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4.ピンク色のスライム
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****
その後、騎士団は予定通り魔の森へ魔獣討伐へ向かった。その後、毎日息子の無事を…ほんの少しだけライアンの無事も教会で祈っていたのだが、予定より二日ほど早く騎士団は無事、帰還した。
仕事終わり、教会で祈っていた俺のところに息子ルイは元気な姿を見せてくれた。
「ルイ、随分早かったね…!」
「うん。思ったより魔物が少なかったのと、ちょっとした事故があって一旦撤退したんだ」
「事故?!」
『事故』の言葉に驚いて、俺はルイの身体をさすった。息子はどこも、怪我をしていないようだが…。
「俺は大丈夫なんだけど…」
「本当に?事故って、何があったんだよ…?」
「討伐自体はすぐ終わったんだけど、その後俺たちの班がスライムの群れに襲われて…」
スライムの群れに…?!スライムって確かそんなに強くないはずだけど…。それで何故事故になったのだろうか?
「前の班にいたライアンが気が付いて庇ってくれたから俺たちは無事だったんだ」
「えっ?!じゃ、ライアン君は…?」
「ライアンは一匹だけいたピンク色のスライムの体液を浴びてしまって。見た目身体は何ともなさそうだったんだけど、騎士団長が言うには治療が必要らしい」
「治療…?」
「うん。ピンクの体液は心が清らかじゃない男がかけられると、絶対に治療が必要になるらしくて団長に連れて行かれたよ。めちゃくちゃ嫌がってたけど…」
「そうなんだ…」
治療法があるようで俺は安堵した。しかし、心が清らかじゃない男が掛けられると治療が必要ってどう言うこと…?ライアンはルイを庇ってスライムの体液を被ったんだ。心が清らかじゃないはずがない…。
俺は神に、ライアンの治癒を祈ってからルイと別れ帰路についた。
****
自宅に近づくと、扉の前にしゃがみ込む人影がある事に気が付いた。もう夕暮れだというのに、誰だろう…?
相手に気付かれないように慎重に近付くと、しゃがみ込んでいた人は顔を上げた。その人は…。
「ライアン君?!」
「ニコラさん…」
彼はゆっくり立ち上がった。
「ライアン君、怪我はもういいの?あの、ルイを助けてくれたって聞いた!ありがとう!」
「…そ、そのことでお話があって来ました…」
「話…?」
団長と治療に行ったと聞いていたライアンは、顔があからんでいる上に、何だかフラフラしている。明らかに具合が悪そうな様子に、俺はライアンの側によって、腕を支えるように隣に立った。
ライアンはそんな俺を見て、眉を寄せる。
「私が、スライムに襲われた話は聞いてらっしゃいますか?」
「ええ。ピンクのスライムの体液を浴びて、治療に向かったと…」
「体液については何か…?」
「ええと、『心が清らかじゃない男がかけられると、絶対に治療が必要になる』とだけ…」
「……」
ライアンは下を向いてしまった。聞いたままを言ったけど、心が清らかじゃないなんて、心外だったに違いない。
「でも、俺はちゃんと分かってるから!伊達に、父親を十八年もやってない、ライアン君が『心が清らか』でないわけがないよ!私の息子や他の騎士達の危機に気が付いて駆けつけ、助けるなんて、心が清らかでなければ出来ない事だものっ!」
「うう…っ…!」
ライアンは俺の言葉を聞いてなぜか口を押さえ苦しげに息を吐き出した。何故だろう…?だって、ライアンは心が清らかだ!だって…!
「実際、心が清らかで治療が不要だからここにいるのでしょう?!」
「ゔゔゔゔっ!」
ライアンは遂に、がくんと地面に膝をついてしまった。一体、どう言うこと…?
「申し訳ありません…」
ライアンははぁはぁと荒い呼吸を繰り返している。全然、事態が飲み込めない…。
「私は心が清らかではありません!ピンク色のスライムの体液という踏み絵がそれを証明してしまいました!私の心は煩悩、邪念の塊です!」
「ええっと、どういうこと…?」
「つまりピンク色のスライムの体液は催淫剤です。心が清らかな…。まだ性に目覚めていない子供には効きませんが、大人には覿面…。ですから、この通りです…」
膝をついたライアンは、自分の下半身を指差した。確かにライアンの下半身はテントを張った状態だ。
「では、治療に行かなくて良いのですか…?」
そもそも団長と、治療に行ったと聞いていたが、なぜここへ…?
「催淫剤の治療とは性交することです…。遂に娼館に放り込まれそうになり、命からがら逃げ出して来ました…」
ライアンは、真剣な顔で俺を見つめる。
「どうしても、初めては好きな人と…。私の夢を、叶えて頂けないでしょうか…?」
「そ、そんな……。そんなこと言われても…」
「ずっと好きでした。やっと大人になって告白出来たのに、こんな事故にあってしまって…」
ライアンはこめかみを押さえて顔を隠しているが、泣いているようだった。そんな、泣くほど…?そんなに、俺なんかとしたいの…?
「でもライアン、俺との初めてって、そんなにいいものじゃないと思うよ?だって俺、十八年間ヒートも何もなくて枯れた…どころかやや干からびたΩだし、それに、痩せ型ではあるけどお腹も筋肉がなくてちょっとぽよんとしているし…」
「ぽよんとしているのですか…?」
ライアンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「昨日はお風呂に入れなかったし」
「お風呂に入れなかった…?」
ライアンは顔を顰めて「じゃあ脱がせたら『むあ…ん』となるわけですね…?」と、よくわからないことを口にした。
「それに経験豊富で安心して初めてを任せられると思っているのかも知れないけど、俺はルイを妊娠した一度しか、経験がないんだぞ?」
「たった一度しかし経験がない?」
ライアンは「ほぼ処女じゃないか…」と言って、また生唾を飲み込んだ。だから、唾、のみすぎだって…!
でも一度で妊娠してしまう、なんて、遊びなら怖いよな…?責任は取りたくないもんな?
「しかも俺、友達のおとーさん!友父だよ?」
俺は最後にして最高の、思いとどまらせるための手札を切った。どうだ!?ライアン、思いとどまっただろう?!
しかし、ライアンは俺の手をぎゅっと握った……。
「私が貴方を嫌う要素なんて、そこには何一つありません…!むしろ興奮材料しかな……!ーーどうかお願いです。私の、初めてを貰ってください!」
その後、騎士団は予定通り魔の森へ魔獣討伐へ向かった。その後、毎日息子の無事を…ほんの少しだけライアンの無事も教会で祈っていたのだが、予定より二日ほど早く騎士団は無事、帰還した。
仕事終わり、教会で祈っていた俺のところに息子ルイは元気な姿を見せてくれた。
「ルイ、随分早かったね…!」
「うん。思ったより魔物が少なかったのと、ちょっとした事故があって一旦撤退したんだ」
「事故?!」
『事故』の言葉に驚いて、俺はルイの身体をさすった。息子はどこも、怪我をしていないようだが…。
「俺は大丈夫なんだけど…」
「本当に?事故って、何があったんだよ…?」
「討伐自体はすぐ終わったんだけど、その後俺たちの班がスライムの群れに襲われて…」
スライムの群れに…?!スライムって確かそんなに強くないはずだけど…。それで何故事故になったのだろうか?
「前の班にいたライアンが気が付いて庇ってくれたから俺たちは無事だったんだ」
「えっ?!じゃ、ライアン君は…?」
「ライアンは一匹だけいたピンク色のスライムの体液を浴びてしまって。見た目身体は何ともなさそうだったんだけど、騎士団長が言うには治療が必要らしい」
「治療…?」
「うん。ピンクの体液は心が清らかじゃない男がかけられると、絶対に治療が必要になるらしくて団長に連れて行かれたよ。めちゃくちゃ嫌がってたけど…」
「そうなんだ…」
治療法があるようで俺は安堵した。しかし、心が清らかじゃない男が掛けられると治療が必要ってどう言うこと…?ライアンはルイを庇ってスライムの体液を被ったんだ。心が清らかじゃないはずがない…。
俺は神に、ライアンの治癒を祈ってからルイと別れ帰路についた。
****
自宅に近づくと、扉の前にしゃがみ込む人影がある事に気が付いた。もう夕暮れだというのに、誰だろう…?
相手に気付かれないように慎重に近付くと、しゃがみ込んでいた人は顔を上げた。その人は…。
「ライアン君?!」
「ニコラさん…」
彼はゆっくり立ち上がった。
「ライアン君、怪我はもういいの?あの、ルイを助けてくれたって聞いた!ありがとう!」
「…そ、そのことでお話があって来ました…」
「話…?」
団長と治療に行ったと聞いていたライアンは、顔があからんでいる上に、何だかフラフラしている。明らかに具合が悪そうな様子に、俺はライアンの側によって、腕を支えるように隣に立った。
ライアンはそんな俺を見て、眉を寄せる。
「私が、スライムに襲われた話は聞いてらっしゃいますか?」
「ええ。ピンクのスライムの体液を浴びて、治療に向かったと…」
「体液については何か…?」
「ええと、『心が清らかじゃない男がかけられると、絶対に治療が必要になる』とだけ…」
「……」
ライアンは下を向いてしまった。聞いたままを言ったけど、心が清らかじゃないなんて、心外だったに違いない。
「でも、俺はちゃんと分かってるから!伊達に、父親を十八年もやってない、ライアン君が『心が清らか』でないわけがないよ!私の息子や他の騎士達の危機に気が付いて駆けつけ、助けるなんて、心が清らかでなければ出来ない事だものっ!」
「うう…っ…!」
ライアンは俺の言葉を聞いてなぜか口を押さえ苦しげに息を吐き出した。何故だろう…?だって、ライアンは心が清らかだ!だって…!
「実際、心が清らかで治療が不要だからここにいるのでしょう?!」
「ゔゔゔゔっ!」
ライアンは遂に、がくんと地面に膝をついてしまった。一体、どう言うこと…?
「申し訳ありません…」
ライアンははぁはぁと荒い呼吸を繰り返している。全然、事態が飲み込めない…。
「私は心が清らかではありません!ピンク色のスライムの体液という踏み絵がそれを証明してしまいました!私の心は煩悩、邪念の塊です!」
「ええっと、どういうこと…?」
「つまりピンク色のスライムの体液は催淫剤です。心が清らかな…。まだ性に目覚めていない子供には効きませんが、大人には覿面…。ですから、この通りです…」
膝をついたライアンは、自分の下半身を指差した。確かにライアンの下半身はテントを張った状態だ。
「では、治療に行かなくて良いのですか…?」
そもそも団長と、治療に行ったと聞いていたが、なぜここへ…?
「催淫剤の治療とは性交することです…。遂に娼館に放り込まれそうになり、命からがら逃げ出して来ました…」
ライアンは、真剣な顔で俺を見つめる。
「どうしても、初めては好きな人と…。私の夢を、叶えて頂けないでしょうか…?」
「そ、そんな……。そんなこと言われても…」
「ずっと好きでした。やっと大人になって告白出来たのに、こんな事故にあってしまって…」
ライアンはこめかみを押さえて顔を隠しているが、泣いているようだった。そんな、泣くほど…?そんなに、俺なんかとしたいの…?
「でもライアン、俺との初めてって、そんなにいいものじゃないと思うよ?だって俺、十八年間ヒートも何もなくて枯れた…どころかやや干からびたΩだし、それに、痩せ型ではあるけどお腹も筋肉がなくてちょっとぽよんとしているし…」
「ぽよんとしているのですか…?」
ライアンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「昨日はお風呂に入れなかったし」
「お風呂に入れなかった…?」
ライアンは顔を顰めて「じゃあ脱がせたら『むあ…ん』となるわけですね…?」と、よくわからないことを口にした。
「それに経験豊富で安心して初めてを任せられると思っているのかも知れないけど、俺はルイを妊娠した一度しか、経験がないんだぞ?」
「たった一度しかし経験がない?」
ライアンは「ほぼ処女じゃないか…」と言って、また生唾を飲み込んだ。だから、唾、のみすぎだって…!
でも一度で妊娠してしまう、なんて、遊びなら怖いよな…?責任は取りたくないもんな?
「しかも俺、友達のおとーさん!友父だよ?」
俺は最後にして最高の、思いとどまらせるための手札を切った。どうだ!?ライアン、思いとどまっただろう?!
しかし、ライアンは俺の手をぎゅっと握った……。
「私が貴方を嫌う要素なんて、そこには何一つありません…!むしろ興奮材料しかな……!ーーどうかお願いです。私の、初めてを貰ってください!」
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