哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

文字の大きさ
上 下
38 / 51
香水

香水-2-

しおりを挟む
手のひらに乗る四角い瓶には薄桃色の液体が入っていて、銀色の筆記体で“ROSE”と書かれてあった。
香水なんて買った事はなくて、知識が疎い胡桃だが美歩や朋香が付けていたものとは違うと分かる。
簡単に言えば高価なものだった。まじまじとそれを眺める。蓋をしていても漂ってくるものがあった。


「良い香り」
「プレゼントのおすすめに香水があって、気になって買ってみたんだ。
あと、少しだけ、俺の独占欲もある」
「独占欲……」


刺激的な言葉に体がきゅっと縮む。
数ヶ月彼と過ごしてきて分かった事があった。彼の性格には表と裏がある。

華やかな芸能人として舞台に立つ彼は決して目立ちがりやではない。周りの意見を汲み取って、最善の答えを話して場を盛り上げたり、司会の様子を目で瞬時に確認して共演者を引き立てたりと、極端に好かれるわけでも嫌われるわけでもない立ち位置だった。

でも、裏の顔は。
胡桃と過ごしている時の剛史は、強引で全てを飲み込んでいくような怪物だ。
欲しい、と呟いて体の奥底まで掻き乱す。なんて恐ろしい人だろう。恐ろしくて、心地良い。


「今、胡桃も言ってただろ。赤い薔薇が俺みたいって。だったら俺を忘れないようにしてほしい。
常に君の傍に俺を置いて欲しいって……なんかほんと、変な男みたいだけど」
「そんな事ない」


必死で首を横に振った。
嫌ならとっくに逃げている。離れない理由は、満足しているからだ。求められて嬉しいからだ。

手で優しく贈り物を持って、剛史を真っ直ぐに見た。


「初めて付ける香水が、剛史さんのプレゼントで嬉しいです。大切にします」
「……ああ、良かった」


安堵して息を吐いて、恥ずかしそうに笑う。
余裕を演じるのも大変だ。彼女の前ではどうしても普段の理性と隠された本能が戦う。少しでも揺らげば本能が目覚める。今だってそうだ。大切に自分が贈った香水を握っている彼女を見ているだけで、本能が出てきてしまう。


「ねえ、せっかくだから付けてみてよ」
「はい!」


笑ってゆっくりと蓋を開ける。香りが強くなった。
ふわりと漂う甘い匂い。柔軟剤や芳香剤で使われていたものを想像していたが実際は違った。
誘われているのは視界一面に広がる薔薇園の中。ゼロ距離で花の中にいるような、体に染み渡っていくように。
いっそのこと、自分の体ごと花の中心に飛び込んでしまいたい。


「ふぁ……」


目が垂れる。頭の回転が急激に遅くなる。
目の前の香りに抗えない。手の甲にそれを付けてみた。
確か美歩達は片手に付けたものを反対の手の甲に擦るように混ぜていた気がする。
「女子の身だしなみの一つよ。まあ、男が香りで落ちる時もあったりするけどね」と笑っていた美歩の顔がぼやけ始める。


次は……首筋に……付けて……


自分の空気に纏わり付く匂いで体がふらつく。
思わず隣にいた男の目を見た。


「胡桃?」
「あ……あの」
「っ」


剛史は目を合わせた瞬間に唾を飲み込んだ。
様子が変わった。頬が赤い。瞳が溶けている。困ったように手をもじもじと胸で交差させている。
この表情を知っている。自分しか知らない顔、だと思う。一度体を合わせた後の顔だ。
自分と愛し合っている時の、満たされた顔。


「わたし…………ひゃっ」


抱き締めると上ずった声を出した。体温が上がっているのか肌から熱さを感じる。
心臓がいつもより早く脈打っている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。

恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。 飼主さんが大好きです。 グロ表現、 性的表現もあります。 行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。 基本的に苦痛系のみですが 飼主さんとペットの関係は甘々です。 マゾ目線Only。 フィクションです。 ※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。

【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜

船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】 お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。 表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。 【ストーリー】 見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。 会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。 手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。 親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。 いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる…… 托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。 ◆登場人物 ・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン ・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員 ・ 八幡栞  (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女 ・ 藤沢茂  (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

うちの娘と(Rー18)

量産型774
恋愛
完全に冷え切った夫婦関係。 だが、そんな関係とは反比例するように娘との関係が・・・ ・・・そして蠢くあのお方。 R18 近親相姦有 ファンタジー要素有

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

人妻の日常

Rollman
恋愛
人妻の日常は危険がいっぱい

処理中です...