哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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痕-3-

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両手で頬を覆った。自分はそんな表情をしていたのか。
表情筋が緩んでいる自覚はあったけど、他人でも分かる所まで来てしまったのか。

紗良はクスクス笑いながら舐めるように全身を見つめてくる。

「初めての男?どんな人かしら。貴方みたいなのは大胆な男が好みでしょう。激しく突いてくれるような荒々しいセックスされて、嬉しかったんじゃない?」
「やめてくださいっ」

恥ずかしさと勝手に想像された怒りで椅子を下げようとする。
急に紗良の指が胡桃の服に近づいた。グレーのブラウスの谷間に指をあてられてびくっとする。
綺麗な人差し指だった。
あてられた部分は大事な彼の証がある場所。

「あの時、購買で貴方が私にお金をくれた時。お辞儀したでしょう。
ダメよ。胸元が少しでも開いた服なんてセックスの後に着たら、昨日やってましたって人に言ってるようなもの」
「っ、そんな」
「キスマーク。隠してたつもりでも、私みたいな女には見えちゃうのよ。知らないうちに体を眺めているんだから。
赤い痕がお辞儀した谷間からうっすらと……」

手で服を掴んで彼女の指から離れる。
彼の薔薇の証。今はほとんど消えてしまっていたが、大切にしたい場所だった。服の上からでも誰かに触られるのは嫌だった。

まるで子どもをからかうように笑っている彼女に腹立たしさを覚えた。

胡桃は立ち上がる。
この場所にいる必要性を感じない。
一度でも彼女を可哀想だと思った自分は間違っていたと思う。

「戻ります。コーヒー、わざわざありがとうございました」
「あら、ご機嫌悪くしたならごめんなさいね。でも、彼との夜の生活で困ったらいつでも相談に来ていいわよ。
私、貴方みたいな子は嫌いじゃないし」

行くものか、と心に決めた。

急に彼女の噂が胡桃の周りの空気に纏わり付く。
彼女に恋人の相談をしてしまえば、剛史との関係がバレる。彼の迷惑になるし何より……紗良に剛史を取られてしまうと思った。それだけは絶対に嫌だった。

最後に頭を下げて、胡桃はくるりと踵を返す。

後ろから紗良の声がした。

さっきと打って変わって、真剣な声色に思えた。



「……気をつけなさいよ。のめり込みすぎたら、貴方は戻れなくなる」



まるで、予言のようだった。

この時の胡桃には酷く不快なもので、無視する言葉だった。
振り向くつもりは全くなかった。

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