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【最終話】7.ラッキーカラー
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アレから一週間。今日は待ちに待った給料日である。しかも今日は、騎士団に入団後官舎暮らしの息子ルイが久しぶりに帰ってくるのだ!
今の騎士団長は、初任給支給日には必ず、近くに住んでいる親がある兵士を家に返すらしい。自腹で娼館に連れて行こうとしたり、面倒見がいい人なのかもしれない。
俺は素直に喜んでいた。
今日はルイの好きなものばかり作ろう。一緒に食事をとったら沢山、話をして…。それにルイは成人したのだ、お酒も飲めるかもしれない。せっかくだから酒の肴も買っておこう…!
俺は仕事を急いで切り上げ、市場に向かって駆け出した。
しかし王城を出たところで、慌てていた俺は前から来た人にぶつかってしまった。
「あっ、すみませ…!」
顔を上げてぎょっとした。なぜならぶつかったその人が、俺が一週間避け続けていた人物だったからだ。
「ニコラさん…!」
「ライアン君……」
そう、俺はライアンを避けて避けて避けまくっていた。だってあの後、ライアンは『中出し責任をとります!結婚しましょう!』と、訳のわからないことを言い出したのだ。緊急避妊薬も飲んだし、丁重に断ったのだが、めちゃくちゃしつこくて参ってしまった。
「ニコラさん、丁度いいところでお会いできた…!あの、これ渡そうと思っていました!」
そう言ってライアンは懐から薬瓶を取り出して、俺に手渡してきた。なんだこれは…?
「これ、Ωの身体にいいと言われている栄養剤です」
「は、はぁ…」
受け取った薬瓶にはほうれん草の絵と、『葉酸』の文字が書かれている。出産経験のある俺には分かった。これはΩじゃなくて、妊婦が取る、胎児にとっていい影響を与えるっていう栄養剤だ。ライアン…。
「先日も申し上げましたが、緊急避妊薬も飲みましたしこれ、私には必要ありませんよ?」
薬をつき返すとライアンは少し眉を寄せた。
「ひょっとしてニコラさんは新婚の期間を新鮮に保つためこう言った『明るい家族計画』的なことは不要派ですか…?」
「違いますっ!」
「じゃあ、新婚の期間は二人っきりで過ごしたい派…?」
「だから違いますッ!」
恋人でもないのに、何で結婚する前提で『葉酸』渡してきてんだよ!
俺はもう、ライアンは放っておく事にして、市場へ向かって駆け出した。だって俺はあの日、痛感したんだ。ライアンは若過ぎてついていけない…、って。
ーーもうあまり考えないようにしよう…。家に帰って夕食の支度を整えると、程なくしてルイが帰宅した。
家に帰ってきたルイは、花束を持っていた。
「父さん、今まで育ててくれてありがとう。今はまだ、新入りでこのくらいしか買えないけど…!」
「ルイ!ありがとう!」
ただ、元気な姿を見せてくれるだけでいいのに…!思いがけないプレゼントに感動してしまい、涙が溢れた。
「そんなに喜んで貰えると嬉しいけど、ちょっと複雑…」
「え?なんで…?」
「花を買っていけって言ったの、ライアンなんだ。あいつ、同じ年なのにいつも兄貴風吹かせてくるんだけど…。今日も俺を花屋に連れてって…」
そうだったんだ。ルイにしては、花を買うなんて出来すぎてる感じはしたけど、でも誰に言われたことだって、実際やってくれたのがルイなら俺は嬉しい…。
「それに、本当はピンクの花が良かったんだけど、ライアンが買うからダメだって言われて買えなかったんだよ。それはちょっと釈然としないっていうか…」
「何でピンクはダメなんだ?」
「あいつさこの間、ピンク色のスライムの体液浴びただろ?その副作用から救ってくれたのが、今のライアンの恋人なんだって。だからピンクはライアンと恋人のラッキーカラーだから、俺みたいな子供は買っちゃダメだって言われてさ…」
ちょっと待て、今の話で俺はルイ以上に釈然といかない箇所を発見……。
スライムの体液から助けてくれたのが『今の恋人』って、それってまさか、俺のことじゃないよな…?
確かにお前は、責任を取りますとか言ってはいたけど、付き合ってくれとは一言も言ってないし、童貞捨てたいのが先走って、先走りの液出しまくりだったし…。それに、素人童貞がいやだから手っ取り早くいけそうな俺とした、それだけだろ?完全に俺のことなんて『若気の至り』だろ…?
「そ、それでライアン君は…?」
「沢山、持ちきれないくらいの花を買って帰ったよ?恋人に求婚するんだって」
「へ、へぇ……?」
ルイはまた、少し眉を寄せて、考え込むような顔をした。
「ひょっとして、ライアンのやつ、相手を妊娠させちゃったのかも…」
してないしてない!おとーさんはちゃんと、避妊してるから妊娠なんかしていないぞっっ!でも、なぜルイはそんな風に思ったんだろう?まさか、ライアンが何か余計なこといったんじゃぁ…。あいつ、はじめにルイには内緒にしろって言ったこと、わすれたんじゃないだろうな?!
「ど、どうしてそう思うんだ…?」
聞くのも怖かったが、俺はルイに恐る恐る尋ねた。ルイは、うーん、とまた少し考えた後口を開いた。
「あいついつも俺に兄貴風吹かせてくるんだけど、今日はそれ以上に強風だったんだよ」
「え、それ…、どんな風…?」
「家に帰る前にさ、『今日は野菜残さず食べろよ』とか、『酒飲んだら歯を磨いて寝るんだぞ』とか言ってきてさ……。なんか『兄貴』通り越して父親風吹かせてきてさ~」
ありえなくない?とルイは笑った。
本当にありえない……。
付き合ってもいないし、結婚の約束もしていないのに、もう父親風吹かせてるよ!ライアンお前何考えてんだ…!ありえねー!!!どんな暴風?!
若いからか?それは、お前が若いからなのか?!
ーーありえないけど、ちょっとかわいいなんて思ってしまったのは、やっぱり俺がおじさんだからだろうか…?
その時、玄関の扉が軽快にノックされる音がした。
「誰だろう…?俺でるよ」
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってて、おとーさんが出るからっ!」
俺はルイを居間に押し込んで、玄関へ走った。たった数歩だけど、俺が玄関まで歩く足音は確かに軽快なリズムを刻んでいた。
玄関の扉を開けて、目に飛び込んできたのは視界一面、ピンクの花びらだった。
アレから一週間。今日は待ちに待った給料日である。しかも今日は、騎士団に入団後官舎暮らしの息子ルイが久しぶりに帰ってくるのだ!
今の騎士団長は、初任給支給日には必ず、近くに住んでいる親がある兵士を家に返すらしい。自腹で娼館に連れて行こうとしたり、面倒見がいい人なのかもしれない。
俺は素直に喜んでいた。
今日はルイの好きなものばかり作ろう。一緒に食事をとったら沢山、話をして…。それにルイは成人したのだ、お酒も飲めるかもしれない。せっかくだから酒の肴も買っておこう…!
俺は仕事を急いで切り上げ、市場に向かって駆け出した。
しかし王城を出たところで、慌てていた俺は前から来た人にぶつかってしまった。
「あっ、すみませ…!」
顔を上げてぎょっとした。なぜならぶつかったその人が、俺が一週間避け続けていた人物だったからだ。
「ニコラさん…!」
「ライアン君……」
そう、俺はライアンを避けて避けて避けまくっていた。だってあの後、ライアンは『中出し責任をとります!結婚しましょう!』と、訳のわからないことを言い出したのだ。緊急避妊薬も飲んだし、丁重に断ったのだが、めちゃくちゃしつこくて参ってしまった。
「ニコラさん、丁度いいところでお会いできた…!あの、これ渡そうと思っていました!」
そう言ってライアンは懐から薬瓶を取り出して、俺に手渡してきた。なんだこれは…?
「これ、Ωの身体にいいと言われている栄養剤です」
「は、はぁ…」
受け取った薬瓶にはほうれん草の絵と、『葉酸』の文字が書かれている。出産経験のある俺には分かった。これはΩじゃなくて、妊婦が取る、胎児にとっていい影響を与えるっていう栄養剤だ。ライアン…。
「先日も申し上げましたが、緊急避妊薬も飲みましたしこれ、私には必要ありませんよ?」
薬をつき返すとライアンは少し眉を寄せた。
「ひょっとしてニコラさんは新婚の期間を新鮮に保つためこう言った『明るい家族計画』的なことは不要派ですか…?」
「違いますっ!」
「じゃあ、新婚の期間は二人っきりで過ごしたい派…?」
「だから違いますッ!」
恋人でもないのに、何で結婚する前提で『葉酸』渡してきてんだよ!
俺はもう、ライアンは放っておく事にして、市場へ向かって駆け出した。だって俺はあの日、痛感したんだ。ライアンは若過ぎてついていけない…、って。
ーーもうあまり考えないようにしよう…。家に帰って夕食の支度を整えると、程なくしてルイが帰宅した。
家に帰ってきたルイは、花束を持っていた。
「父さん、今まで育ててくれてありがとう。今はまだ、新入りでこのくらいしか買えないけど…!」
「ルイ!ありがとう!」
ただ、元気な姿を見せてくれるだけでいいのに…!思いがけないプレゼントに感動してしまい、涙が溢れた。
「そんなに喜んで貰えると嬉しいけど、ちょっと複雑…」
「え?なんで…?」
「花を買っていけって言ったの、ライアンなんだ。あいつ、同じ年なのにいつも兄貴風吹かせてくるんだけど…。今日も俺を花屋に連れてって…」
そうだったんだ。ルイにしては、花を買うなんて出来すぎてる感じはしたけど、でも誰に言われたことだって、実際やってくれたのがルイなら俺は嬉しい…。
「それに、本当はピンクの花が良かったんだけど、ライアンが買うからダメだって言われて買えなかったんだよ。それはちょっと釈然としないっていうか…」
「何でピンクはダメなんだ?」
「あいつさこの間、ピンク色のスライムの体液浴びただろ?その副作用から救ってくれたのが、今のライアンの恋人なんだって。だからピンクはライアンと恋人のラッキーカラーだから、俺みたいな子供は買っちゃダメだって言われてさ…」
ちょっと待て、今の話で俺はルイ以上に釈然といかない箇所を発見……。
スライムの体液から助けてくれたのが『今の恋人』って、それってまさか、俺のことじゃないよな…?
確かにお前は、責任を取りますとか言ってはいたけど、付き合ってくれとは一言も言ってないし、童貞捨てたいのが先走って、先走りの液出しまくりだったし…。それに、素人童貞がいやだから手っ取り早くいけそうな俺とした、それだけだろ?完全に俺のことなんて『若気の至り』だろ…?
「そ、それでライアン君は…?」
「沢山、持ちきれないくらいの花を買って帰ったよ?恋人に求婚するんだって」
「へ、へぇ……?」
ルイはまた、少し眉を寄せて、考え込むような顔をした。
「ひょっとして、ライアンのやつ、相手を妊娠させちゃったのかも…」
してないしてない!おとーさんはちゃんと、避妊してるから妊娠なんかしていないぞっっ!でも、なぜルイはそんな風に思ったんだろう?まさか、ライアンが何か余計なこといったんじゃぁ…。あいつ、はじめにルイには内緒にしろって言ったこと、わすれたんじゃないだろうな?!
「ど、どうしてそう思うんだ…?」
聞くのも怖かったが、俺はルイに恐る恐る尋ねた。ルイは、うーん、とまた少し考えた後口を開いた。
「あいついつも俺に兄貴風吹かせてくるんだけど、今日はそれ以上に強風だったんだよ」
「え、それ…、どんな風…?」
「家に帰る前にさ、『今日は野菜残さず食べろよ』とか、『酒飲んだら歯を磨いて寝るんだぞ』とか言ってきてさ……。なんか『兄貴』通り越して父親風吹かせてきてさ~」
ありえなくない?とルイは笑った。
本当にありえない……。
付き合ってもいないし、結婚の約束もしていないのに、もう父親風吹かせてるよ!ライアンお前何考えてんだ…!ありえねー!!!どんな暴風?!
若いからか?それは、お前が若いからなのか?!
ーーありえないけど、ちょっとかわいいなんて思ってしまったのは、やっぱり俺がおじさんだからだろうか…?
その時、玄関の扉が軽快にノックされる音がした。
「誰だろう…?俺でるよ」
「ちょちょちょちょちょ、ちょっと待ってて、おとーさんが出るからっ!」
俺はルイを居間に押し込んで、玄関へ走った。たった数歩だけど、俺が玄関まで歩く足音は確かに軽快なリズムを刻んでいた。
玄関の扉を開けて、目に飛び込んできたのは視界一面、ピンクの花びらだった。
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