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プール
プール-3-
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案の定、ジャグジープールには規制線が張られていた。何か事件があったかのような騒々しさで水着の人々が物珍しそうに集まっている。センタープールより小さい分密集していた。それでも二つあるジャグジープールはこの施設で二番目に広かった。
胡桃と美歩は興味で近づいたが、人の多さでプールまで目が届かない。
「全然見えないわねー」
「何の撮影だろ……」
時折、ジャンプしたり目を細めたりするが微々たるもので全く分からない。人々が少しずつ諦めて別のプールに移動している。二人も戻ろうと引き返そうとした。
「あ、なんか情報載ってるかな」
そう美歩は呟いて防水バックに入れていた携帯電話を取り出す。口コミを調べるためにプールについてのタイムラインを検索した。
瞬間、顔をしかめて「げっ」と濁った声を出した。胡桃は首を傾げる。
「どうしたの?美歩ちゃん」
「いや、まあ、撮影みたいだけど、天月さよだったから一気に興味失せたわ。戻ろ」
「天月さよって誰?」
「はっ!?」
驚いて口をぽかんと開けたまま美歩は胡桃を凝視した。まるで希少動物に出くわしたかのような顔。
胡桃の頭上には多くのはてなマークが飛んでいる。一瞬考える素振りになり、妙に納得した美歩。
「……ああ、そっか。本人から聞いてないのね」
勝手に一人で解決しているので、ますます意味が分からなかった。
美歩が説明しようと口を開けた時、前方からどよめきがした。
引き返そうとしていた二人はジャグジープールから離れたはずだったのに、そこから歩いてくる一人の女性。
彼女は二人の、いや細かく言えば胡桃を見つけて興味津々になって、周りの観客を放っておいて近づいてきたのだ。
声で二人が視線を戻すと、美歩はさらに眉間を皺に寄せて、胡桃は思わず「えっ?」と女性を見た。
「珍しい所で会うわね」
「……一ノ瀬さん?」
撮影場所から来たのは、久しく会っていなかった一ノ瀬紗良だった。
淡いピンクのワンピース型水着。青と白の花柄が入った、着心地も良さそうなものを紗良は身につけていた。
さらに唾の広い麦わら帽子も被っていて、まるでモデルのような姿だった。
「なんで一ノ瀬さんがここに……」
「あら、私の仕事のこと知らなかったの?」
「……はい?」
ため息を吐いた美歩が小声で教えてくれた。
「天月さよは彼女の芸名。紗良はグラビアモデルなのよ」
「…………ええっ!?」
新事実だった。変な噂は聞いていたが、本職が学生ではなくモデルだとは知らなかった。
胡桃の頭は理解して処理することに必死だった。それを見て面白そうに紗良は笑う。赤色のメッシュが入った髪を掻き上げた。
「今日は雑誌の撮影。ギャラリーは多い方が盛り上がるから貴方たちも見ていってね」
周りにいた、主に男性が紗良に釘付けになっている。相手の女性は紗良を睨んでいる。
存在感が大学の時とは桁違いだった。彼女は男性を引き寄せ女性を遠ざける匂いでも持っているのだろうか。
まじまじと胡桃は見ていた。彼女は自信に溢れていて、それが体にも滲み出ている。豊満な胸にスレンダーな手足、大きな黒い瞳、吊り上げている唇、誰だって一瞬は魅了される。
紗良は胡桃を観察するように眺めた。査定されているようで目を逸らす。
「……まあまあね。貴方ならもっと攻めてもいいんじゃない」
「っ……」
「あのさ、撮影行かなくていいわけ?私達は遊びに来ただけなんで」
胡桃の手を引っ張って美歩が言葉を吐き捨てる。
その行動がさらに面白かったのか、紗良はまたふふっと笑う。
「なんだ見てくれないのね。もったいない、今日は相手がいる撮影なのに」
彼女がそう言うと同時にディレクターらしき声が聞こえてきた。
胡桃達観客の耳にも届く。
「TAKESHIさん入りますー」
胡桃と美歩は興味で近づいたが、人の多さでプールまで目が届かない。
「全然見えないわねー」
「何の撮影だろ……」
時折、ジャンプしたり目を細めたりするが微々たるもので全く分からない。人々が少しずつ諦めて別のプールに移動している。二人も戻ろうと引き返そうとした。
「あ、なんか情報載ってるかな」
そう美歩は呟いて防水バックに入れていた携帯電話を取り出す。口コミを調べるためにプールについてのタイムラインを検索した。
瞬間、顔をしかめて「げっ」と濁った声を出した。胡桃は首を傾げる。
「どうしたの?美歩ちゃん」
「いや、まあ、撮影みたいだけど、天月さよだったから一気に興味失せたわ。戻ろ」
「天月さよって誰?」
「はっ!?」
驚いて口をぽかんと開けたまま美歩は胡桃を凝視した。まるで希少動物に出くわしたかのような顔。
胡桃の頭上には多くのはてなマークが飛んでいる。一瞬考える素振りになり、妙に納得した美歩。
「……ああ、そっか。本人から聞いてないのね」
勝手に一人で解決しているので、ますます意味が分からなかった。
美歩が説明しようと口を開けた時、前方からどよめきがした。
引き返そうとしていた二人はジャグジープールから離れたはずだったのに、そこから歩いてくる一人の女性。
彼女は二人の、いや細かく言えば胡桃を見つけて興味津々になって、周りの観客を放っておいて近づいてきたのだ。
声で二人が視線を戻すと、美歩はさらに眉間を皺に寄せて、胡桃は思わず「えっ?」と女性を見た。
「珍しい所で会うわね」
「……一ノ瀬さん?」
撮影場所から来たのは、久しく会っていなかった一ノ瀬紗良だった。
淡いピンクのワンピース型水着。青と白の花柄が入った、着心地も良さそうなものを紗良は身につけていた。
さらに唾の広い麦わら帽子も被っていて、まるでモデルのような姿だった。
「なんで一ノ瀬さんがここに……」
「あら、私の仕事のこと知らなかったの?」
「……はい?」
ため息を吐いた美歩が小声で教えてくれた。
「天月さよは彼女の芸名。紗良はグラビアモデルなのよ」
「…………ええっ!?」
新事実だった。変な噂は聞いていたが、本職が学生ではなくモデルだとは知らなかった。
胡桃の頭は理解して処理することに必死だった。それを見て面白そうに紗良は笑う。赤色のメッシュが入った髪を掻き上げた。
「今日は雑誌の撮影。ギャラリーは多い方が盛り上がるから貴方たちも見ていってね」
周りにいた、主に男性が紗良に釘付けになっている。相手の女性は紗良を睨んでいる。
存在感が大学の時とは桁違いだった。彼女は男性を引き寄せ女性を遠ざける匂いでも持っているのだろうか。
まじまじと胡桃は見ていた。彼女は自信に溢れていて、それが体にも滲み出ている。豊満な胸にスレンダーな手足、大きな黒い瞳、吊り上げている唇、誰だって一瞬は魅了される。
紗良は胡桃を観察するように眺めた。査定されているようで目を逸らす。
「……まあまあね。貴方ならもっと攻めてもいいんじゃない」
「っ……」
「あのさ、撮影行かなくていいわけ?私達は遊びに来ただけなんで」
胡桃の手を引っ張って美歩が言葉を吐き捨てる。
その行動がさらに面白かったのか、紗良はまたふふっと笑う。
「なんだ見てくれないのね。もったいない、今日は相手がいる撮影なのに」
彼女がそう言うと同時にディレクターらしき声が聞こえてきた。
胡桃達観客の耳にも届く。
「TAKESHIさん入りますー」
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