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誕生日
誕生日-4-
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「ほらほら、開けてみてよ」
そう言ったのは周りにいたパートのおばさん三人組だった。
世間話から恋バナ等々、休憩室でお喋りが絶えないが仕事はテキパキとこなす三人は、喋らなければキャリアウーマンに思われるかも、と男性陣は小声で話している。
「尚人くん、いいかな」
「……うん」
了承を貰えたので、ゆっくりリボンを解いていく。箱はクラフトされた軽いものだった。
開けた瞬間に芳しい香りが辺りに漂ってくる。
「うわあ」
箱には花がぎっしり詰まれていた。青を基調としたフラワーボックスだった。
「とても綺麗、色んな花がある」
「それはお花屋さんが上手だったんだよ。アジサイとかネモフィラとか、僕青い花が好きなんだ」
尚人の言葉を聞く中で、中央に一際目立つ花があった。既視感のある花。
「青い薔薇」
「あ、うん。プリザーブドフラワーだから天然物じゃないけど、なんか神秘的でいいよねブルーローズって」
「……」
まるで他の花より異色を放っているようで、胡桃は目が釘付けになった。
綺麗なはず、なのに。
青という色に少しだけ違和感を持つ。
その理由にはもう気づいている。
彼が自分を呼ぶ声。抱き締めて、口を開けられて舌を入れられる瞬間。
私の胸元には赤い薔薇が咲いている。
この青色が変色して徐々に赤に染まっていく様を見た気がした。
「胡桃ちゃん?」
「あっ……えっと、すごく嬉しい。本当にありがとう尚人くん」
「良かったあ」
ケーキを食べながら談笑している先輩達。
フラワーボックスを仕舞って、胡桃は尚人や朋香と他愛のない話をした。
クリームが甘さ控えめで美味しい。そして、楽しい。
今までの人生で最高の誕生日パーティーだった。
ケーキを食べたら解散になった。
朋香と二人で歩きながら帰る途中だった。
「尚人さん、胡桃ちゃんをお祝いしたいって、店長とかチーフに相談してたんだよ。最近すごく頑張ってるからって。このパーティーの主催者みたいな感じかな」
「そうなんだ……尚人くんには感謝しかないよ」
笑顔になった彼女に、数秒黙ってから朋香は思い切って尋ねた。
「……胡桃ちゃんには、好きな人がいるんだよね。私や尚人さんの知らない人で」
「……うん」
「そっか。明日はその人と過ごすのかな」
「……うん」
また朋香は数秒沈黙する。そして、何度かうんうんと頷いた。
尚人の気持ちには気づいていた。
でも、目の前の彼女の嬉しそうな顔を見たら胡桃を応援したくなる。自分を助けてくれた彼女には幸せになってほしかった。
「今の胡桃ちゃん、すっごく綺麗だからきっとその人も喜ぶと思うよ。私が保証する」
「ありがと、朋香ちゃん」
互いに微笑む。
笑顔も変わったなと朋香は思っていた。
飾り気のない純粋な笑顔だったのに、今の胡桃にはどこか妖艶で体から溢れる色気を感じ取れるような笑顔になっている。恐らく、彼女の好きな人が影響しているのだろう。嬉しいけれど、どこか遠くへ行ってしまったようで朋香は胸が締め付けられた。
別々に道に分かれた時、いつものように手を振り合って歩き出した。
立ち止まった朋香は振り向く。
胡桃が真っ直ぐ帰路に着くために進んでいる。こちらに振り向く気配はない。
しばらく彼女を目で追った。
「胡桃ちゃんが幸せになりますように」
一息ついて、朋香も進み出す。
見上げると星が良く見えた。こんなに美しかったのに二人とも話題にしなかった事を思い出していた。
そう言ったのは周りにいたパートのおばさん三人組だった。
世間話から恋バナ等々、休憩室でお喋りが絶えないが仕事はテキパキとこなす三人は、喋らなければキャリアウーマンに思われるかも、と男性陣は小声で話している。
「尚人くん、いいかな」
「……うん」
了承を貰えたので、ゆっくりリボンを解いていく。箱はクラフトされた軽いものだった。
開けた瞬間に芳しい香りが辺りに漂ってくる。
「うわあ」
箱には花がぎっしり詰まれていた。青を基調としたフラワーボックスだった。
「とても綺麗、色んな花がある」
「それはお花屋さんが上手だったんだよ。アジサイとかネモフィラとか、僕青い花が好きなんだ」
尚人の言葉を聞く中で、中央に一際目立つ花があった。既視感のある花。
「青い薔薇」
「あ、うん。プリザーブドフラワーだから天然物じゃないけど、なんか神秘的でいいよねブルーローズって」
「……」
まるで他の花より異色を放っているようで、胡桃は目が釘付けになった。
綺麗なはず、なのに。
青という色に少しだけ違和感を持つ。
その理由にはもう気づいている。
彼が自分を呼ぶ声。抱き締めて、口を開けられて舌を入れられる瞬間。
私の胸元には赤い薔薇が咲いている。
この青色が変色して徐々に赤に染まっていく様を見た気がした。
「胡桃ちゃん?」
「あっ……えっと、すごく嬉しい。本当にありがとう尚人くん」
「良かったあ」
ケーキを食べながら談笑している先輩達。
フラワーボックスを仕舞って、胡桃は尚人や朋香と他愛のない話をした。
クリームが甘さ控えめで美味しい。そして、楽しい。
今までの人生で最高の誕生日パーティーだった。
ケーキを食べたら解散になった。
朋香と二人で歩きながら帰る途中だった。
「尚人さん、胡桃ちゃんをお祝いしたいって、店長とかチーフに相談してたんだよ。最近すごく頑張ってるからって。このパーティーの主催者みたいな感じかな」
「そうなんだ……尚人くんには感謝しかないよ」
笑顔になった彼女に、数秒黙ってから朋香は思い切って尋ねた。
「……胡桃ちゃんには、好きな人がいるんだよね。私や尚人さんの知らない人で」
「……うん」
「そっか。明日はその人と過ごすのかな」
「……うん」
また朋香は数秒沈黙する。そして、何度かうんうんと頷いた。
尚人の気持ちには気づいていた。
でも、目の前の彼女の嬉しそうな顔を見たら胡桃を応援したくなる。自分を助けてくれた彼女には幸せになってほしかった。
「今の胡桃ちゃん、すっごく綺麗だからきっとその人も喜ぶと思うよ。私が保証する」
「ありがと、朋香ちゃん」
互いに微笑む。
笑顔も変わったなと朋香は思っていた。
飾り気のない純粋な笑顔だったのに、今の胡桃にはどこか妖艶で体から溢れる色気を感じ取れるような笑顔になっている。恐らく、彼女の好きな人が影響しているのだろう。嬉しいけれど、どこか遠くへ行ってしまったようで朋香は胸が締め付けられた。
別々に道に分かれた時、いつものように手を振り合って歩き出した。
立ち止まった朋香は振り向く。
胡桃が真っ直ぐ帰路に着くために進んでいる。こちらに振り向く気配はない。
しばらく彼女を目で追った。
「胡桃ちゃんが幸せになりますように」
一息ついて、朋香も進み出す。
見上げると星が良く見えた。こんなに美しかったのに二人とも話題にしなかった事を思い出していた。
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