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香水
香水-2-
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手のひらに乗る四角い瓶には薄桃色の液体が入っていて、銀色の筆記体で“ROSE”と書かれてあった。
香水なんて買った事はなくて、知識が疎い胡桃だが美歩や朋香が付けていたものとは違うと分かる。
簡単に言えば高価なものだった。まじまじとそれを眺める。蓋をしていても漂ってくるものがあった。
「良い香り」
「プレゼントのおすすめに香水があって、気になって買ってみたんだ。
あと、少しだけ、俺の独占欲もある」
「独占欲……」
刺激的な言葉に体がきゅっと縮む。
数ヶ月彼と過ごしてきて分かった事があった。彼の性格には表と裏がある。
華やかな芸能人として舞台に立つ彼は決して目立ちがりやではない。周りの意見を汲み取って、最善の答えを話して場を盛り上げたり、司会の様子を目で瞬時に確認して共演者を引き立てたりと、極端に好かれるわけでも嫌われるわけでもない立ち位置だった。
でも、裏の顔は。
胡桃と過ごしている時の剛史は、強引で全てを飲み込んでいくような怪物だ。
欲しい、と呟いて体の奥底まで掻き乱す。なんて恐ろしい人だろう。恐ろしくて、心地良い。
「今、胡桃も言ってただろ。赤い薔薇が俺みたいって。だったら俺を忘れないようにしてほしい。
常に君の傍に俺を置いて欲しいって……なんかほんと、変な男みたいだけど」
「そんな事ない」
必死で首を横に振った。
嫌ならとっくに逃げている。離れない理由は、満足しているからだ。求められて嬉しいからだ。
手で優しく贈り物を持って、剛史を真っ直ぐに見た。
「初めて付ける香水が、剛史さんのプレゼントで嬉しいです。大切にします」
「……ああ、良かった」
安堵して息を吐いて、恥ずかしそうに笑う。
余裕を演じるのも大変だ。彼女の前ではどうしても普段の理性と隠された本能が戦う。少しでも揺らげば本能が目覚める。今だってそうだ。大切に自分が贈った香水を握っている彼女を見ているだけで、本能が出てきてしまう。
「ねえ、せっかくだから付けてみてよ」
「はい!」
笑ってゆっくりと蓋を開ける。香りが強くなった。
ふわりと漂う甘い匂い。柔軟剤や芳香剤で使われていたものを想像していたが実際は違った。
誘われているのは視界一面に広がる薔薇園の中。ゼロ距離で花の中にいるような、体に染み渡っていくように。
いっそのこと、自分の体ごと花の中心に飛び込んでしまいたい。
「ふぁ……」
目が垂れる。頭の回転が急激に遅くなる。
目の前の香りに抗えない。手の甲にそれを付けてみた。
確か美歩達は片手に付けたものを反対の手の甲に擦るように混ぜていた気がする。
「女子の身だしなみの一つよ。まあ、男が香りで落ちる時もあったりするけどね」と笑っていた美歩の顔がぼやけ始める。
次は……首筋に……付けて……
自分の空気に纏わり付く匂いで体がふらつく。
思わず隣にいた男の目を見た。
「胡桃?」
「あ……あの」
「っ」
剛史は目を合わせた瞬間に唾を飲み込んだ。
様子が変わった。頬が赤い。瞳が溶けている。困ったように手をもじもじと胸で交差させている。
この表情を知っている。自分しか知らない顔、だと思う。一度体を合わせた後の顔だ。
自分と愛し合っている時の、満たされた顔。
「わたし…………ひゃっ」
抱き締めると上ずった声を出した。体温が上がっているのか肌から熱さを感じる。
心臓がいつもより早く脈打っている。
香水なんて買った事はなくて、知識が疎い胡桃だが美歩や朋香が付けていたものとは違うと分かる。
簡単に言えば高価なものだった。まじまじとそれを眺める。蓋をしていても漂ってくるものがあった。
「良い香り」
「プレゼントのおすすめに香水があって、気になって買ってみたんだ。
あと、少しだけ、俺の独占欲もある」
「独占欲……」
刺激的な言葉に体がきゅっと縮む。
数ヶ月彼と過ごしてきて分かった事があった。彼の性格には表と裏がある。
華やかな芸能人として舞台に立つ彼は決して目立ちがりやではない。周りの意見を汲み取って、最善の答えを話して場を盛り上げたり、司会の様子を目で瞬時に確認して共演者を引き立てたりと、極端に好かれるわけでも嫌われるわけでもない立ち位置だった。
でも、裏の顔は。
胡桃と過ごしている時の剛史は、強引で全てを飲み込んでいくような怪物だ。
欲しい、と呟いて体の奥底まで掻き乱す。なんて恐ろしい人だろう。恐ろしくて、心地良い。
「今、胡桃も言ってただろ。赤い薔薇が俺みたいって。だったら俺を忘れないようにしてほしい。
常に君の傍に俺を置いて欲しいって……なんかほんと、変な男みたいだけど」
「そんな事ない」
必死で首を横に振った。
嫌ならとっくに逃げている。離れない理由は、満足しているからだ。求められて嬉しいからだ。
手で優しく贈り物を持って、剛史を真っ直ぐに見た。
「初めて付ける香水が、剛史さんのプレゼントで嬉しいです。大切にします」
「……ああ、良かった」
安堵して息を吐いて、恥ずかしそうに笑う。
余裕を演じるのも大変だ。彼女の前ではどうしても普段の理性と隠された本能が戦う。少しでも揺らげば本能が目覚める。今だってそうだ。大切に自分が贈った香水を握っている彼女を見ているだけで、本能が出てきてしまう。
「ねえ、せっかくだから付けてみてよ」
「はい!」
笑ってゆっくりと蓋を開ける。香りが強くなった。
ふわりと漂う甘い匂い。柔軟剤や芳香剤で使われていたものを想像していたが実際は違った。
誘われているのは視界一面に広がる薔薇園の中。ゼロ距離で花の中にいるような、体に染み渡っていくように。
いっそのこと、自分の体ごと花の中心に飛び込んでしまいたい。
「ふぁ……」
目が垂れる。頭の回転が急激に遅くなる。
目の前の香りに抗えない。手の甲にそれを付けてみた。
確か美歩達は片手に付けたものを反対の手の甲に擦るように混ぜていた気がする。
「女子の身だしなみの一つよ。まあ、男が香りで落ちる時もあったりするけどね」と笑っていた美歩の顔がぼやけ始める。
次は……首筋に……付けて……
自分の空気に纏わり付く匂いで体がふらつく。
思わず隣にいた男の目を見た。
「胡桃?」
「あ……あの」
「っ」
剛史は目を合わせた瞬間に唾を飲み込んだ。
様子が変わった。頬が赤い。瞳が溶けている。困ったように手をもじもじと胸で交差させている。
この表情を知っている。自分しか知らない顔、だと思う。一度体を合わせた後の顔だ。
自分と愛し合っている時の、満たされた顔。
「わたし…………ひゃっ」
抱き締めると上ずった声を出した。体温が上がっているのか肌から熱さを感じる。
心臓がいつもより早く脈打っている。
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