったのかよー!
抗議の声虚しく、俺の身体はあっという間に眼下の世界に吸い込まれていった。
****
そうそう、そうだった、そうだった。それは確かに前世の俺、日本人『鷹見一生』二十九歳の、人生の終わりと始まりだった。
どうしてそんな大切なこと、今まで忘れていたんだろう……?
俺は前世と、この世界に転生した経緯を突然思い出したのだ。一気に前世の記憶が流れ込んでくる…!まだ若くて、やりたい事も色々あった。自分の両親とは上手くいかなかったけど、いつか好きな人と結婚して暖かい家庭を作れたらなって思ってたんだ!
しかし、思い出した時…、俺の身体は窓の外、空中に投げ出されていた。身体が重力に持ってかれる感覚に、ここが結構高いと直ぐに理解した。
――――落ちるッ!
いやでも俺、「人に親切にしたらギリ、死なない」チート能力があったんだ!ラララ、ラッキー!
…ん?ちょっと待て。俺、「人に親切に」してた?前世の俺は女好きの遊び人の、親と不仲で半グレのしょーもないやつだったけど…。
じゃ、じゃあやっぱりダメかもしれない!あの女神のやつしょーもないチートつけやがって!
憤る暇もなく俺は落下し、そしてあっという間に意識を失った。
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