35 / 51
ざわつく
ざわつく-2-
しおりを挟む
外観は密やかに佇んでいる『ミエーレ』。しかし中に入ると個室はほとんど客でいっぱいだった。
カーテンで表立って見えないが有名人が中に入っているのかもしれない。
前と変わらず奥の個室に案内された。
最初は訝しんでいた男性スタッフも今では「胡桃様」と呼ぶようになって恥ずかしくて慣れない。店では剛史の恋人であることが知られている。一人で来た時も変わらず対応してくれたので、胡桃のお気に入りのカフェになった。一人で勉強したり物思いに耽る場所として最適だった。
コース料理を剛史は注文していた。前菜からちょうど良いタイミングで料理が運ばれてくる。
値段が桁違いに上がるので今まで注文したことはなかった。胡桃は料理の一覧を見て圧倒されつつも至福の気持ちだった。
笑顔の彼女を見るだけで、自分の悩みなんて小さなものだと錯覚できる。
思い通りに行かずにもがく自分は格好悪く見えるだろうなと剛史はぼんやり思っていた。
付き合い始めて彼女の料理の好みも分かった。
意外に肉食系でハンバーグが一番好きだった。メインディッシュはいつも肉を選んでいる。美味しそうに頬張る姿を見ていると、そんな彼女を食べたくなってしまう。
衝動はいつだってある。
スープが熱いから口を小さく開けて息を吐く姿。
自分の仕事の話を嬉しそうに聞きながら時折髪を掻き上げる仕草。
目線が混ざって恥ずかしそうに俯く顔。
どれも目に焼き付けていく。抱き締めて体中にキスしたくなる衝動を必死で抑える。いつからこんなに貪欲になってしまったのか、剛史には分からない。隠れて呼吸を整えていた。
「ハタチになったらお酒も飲めるな。オススメのワインがあるから今度紹介するよ」
「わあ、嬉しいです。最初は剛史さんと飲みたいって思ってたから、すごく楽しみです」
「へえ……それなら口移しで飲ませたいな」
「っ……えっと……それも、良ければ……」
ほら。視線を下げてもじもじしながら、期待している声。
可愛い小動物だった。簡単に捕まえて口に入れたくなる。
彼女の話も楽しい。大学で友達と過ごしている何気ない日常が、剛史には眩しかった。自分ができなかったことを体験している彼女が少しだけ羨ましい。でもまるで疑似体験をしている気分だった。
何より、ふっと沈黙しても全く苦にはならなかった。
空間を感じながら食事をするのが心地良い。最初は恥ずかしがっていたのに、慣れてきて目が合うと頬が緩んでいた。数ヶ月しか経っていないが彼女は着実に大人になりつつあった。
「胡桃は目標とかあるの?」
「目標……ですか」
胡桃は考えた。
浮かれていた一日だったけど、今日から自分は変わる。
世間からは”大人”として認定されて、様々なものができるようになったり、縛られたりする。
目標。何をしたいのかと聞かれて改めて自分に問いかけた。
カーテンで表立って見えないが有名人が中に入っているのかもしれない。
前と変わらず奥の個室に案内された。
最初は訝しんでいた男性スタッフも今では「胡桃様」と呼ぶようになって恥ずかしくて慣れない。店では剛史の恋人であることが知られている。一人で来た時も変わらず対応してくれたので、胡桃のお気に入りのカフェになった。一人で勉強したり物思いに耽る場所として最適だった。
コース料理を剛史は注文していた。前菜からちょうど良いタイミングで料理が運ばれてくる。
値段が桁違いに上がるので今まで注文したことはなかった。胡桃は料理の一覧を見て圧倒されつつも至福の気持ちだった。
笑顔の彼女を見るだけで、自分の悩みなんて小さなものだと錯覚できる。
思い通りに行かずにもがく自分は格好悪く見えるだろうなと剛史はぼんやり思っていた。
付き合い始めて彼女の料理の好みも分かった。
意外に肉食系でハンバーグが一番好きだった。メインディッシュはいつも肉を選んでいる。美味しそうに頬張る姿を見ていると、そんな彼女を食べたくなってしまう。
衝動はいつだってある。
スープが熱いから口を小さく開けて息を吐く姿。
自分の仕事の話を嬉しそうに聞きながら時折髪を掻き上げる仕草。
目線が混ざって恥ずかしそうに俯く顔。
どれも目に焼き付けていく。抱き締めて体中にキスしたくなる衝動を必死で抑える。いつからこんなに貪欲になってしまったのか、剛史には分からない。隠れて呼吸を整えていた。
「ハタチになったらお酒も飲めるな。オススメのワインがあるから今度紹介するよ」
「わあ、嬉しいです。最初は剛史さんと飲みたいって思ってたから、すごく楽しみです」
「へえ……それなら口移しで飲ませたいな」
「っ……えっと……それも、良ければ……」
ほら。視線を下げてもじもじしながら、期待している声。
可愛い小動物だった。簡単に捕まえて口に入れたくなる。
彼女の話も楽しい。大学で友達と過ごしている何気ない日常が、剛史には眩しかった。自分ができなかったことを体験している彼女が少しだけ羨ましい。でもまるで疑似体験をしている気分だった。
何より、ふっと沈黙しても全く苦にはならなかった。
空間を感じながら食事をするのが心地良い。最初は恥ずかしがっていたのに、慣れてきて目が合うと頬が緩んでいた。数ヶ月しか経っていないが彼女は着実に大人になりつつあった。
「胡桃は目標とかあるの?」
「目標……ですか」
胡桃は考えた。
浮かれていた一日だったけど、今日から自分は変わる。
世間からは”大人”として認定されて、様々なものができるようになったり、縛られたりする。
目標。何をしたいのかと聞かれて改めて自分に問いかけた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サディストの飼主さんに飼われてるマゾの日記。
風
恋愛
サディストの飼主さんに飼われてるマゾヒストのペット日記。
飼主さんが大好きです。
グロ表現、
性的表現もあります。
行為は「鬼畜系」なので苦手な人は見ないでください。
基本的に苦痛系のみですが
飼主さんとペットの関係は甘々です。
マゾ目線Only。
フィクションです。
※ノンフィクションの方にアップしてたけど、混乱させそうなので別にしました。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
死ぬ前にしたい1のコト
中嶋 まゆき
恋愛
30歳、仕事もできず、彼氏なし――どころか経験、ゼロ。
このままじゃダメだともがけばもがくほど、全部上手くいかない。
自棄酒を呑んだ帰り、朝起きるとまさかの年下男子を連れ込んでいた。しかも、責任取って面倒みてなんて脅してくるんですけど……!?記憶がなく大混乱に陥る最中、思わぬところかも参戦されて!?
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる