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痛い
痛い-3-
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建物の壁まで追い込まれる。至近距離に剛史の顔があった。
野外でここまで近づかれた事がなかったので、胡桃の心臓は高鳴っていた。
「それで、どうしてここにいるの?」
彼の低い声が耳に届いて行き渡る。周りの雑音が全て消えていくようだ。
「友達と、一緒に遊びに来たの……水着買って」
「ふうん。俺は初耳だけど」
「……剛史さんだって、今日、ここで撮影なんて言ってなかったです」
「え、言ってなかったっけ?」
真顔で返されて、胡桃は記憶を掘り起こした。前にベッドで話していた会話を思い出す。
「もしかして、厄介な仕事ってこれですか」
「そう。先方が指名してきた。断りたかったんだけど、結羽が雑誌の売り上げによっては休みが少し増やせるかもって言ってきたからさ。それならまあいいかって思って」
今回の撮影の雑誌は夏の水着特集で毎年恒例行事なので良く売れるらしい。
男性にも女性にも買われる時期なのでギャラが弾むと、業界では噂になっていた。
「でも……あんなに、一ノ瀬さんと引っ付いてて」
「あの子一ノ瀬って言うんだ、知らなかった。……まあ、仕事だからな」
「……」
まるで他人事のように言う。剛史はそうやって割り切れるのだろう。
でも、胡桃は普通と考えられない。恋人ができたばかりで恋愛経験も乏しくて、正当な理由があったとしても彼が別の女性といるのは、当たり前じゃない。
頬を膨らませて、顔を俯かせていると、剛史が顎に手を添えてくる。
「嫉妬、してるの?」
「っ……だって……一ノ瀬さん、絡んでた……剛史さんの腕にさわってた」
「女優さんならドラマでそういう事もあるよ。一応モデルもやってるから、女性と密着して写真を撮られる事もある」
「……仕事、だから?」
「そう。俺の仕事はそういう事をする場所だ」
唇を噛んだ。
華やかな世界だと思っていたし、その裏で絶え間ない努力をしなければ生きていけない世界だとも分かっていた。胡桃は表側を楽しむ観客だったから。
でも、彼が関わってしまえば観客でいられない。
仕方ないで終われる程、この時はまだ頑丈にできていなかった。
「…………いや」
「何が?」
剛史が頬を吊り上げて聞く。
分かっている。私の気持ちはもう知られている。
彼の手が頬を撫でる。言いたくないのに言葉は漏れてくる。
「剛史さんが他の人に触られるのが嫌、貴方がそう思ってなくても……やだ。
それで嫉妬する自分が嫌。嫌らしくて、恥ずかしいの」
「可愛いよ」
「っ……やだ。他の女の人が触るの……やっぱり嫌だよ」
顔が赤くなって、泣きたくなる。自分がこんなに嫉妬深かったなんて恥ずかしくて隠れたい。
「俺が、誰を一番好きか、分かってる?」
息を耳に吹きかけられて、舌が耳に入ってくる。直接音が届いて目をぎゅっと瞑った。
彼の手がそのまま水着の上から膨らんだ胸を揉み始める。ぐるぐると回しながら、時々乳首を潰すように押し付けて、喘ぐ声が出てしまう。死角だとしても、誰かが通るかもしれないのに。
剛史はサングラスをずらして顔が露わになっている。これが知られたら大変な騒ぎになるだろう。
怖いのに刺激的で、不安なのに胡桃の体は素直に悦んでいた。
舌が体を這っている。気持ち良いのにどこか物足りない。布の上から触られていて、いつもより強くない唇で、満たされない体。燻っている不安のせいでどんどん求めてしまう。体を開こうとした。
「たけし……さん……」
「七時」
「ぇっ」
「隣にあるホテルの個室プールを予約してる。七時になったらおいで。
それまでに答えを考えておくこと」
野外でここまで近づかれた事がなかったので、胡桃の心臓は高鳴っていた。
「それで、どうしてここにいるの?」
彼の低い声が耳に届いて行き渡る。周りの雑音が全て消えていくようだ。
「友達と、一緒に遊びに来たの……水着買って」
「ふうん。俺は初耳だけど」
「……剛史さんだって、今日、ここで撮影なんて言ってなかったです」
「え、言ってなかったっけ?」
真顔で返されて、胡桃は記憶を掘り起こした。前にベッドで話していた会話を思い出す。
「もしかして、厄介な仕事ってこれですか」
「そう。先方が指名してきた。断りたかったんだけど、結羽が雑誌の売り上げによっては休みが少し増やせるかもって言ってきたからさ。それならまあいいかって思って」
今回の撮影の雑誌は夏の水着特集で毎年恒例行事なので良く売れるらしい。
男性にも女性にも買われる時期なのでギャラが弾むと、業界では噂になっていた。
「でも……あんなに、一ノ瀬さんと引っ付いてて」
「あの子一ノ瀬って言うんだ、知らなかった。……まあ、仕事だからな」
「……」
まるで他人事のように言う。剛史はそうやって割り切れるのだろう。
でも、胡桃は普通と考えられない。恋人ができたばかりで恋愛経験も乏しくて、正当な理由があったとしても彼が別の女性といるのは、当たり前じゃない。
頬を膨らませて、顔を俯かせていると、剛史が顎に手を添えてくる。
「嫉妬、してるの?」
「っ……だって……一ノ瀬さん、絡んでた……剛史さんの腕にさわってた」
「女優さんならドラマでそういう事もあるよ。一応モデルもやってるから、女性と密着して写真を撮られる事もある」
「……仕事、だから?」
「そう。俺の仕事はそういう事をする場所だ」
唇を噛んだ。
華やかな世界だと思っていたし、その裏で絶え間ない努力をしなければ生きていけない世界だとも分かっていた。胡桃は表側を楽しむ観客だったから。
でも、彼が関わってしまえば観客でいられない。
仕方ないで終われる程、この時はまだ頑丈にできていなかった。
「…………いや」
「何が?」
剛史が頬を吊り上げて聞く。
分かっている。私の気持ちはもう知られている。
彼の手が頬を撫でる。言いたくないのに言葉は漏れてくる。
「剛史さんが他の人に触られるのが嫌、貴方がそう思ってなくても……やだ。
それで嫉妬する自分が嫌。嫌らしくて、恥ずかしいの」
「可愛いよ」
「っ……やだ。他の女の人が触るの……やっぱり嫌だよ」
顔が赤くなって、泣きたくなる。自分がこんなに嫉妬深かったなんて恥ずかしくて隠れたい。
「俺が、誰を一番好きか、分かってる?」
息を耳に吹きかけられて、舌が耳に入ってくる。直接音が届いて目をぎゅっと瞑った。
彼の手がそのまま水着の上から膨らんだ胸を揉み始める。ぐるぐると回しながら、時々乳首を潰すように押し付けて、喘ぐ声が出てしまう。死角だとしても、誰かが通るかもしれないのに。
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舌が体を這っている。気持ち良いのにどこか物足りない。布の上から触られていて、いつもより強くない唇で、満たされない体。燻っている不安のせいでどんどん求めてしまう。体を開こうとした。
「たけし……さん……」
「七時」
「ぇっ」
「隣にあるホテルの個室プールを予約してる。七時になったらおいで。
それまでに答えを考えておくこと」
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