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ざわつく
ざわつく-3-
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一人暮らしができて、好きな本について知るために勉強したくてこの大学に入った。
とても単純で曖昧な理由。
将来の夢は高校生の時から特になかった。中学までピアノをしていたけど、それは趣味や習い事の範囲で、平凡に普通に生きてきている。今は何をしたいのか。
来年からは就職活動も始まる。
そろそろ具体的にどこへ向かうか決める時だった。
……分からなかった。
先生と話していても、アパレルに興味を持って勉強している美歩と話していても、自分のプランは思い浮かばなかった。勉強してアルバイトしている今の自分が普通だから。
でも、一つだけ夢はある。最近できた小さな夢。
その夢を実現するためにやれることをしたい。
胡桃は目の前で話すのを待っていてくれる彼に向かった言葉を紡いだ。
「私、剛史さんに釣り合う女性になりたい」
「…………えっ?」
「まだ子どもかもしれないし、貴方みたいに振る舞える大人には程遠いけど、いつか、剛史さんの隣に堂々と立てる日が来るのなら……それまでに自分を磨いて、きちんとした女性になりたいです。今まで適当に過ごしていたから、やることがいっぱいだけど、頑張りたいって今は思っているから」
「……」
「本当にざっくりだけど、これって目標になるのかな……なんか、上手く言えないですね」
微笑んで顔を傾けた彼女に、剛史は頭を抱えた。
悩んだわけじゃない。顔を隠したかった。
今の自分はにやけている。嫌らしい笑顔だ。彼女には見せられない。
タイミング良くスタッフがデザートを尋ねてきて助かった。
いつものブラックコーヒーを頼んでから不意にスタッフに目配せして、彼がにこやかに頷いたのを確認した。
照明が暗くなる。
胡桃が疑問に思った時、良くある歌を小声で口ずさんだ。
「Happy Birthday to you……」
ホールケーキをスタッフが持ってきた。中央に数字の20の蝋燭が飾られている。
チョコレートの家。スポンジケーキの上にチョコクリームが塗られていた。イチゴが周りを囲んでいて、メッセージは『誕生日おめでとうKURUMI』、そして花の形に切られたイチゴが二つ寄り添っていた。
「おめでとう」
「……ありがとう」
目が潤んでいる。口を手で押さえながら声は震えていた。
「こんな、幸せな誕生日……初めて……」
「良かった。君が喜んでくれたら、俺も本当に嬉しい」
誕生日を祝うことには慣れていた。主催者側を任されるし、喜んでもらえる方法は良く知っているつもりだ。
でも、今日は、今まで以上に達成感と満足感が強い。
彼女が笑ってくれて、自分を見つめる瞳に涙が浮かんでいるのが、嬉しかった。
頭を下げて感謝を伝える彼女に、こっそりと教えるように呟いた。
「これ食べたら、別のプレゼントも用意してるから。
…………場所、変えるよ」
その声は含みのあるもので、彼女は耳まで真っ赤に染まっていった。
やっぱり期待している。ますます愛おしくなった。
他の誰のプレゼントよりも、濃密に刻みつけてやろうと剛史は心の中で決意していた。
とても単純で曖昧な理由。
将来の夢は高校生の時から特になかった。中学までピアノをしていたけど、それは趣味や習い事の範囲で、平凡に普通に生きてきている。今は何をしたいのか。
来年からは就職活動も始まる。
そろそろ具体的にどこへ向かうか決める時だった。
……分からなかった。
先生と話していても、アパレルに興味を持って勉強している美歩と話していても、自分のプランは思い浮かばなかった。勉強してアルバイトしている今の自分が普通だから。
でも、一つだけ夢はある。最近できた小さな夢。
その夢を実現するためにやれることをしたい。
胡桃は目の前で話すのを待っていてくれる彼に向かった言葉を紡いだ。
「私、剛史さんに釣り合う女性になりたい」
「…………えっ?」
「まだ子どもかもしれないし、貴方みたいに振る舞える大人には程遠いけど、いつか、剛史さんの隣に堂々と立てる日が来るのなら……それまでに自分を磨いて、きちんとした女性になりたいです。今まで適当に過ごしていたから、やることがいっぱいだけど、頑張りたいって今は思っているから」
「……」
「本当にざっくりだけど、これって目標になるのかな……なんか、上手く言えないですね」
微笑んで顔を傾けた彼女に、剛史は頭を抱えた。
悩んだわけじゃない。顔を隠したかった。
今の自分はにやけている。嫌らしい笑顔だ。彼女には見せられない。
タイミング良くスタッフがデザートを尋ねてきて助かった。
いつものブラックコーヒーを頼んでから不意にスタッフに目配せして、彼がにこやかに頷いたのを確認した。
照明が暗くなる。
胡桃が疑問に思った時、良くある歌を小声で口ずさんだ。
「Happy Birthday to you……」
ホールケーキをスタッフが持ってきた。中央に数字の20の蝋燭が飾られている。
チョコレートの家。スポンジケーキの上にチョコクリームが塗られていた。イチゴが周りを囲んでいて、メッセージは『誕生日おめでとうKURUMI』、そして花の形に切られたイチゴが二つ寄り添っていた。
「おめでとう」
「……ありがとう」
目が潤んでいる。口を手で押さえながら声は震えていた。
「こんな、幸せな誕生日……初めて……」
「良かった。君が喜んでくれたら、俺も本当に嬉しい」
誕生日を祝うことには慣れていた。主催者側を任されるし、喜んでもらえる方法は良く知っているつもりだ。
でも、今日は、今まで以上に達成感と満足感が強い。
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頭を下げて感謝を伝える彼女に、こっそりと教えるように呟いた。
「これ食べたら、別のプレゼントも用意してるから。
…………場所、変えるよ」
その声は含みのあるもので、彼女は耳まで真っ赤に染まっていった。
やっぱり期待している。ますます愛おしくなった。
他の誰のプレゼントよりも、濃密に刻みつけてやろうと剛史は心の中で決意していた。
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