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嘲笑
嘲笑-1-
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後半の撮影は苦行だった。
天月さよに、かなり触られた気がする。ディレクターがまともで、さすがにキスを求めてこなかったので助かった。
頼まれたら発狂していたかもしれない。胡桃以外の女に触られたくない。
彼女には仕事だから、と割り切って伝えたが本音は嫌に決まっている。
自分の体に触れて良いのは彼女だけだ。だって彼女にしか興味は無いのだから。
できることなら彼女だけとずっと絡んでいたい。
俳優もモデルもやっているとこんな矛盾と戦うしかない。幅広く仕事をやってきた結果、こういう所で代償を持つ。
結羽にそれを話すとため息を吐かれた。彼もできるだけ女性と関わる仕事を減らしてくれているみたいだが、それだけだと食べていけないのは事実だ。しかも今回のように依頼があれば基本断りたくない。それで印象が悪くなったらこの仕事の意味がない。
「でも、最後の剛史さん、本当に嫌そうな顔してましたね。それがカメラマンにはウケたみたいですけど」
「あの子が後ろから抱きついてきたんだ。不意打ちでちょっと吐き気した」
撮影が終わって片付けを始めているスタッフを横目で見ながら、剛史は早く水着を脱いでシャワーを浴びて全てを洗い流したかった。綺麗な体にして胡桃と重なりたい。頭の中はそれで埋まっている。
ただ、シャワールームがまだ空かないのでジャグジープールから少し離れた所で待っている。結羽もさすがに同情してくれていた。
「TAKESHIさん」
呼ばれて渋々と振り返る。
濡れた水着のまま紗良が近づいてきた。ため息一つ吐いて彼女を見る。
「今日はありがとうございました。凄く楽しかったなあ」
「……そう」
「……今日の夜空いてます?」
「空いてません」
断言した彼に、紗良はにやりと笑う。
剛史の目が冷たくなる。後ろに下がる前に紗良の体が前のめりになった。
自分の胸元に彼女の豊満な胸が触れる。
体温がまた下がった。
「私、TAKESHIさんのこと、ずっと狙ってたんですよ。
貴方は演じているみたいだけど私には分かる。
……本当の貴方は貪欲で暗くて全てを蔑んでいる」
「……」
何も言わない。言う必要が無い。
「貴方なら、本当の私を解放してくれる。……だから指名したの。貴方に近づきたくて」
「…………へえ」
声が低くなる。
胡桃には出したことが無い、泥にまみれた声だ。
「ねえ、一緒に来て?私、貴方のこと――」
「……ふ……はは…………はははっ」
乾いた笑い声が出てくる。口を塞ぎつつも声が漏れてしまう。
その姿に紗良の言葉と表情が止まった。
笑いが止まらない。あまりにも馬鹿馬鹿しくて剛史は嘲笑する。
――ああ、久しぶりに、胡桃に出会う前の声を出したな……
戸惑う紗良に目を向けた。
据わった蔑みの瞳。何もかも捨てた色の無いもの。
「はあ……お前みたいな女、ほんと気持ち悪い」
「えっ」
「そうやって色んな男に言ってたわけ」
「ちが……ほんとに私」
「俺は君に一切興味が無い。名前すら覚えてない」
手で彼女を押し返した。ふらつく女を見下ろす。
「悪いけど他を当たってくれる?俺には、もう全部をあげてる人がいるから」
「…………えっ」
目を見開いた彼女。最悪、言いふらされる可能性もあったが今はどうでも良かった。
自分に絶対的な自信を持っているこいつを、一度折らせた方が良さそうだと剛史は思っていた。
それに、反吐が出る。
「君より一億倍も魅力的だ。いや数字で表すのも彼女におこがましいな。
……俺の体は彼女だけのものだ。悪いけど君に入る隙間なんてないよ」
「っ……」
「あと、ついでに言っておくと」
大サービスだと言わんばかりに剛史は紗良の顔に近づいて言葉を吐き捨てる。
「君、そんなんじゃ幸せになれないよ」
紗良から血の気が引いていく。まるで、これまでの自分を全て否定されたかのようだった。
天月さよに、かなり触られた気がする。ディレクターがまともで、さすがにキスを求めてこなかったので助かった。
頼まれたら発狂していたかもしれない。胡桃以外の女に触られたくない。
彼女には仕事だから、と割り切って伝えたが本音は嫌に決まっている。
自分の体に触れて良いのは彼女だけだ。だって彼女にしか興味は無いのだから。
できることなら彼女だけとずっと絡んでいたい。
俳優もモデルもやっているとこんな矛盾と戦うしかない。幅広く仕事をやってきた結果、こういう所で代償を持つ。
結羽にそれを話すとため息を吐かれた。彼もできるだけ女性と関わる仕事を減らしてくれているみたいだが、それだけだと食べていけないのは事実だ。しかも今回のように依頼があれば基本断りたくない。それで印象が悪くなったらこの仕事の意味がない。
「でも、最後の剛史さん、本当に嫌そうな顔してましたね。それがカメラマンにはウケたみたいですけど」
「あの子が後ろから抱きついてきたんだ。不意打ちでちょっと吐き気した」
撮影が終わって片付けを始めているスタッフを横目で見ながら、剛史は早く水着を脱いでシャワーを浴びて全てを洗い流したかった。綺麗な体にして胡桃と重なりたい。頭の中はそれで埋まっている。
ただ、シャワールームがまだ空かないのでジャグジープールから少し離れた所で待っている。結羽もさすがに同情してくれていた。
「TAKESHIさん」
呼ばれて渋々と振り返る。
濡れた水着のまま紗良が近づいてきた。ため息一つ吐いて彼女を見る。
「今日はありがとうございました。凄く楽しかったなあ」
「……そう」
「……今日の夜空いてます?」
「空いてません」
断言した彼に、紗良はにやりと笑う。
剛史の目が冷たくなる。後ろに下がる前に紗良の体が前のめりになった。
自分の胸元に彼女の豊満な胸が触れる。
体温がまた下がった。
「私、TAKESHIさんのこと、ずっと狙ってたんですよ。
貴方は演じているみたいだけど私には分かる。
……本当の貴方は貪欲で暗くて全てを蔑んでいる」
「……」
何も言わない。言う必要が無い。
「貴方なら、本当の私を解放してくれる。……だから指名したの。貴方に近づきたくて」
「…………へえ」
声が低くなる。
胡桃には出したことが無い、泥にまみれた声だ。
「ねえ、一緒に来て?私、貴方のこと――」
「……ふ……はは…………はははっ」
乾いた笑い声が出てくる。口を塞ぎつつも声が漏れてしまう。
その姿に紗良の言葉と表情が止まった。
笑いが止まらない。あまりにも馬鹿馬鹿しくて剛史は嘲笑する。
――ああ、久しぶりに、胡桃に出会う前の声を出したな……
戸惑う紗良に目を向けた。
据わった蔑みの瞳。何もかも捨てた色の無いもの。
「はあ……お前みたいな女、ほんと気持ち悪い」
「えっ」
「そうやって色んな男に言ってたわけ」
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手で彼女を押し返した。ふらつく女を見下ろす。
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それに、反吐が出る。
「君より一億倍も魅力的だ。いや数字で表すのも彼女におこがましいな。
……俺の体は彼女だけのものだ。悪いけど君に入る隙間なんてないよ」
「っ……」
「あと、ついでに言っておくと」
大サービスだと言わんばかりに剛史は紗良の顔に近づいて言葉を吐き捨てる。
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