哀歌-miele-【R-18】

鷹山みわ

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静寂

静寂-2-

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音が鳴る。この瑞々しい音が外に漏れてしまったら。
考えたら余計に息づかいが荒くなった。

しばらく奉仕のように互いを貪っていた二人。
絶頂に行く前に息を弾ませながら口を外した。

「はあ、はあ、はあ……」

彼の欲望は膨れ上がったまま、自分に向けられているような気がして子宮がきゅうっと引き締まる。
期待している。
剛史は舌をあてたまま、懇願するように囁いた。

「……いれたい」

彼は上半身を起こしてシャツを脱ぎ捨てる。体の向きをひっくり返して、胡桃と向かい合う。肉体を見る前に同じようにシャツを脱がされて生まれたての体にされてしまう。上に跨って、彼は間髪入れずに自分のものを胡桃の中に入れようとした。

「あ、ま、まって」
「だめ、待たない」
「やぁっ……」

まだ人に聞かれたくないという羞恥で口を手で塞いだ。
目を閉じながら剛史が搾り取るように声を出した。

「……っ、じゃあ、声出したくないなら塞いでろ……このまま、する」
「っ……うっ」

自分の手が必死に声を飛び出させないように閉じている。
混ざり合って溶ける感覚が蘇る。

昨日のホテルならもっと声を上げて喜びを表現できたのに。自分の部屋は周りに雑音が多くて不安になってしまう。その不安を消すように彼のものがずぶずぶと通ってくる。

涙が浮かぶ。
恥ずかしさと気持ちよさと、もっと彼に喜んで欲しいのにと悔しさが相まって、目が雫がぽろぽろと出てくる。

顔が至近距離に詰まる。目を合わせる。
胡桃の涙を見て、一瞬動きを止めたが、安心させるように剛史が微笑んだ。

「はあ、はあ……すごく気持ち良いよ……今度は、胡桃も、声を上げられる場所で、しような」
「……っあ……はい……剛史さん……好きです」
「俺も…………愛してる」
「っ……」



“愛している”なんて、初めて言われた。
これまで以上の電流が体を疾走していく。

愛。
凄く甘くて、リンゴの蜜のように蕩けてしまいそうな言葉。
彼の愛はそう聞こえる。

「……愛してる…………あっ」

反復するように胡桃が呟くと、急に剛史は腰を振り始めた。
声を一瞬だけ上げてまた口を塞ぐ。
リズム良く突かれて、我慢しても嫌らしい声が手の隙間から漏れ出てくる。快楽に悶えて自分も彼と同じように上下に腰を振る。くぐもった声が部屋にこだましていた。呼吸の間が短くなっていく。周りの景色が途切れていく。
息を潜めていた彼の声も、熱を帯びて部屋から飛び出していきそうだった。

「あぁ、おれ、イキそう……っだけど、胡桃、は?」

こくこくと頷く。限界だった。我慢なんてするものじゃない。意識を手放して真っ白になりたかった。
ぼやける視界から見えたのは、剛史も自分の口を塞ぐ姿。声が大きくなっていたらしい。気づかなかった。

「――っ!」

一瞬、互いが痙攣して飛び散る音。ゆっくりと沈んでいく波。
胡桃が塞いでいた手を離すと、口から少しだけ涎が垂れていた。たった、数時間離れていただけなのに。
二人は強くしがみつきながら息を整える。強力な磁石で付着しているような二つの体。

自分のベッドに彼の匂いが染みついたようで、胡桃は嬉しくなった。
壁に貼られた彼のポスターの笑顔が少し淫乱に見えてしまう。
虚像ではない、本物の彼の胸の中で静かに目を閉じた。

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