哀歌-aika-【R-18】

哀歌

哀歌-6-※暴力表現あり

でも、彼女が望むなら圧迫させなければ。自分の腕に神経を集中させる。
彼女の目に涙が浮かんできた。
自分の視界も歪む。どうして自分も涙が出てくるのか剛史には分からなかった。
口が言いたがっている。これは俺の所有物だと、俺のものだと、穢れた泥が留まることなく溢れてくる。

「愛してる、胡桃っ」

首を絞めながら愛を告げる男がどこにいるだろうか。でも快感が先に体に走ってくる。
その反動でさらに強い力になる。跨ったまま自分自身の手先を見つめていた。


二人とも声が掠れてきた。言葉にならない呻き声。
自分も彼女も激しくセックスしたあの時と同じ、いやそれ以上の枯れた声になる。
告白に涙を流しながら、笑顔で答えようとする胡桃の声は、白い箱の中でしか聞こえない程小さくなっていた。

「…………ア…………アイ…………シテ……――――」

体が震える。
剛史は目を閉じた。
それは、その瞬間を見たくなかったからか。
それとも、最期まで甘美に浸りたかったのか。


…………。




自分の腕にしがみついていた彼女の手が、だらりとベッドに落ちた。
沈黙。時間が止まる。
涙を流しながら剛史はゆっくりと瞳を開ける。
半開きの目、垂れたままの涙、微笑む唇。
彼女の時間が、完全に止まっていた。




まるでプロポーズを告げられたように思えて、胡桃は涙が溢れた。
ただ愛していると言われただけなのに、永遠の愛の誓いを交わしたと思い込んでしまう。

――私も愛しています

そう言ったつもりだった。
結婚式の誓いのように言ったつもりだったけれど、彼には届いたかな。

視界が暗闇に堕ちる。彼の顔が見えなくなる。体の感覚が失われる。

――あ……私、本当に、剛史さんの中に、入れたんだ……

声が出ない。何も出来ない。
急に、考える事が面倒くさくなった。
自分は彼と一つになれた。それでいい。最期に願望が形になれて、胡桃は満足した。

「あいしてる」と呟いて、この身全てを投げ出した。
胡桃の体は、意識は、どこかへ浮遊していった。