哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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痛い

痛い-2-

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零れる泥に対処できなくなってセンタープールに戻る。美歩の姿を探した。
流れるプールに彼女はいたが一人ではなかった。隣に知らない男性がいて談笑している。
日焼けがくっきりと目立つ褐色の肌の男性。美歩は嬉しそうに話していて、何となく悟ってしまった。
どうやら美歩はお目当ての人物を見つけたらしい。
安心と少し寂しさを感じて、胡桃はプールサイドに座った。足だけ水に浸かる。


周りは水と戯れる人で賑わっている。
確かに気持ち良いけど、胡桃は浮かれた気分になれなかった。
剛史と紗良はどこまで密接しているのだろうか。


抱き合う写真を撮っていたら。
唇がどこかに触れていたら。
彼のどこかが紗良に近づいていたら。


頭を必死に横に振る。考えたくない。嫌なのに頭は悪い方ばかり想像してしまう。
体をぎゅっと抱き締めて、しばらく流れるプールを見ていた。


「君、可愛いね」


声がした。ぼうっとプールを眺めていてそれが自分に対する声だと気づくのに時間が掛かった。


「おーい、そこの黄色い子」
「……え」


振り向くと、三人の男が胡桃に近づいてきた。知らない人。
体つきの大きい人と平均的な肉体で眼鏡の人、痩せ型でそばかすが顔に目立つ人。
自分より恐らく年上の男がニヤニヤしながら見つめている。
ぞわりと背筋に気持ち悪い何かが走って思わず立ち上がる。


「君一人?俺達と一緒に遊ばない」
「は……はい?」


体つきの大きい男が一歩近づく。下がりたかったけど後ろは水の中だった。


「水着すごく似合ってますね、美味しいかき氷奢りますよ」


眼鏡の男。文章がよく分からないと胡桃は思った。


「一人じゃつまらないでしょ、俺達ここの常連だから案内するよ」


痩せ型の男。一人はつまらないって勝手に決めないでほしいと胡桃は思った。


「あの、私、一人じゃなくて」
「え、一人でしょ。さっきからずっとここでボーッとしててさ、誘ってくださいって言ってるようなものじゃん」


この男は何を言ってるのだろう。ただ、美歩が戻るのを待っていただけなのに。


「君、俺の好みなんだよね、こんな所で出会えて嬉しいな、一緒に遊ぼうぜ」
「あ、あの……」


体つきの大きい男が手を近づけてくる。
以前、朋香から「軽そうな男には要注意だからね!」と言われたことを思い出す。
案の定、三人に囲まれて動けない。
男の手が胡桃の胸元に来た。


さわられる――数センチ手前で、別の手が男の手首をがっちり掴んでそのまま捻った。


「え」
「いってえっ」


唸り声。二人の男は驚いて手から視線を追った。


胡桃の隣に別の男が立っていた。茶色のサングラスを掛けていた。グレーのサーフパンツに黒いロゴが描かれた水着で、いつ着替えたのだろうと胡桃は思った。
さらに手首を90度近く捻りながら男は吐き捨てた。


「俺の連れに何か」


サングラスで隠れていたが、目は据わっていた。まるで害虫を見るような目つきだった。


低い声に怯えた三人は後ずさりする。体つきの大きい男が舌打ちして「先客付きかよ」と捨て台詞を吐いて立ち去った。二人も逃げるように走っていく。
その三人よりも胡桃は自分の隣に立つ男が信じられなかった。ほんの少し前までジャグジープールにいたはずなのに。


彼の名前を呼ぶ前に腕を掴まれた。
引っ張られるようにプールから離れていく。美歩は対角線上で話しているので気づいていなさそうだった。
流れに身を任せて、剛史を見た。
背中からは何も伝わってこない。
向かっている先が更衣室の死角なのは分かった。建物の間にある小さな空間。


沸々と、黒い泥が出てくる。胡桃の中にはまだ“不安”が燻っていた。




三人の男の情けない声がする。
「んだよ、絶対一人かと思ってたのに」
「……なあ、さっきの男、TAKESHIに似てなかった?」
「は?今向こうで撮影してるんだろ。ないない。こんな所に来るわけないだろ」
「他人のそら似じゃね、あの子の彼氏っぽかったし」
「んー、やっぱ他人かあ」
眼鏡を掛けた男が納得する。二人はもう別の女の子がいないか物色し始めていた。
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