44 / 45
【第44話:神獣さま】
しおりを挟む
突然目の前に現れた魔人は、人ではない笑みを口元に浮かべ、鋭く伸びた爪でオレを引き裂いた。
「ぐふっ!?」
やばい……息が、できない……。
オレは咄嗟に身体を捻り、何とか首は回避したが、肩から胸にかけてかなり深く斬り裂かれてしまった。
しかも、魔人の凄まじい膂力により、吹き飛ばされ、受け身も出来ずに無様に転がる事になってしまった。
「さよならだ。無謀な少年」
そして、オレに止めを刺そうと振りかぶられた腕は……肘から先が消し飛んでいた。
なんだ? 何が起こっている?
オレの中に凄まじい力が流れ込んできている。
傷口が非常識な速度で塞がっていく。
あらゆる周りの情報が頭に流れ込んでくる。
「ばぅ~!!」
「パズ!!」
これは……職業スキル『獣使い』の力か?
パズと主従契約を交わした時から、今までもパズとの繋がりは感じていた。
しかしこれは……今までが細い糸のようなもので繋がっていたイメージだとすると、今はまるで丸太のような太さのロープで繋がっているようだ。
主人の命が……オレの命が危険にさらされて、パズとの繋がりが強化されて、その力が流れ込んできたのか?
「いや、今はそんな事はいい……このチャンスに畳み掛けるぞ!! パズ!」
「ばぅ!」
オレの想いを感じ取ったパズがいつの間に拾ったのか、口に咥えていた霊槍カッバヌーイをこちらに放り投げてきた。
「おのれ!? ただの魔物の分際で、どこまで邪魔をするつもりだ!! 簡単に死ねると思うなよぉぉ!!」
片手を失い、怨嗟の言葉を口にする魔人を横目に、オレは槍を受け取る。
そして、そのまま体をくるりと回転させると、遠心力を点の力へと変化させて、ただ早くあれと突きを繰り出した。
「はぁぁぁぁ!!」
槍が手に馴染む。
まるで自分の手足のようだ。
「ぐっ!? ば、馬鹿な!? 人間ごときの力で我の身体を穿つだと!?」
パズばかりを警戒して、オレへの注意がおろそかになっていたのもあり、オレの突き出した渾身の突きは、魔人の肩を貫いていた。
武器適性Sランクだって事に頼り切りだった槍の扱いだったが、ここに来て、何か開眼したような感覚だ。
「ばぅぅ!!」
そして、魔人の注意がオレに向けられた瞬間。
辺り一面にキラキラと輝く淡い光が広がっていく。
氷の結晶だ。
これは……前にパズが迷宮で使って見せた技に似ているが……そこへ込められた魔力が、その規模が段違いだ……。
「ぐっ!? こ、これは……」
魔人も事態が呑み込めず、思わず絶句している。
尚も広がり続ける氷の結晶が、キラキラと幻想的な世界を創り上げていく。
その光景は、まるで世界を書き換えていくような、そんな風に感じた。
そして……その氷の結晶の拡大が止まった瞬間。
「ばぉぉぉぉぉん!!」
パズの咆哮と共に世界が収束した。
一粒一粒に馬鹿げた魔力が込められた無数の氷の結晶が、全周囲から魔人に向かって行く。
「く、こ、こんな所でぇぇぇ!!」
魔人が何か防壁のようなものを展開したように見えたが、まるでそれこそ幻だったかのように、氷の結晶は防壁を粉砕し、魔人へと到達した。
全周囲から氷の結晶が魔人を襲い……。
「き、消え去ったのか……?」
跡形もなくというのは、こういうことを言うのだろうか。
全周囲から魔人に殺到した氷の結晶は、魔人に触れた瞬間にその身体を凍てつかせ、そのまま通り抜けると、粉微塵に砕きさったのだった。
◆
「倒したのか……」
オレたちが駆けつける前から、パズは魔人と互角に戦いながらも、倒れている街の人たちを庇い、治療を試みるといった格の違いを見せつけていた。
だから、オレたちがその街の人たちを助け出したことで足かせが無くなり、一気に有利になるだろう事はある程度予測できた。それを狙ってもいた。
だけど……最後のアレは、今までのパズと比べても次元の違う強さに感じた。
「ばぅわぅ!」
「え? 繋がりが太くなって強化されるのは、オレだけじゃないのか?」
オレは、自分の命が危なくなった時、パズとの繋がりが強化されて、パズの力がオレに流れ込んできたのだと思った。
だけど、パズが言うにはそれだけじゃないらしい。
繋がりが強化されると、オレの『獣使い』としての力により、パズもまた大きな力を得る事ができるという事だった。
「なるほどな……しかし、なんとか倒せて良かっ……」
「ユウト!!」
「ユウトさん!!」
オレがパズから説明を受けていると、ミヒメとヒナミがオレの名を呼びながら駆け寄ってきた。
「ユウト、大丈夫なの!?」
「ユウトさん、さっき凄い血が……」
「ちょ、ちょっと待って。そんなべたべた触るな!?」
オレの事を心配してくれるのは嬉しいけど、いきなり人の身体をべたべた触るのはやめて欲しい。
「な、治ってる……あんたの身体、どうなってるの……?」
「パズちゃんが治した?」
これはどうやって治ったのだろう?
「パズのお陰なのは間違いないが……」
繋がりが強くなった時に、いきなり回復が始まった感じだったが?
「ばぅわぅ!」
「そうか。……どうやらパズが、オレとの繋がりを通じて回復魔法を使ってくれたらしい」
そんな事も出来るのか。もう、何でもありだな。
「よ、良かった……私、ユウトが死んじゃったかと思った……」
「私もだよ~。ユウトさん無事でほんとに良かった……」
「あぁ、二人とも、ありがとうな……」
仲間にこうやって心配して貰えるって、それだけでもありがたいものだな。
なんだか暖かい空気に包まれたようで、心地よい。
そんな風に感じていると……。
「か、勝ったのか……? あの凄まじい化物に?」
「この辺り一帯が凍り付いたように見えたけど……」
「あの化物は炎を使ってて、戦ってた小さな神獣さまが氷を使ってただろ? ってことはさ……」
「やっぱり勝ったのか……や、やったぁ~!」
「うわぁぁぁ!! す、凄い! やはり神獣さまが勝ったんだぁ!!」
そこからはもう凄い騒ぎになってしまった。
いや、それより、さっきから気になる言葉が含まれているのだが……。
「神獣って、どう考えてもパズの事を言ってるよな?」
その後、オレたちは街の人たちに囲まれ、ねぎらいの言葉と質問攻めにあったのだった。
「ぐふっ!?」
やばい……息が、できない……。
オレは咄嗟に身体を捻り、何とか首は回避したが、肩から胸にかけてかなり深く斬り裂かれてしまった。
しかも、魔人の凄まじい膂力により、吹き飛ばされ、受け身も出来ずに無様に転がる事になってしまった。
「さよならだ。無謀な少年」
そして、オレに止めを刺そうと振りかぶられた腕は……肘から先が消し飛んでいた。
なんだ? 何が起こっている?
オレの中に凄まじい力が流れ込んできている。
傷口が非常識な速度で塞がっていく。
あらゆる周りの情報が頭に流れ込んでくる。
「ばぅ~!!」
「パズ!!」
これは……職業スキル『獣使い』の力か?
パズと主従契約を交わした時から、今までもパズとの繋がりは感じていた。
しかしこれは……今までが細い糸のようなもので繋がっていたイメージだとすると、今はまるで丸太のような太さのロープで繋がっているようだ。
主人の命が……オレの命が危険にさらされて、パズとの繋がりが強化されて、その力が流れ込んできたのか?
「いや、今はそんな事はいい……このチャンスに畳み掛けるぞ!! パズ!」
「ばぅ!」
オレの想いを感じ取ったパズがいつの間に拾ったのか、口に咥えていた霊槍カッバヌーイをこちらに放り投げてきた。
「おのれ!? ただの魔物の分際で、どこまで邪魔をするつもりだ!! 簡単に死ねると思うなよぉぉ!!」
片手を失い、怨嗟の言葉を口にする魔人を横目に、オレは槍を受け取る。
そして、そのまま体をくるりと回転させると、遠心力を点の力へと変化させて、ただ早くあれと突きを繰り出した。
「はぁぁぁぁ!!」
槍が手に馴染む。
まるで自分の手足のようだ。
「ぐっ!? ば、馬鹿な!? 人間ごときの力で我の身体を穿つだと!?」
パズばかりを警戒して、オレへの注意がおろそかになっていたのもあり、オレの突き出した渾身の突きは、魔人の肩を貫いていた。
武器適性Sランクだって事に頼り切りだった槍の扱いだったが、ここに来て、何か開眼したような感覚だ。
「ばぅぅ!!」
そして、魔人の注意がオレに向けられた瞬間。
辺り一面にキラキラと輝く淡い光が広がっていく。
氷の結晶だ。
これは……前にパズが迷宮で使って見せた技に似ているが……そこへ込められた魔力が、その規模が段違いだ……。
「ぐっ!? こ、これは……」
魔人も事態が呑み込めず、思わず絶句している。
尚も広がり続ける氷の結晶が、キラキラと幻想的な世界を創り上げていく。
その光景は、まるで世界を書き換えていくような、そんな風に感じた。
そして……その氷の結晶の拡大が止まった瞬間。
「ばぉぉぉぉぉん!!」
パズの咆哮と共に世界が収束した。
一粒一粒に馬鹿げた魔力が込められた無数の氷の結晶が、全周囲から魔人に向かって行く。
「く、こ、こんな所でぇぇぇ!!」
魔人が何か防壁のようなものを展開したように見えたが、まるでそれこそ幻だったかのように、氷の結晶は防壁を粉砕し、魔人へと到達した。
全周囲から氷の結晶が魔人を襲い……。
「き、消え去ったのか……?」
跡形もなくというのは、こういうことを言うのだろうか。
全周囲から魔人に殺到した氷の結晶は、魔人に触れた瞬間にその身体を凍てつかせ、そのまま通り抜けると、粉微塵に砕きさったのだった。
◆
「倒したのか……」
オレたちが駆けつける前から、パズは魔人と互角に戦いながらも、倒れている街の人たちを庇い、治療を試みるといった格の違いを見せつけていた。
だから、オレたちがその街の人たちを助け出したことで足かせが無くなり、一気に有利になるだろう事はある程度予測できた。それを狙ってもいた。
だけど……最後のアレは、今までのパズと比べても次元の違う強さに感じた。
「ばぅわぅ!」
「え? 繋がりが太くなって強化されるのは、オレだけじゃないのか?」
オレは、自分の命が危なくなった時、パズとの繋がりが強化されて、パズの力がオレに流れ込んできたのだと思った。
だけど、パズが言うにはそれだけじゃないらしい。
繋がりが強化されると、オレの『獣使い』としての力により、パズもまた大きな力を得る事ができるという事だった。
「なるほどな……しかし、なんとか倒せて良かっ……」
「ユウト!!」
「ユウトさん!!」
オレがパズから説明を受けていると、ミヒメとヒナミがオレの名を呼びながら駆け寄ってきた。
「ユウト、大丈夫なの!?」
「ユウトさん、さっき凄い血が……」
「ちょ、ちょっと待って。そんなべたべた触るな!?」
オレの事を心配してくれるのは嬉しいけど、いきなり人の身体をべたべた触るのはやめて欲しい。
「な、治ってる……あんたの身体、どうなってるの……?」
「パズちゃんが治した?」
これはどうやって治ったのだろう?
「パズのお陰なのは間違いないが……」
繋がりが強くなった時に、いきなり回復が始まった感じだったが?
「ばぅわぅ!」
「そうか。……どうやらパズが、オレとの繋がりを通じて回復魔法を使ってくれたらしい」
そんな事も出来るのか。もう、何でもありだな。
「よ、良かった……私、ユウトが死んじゃったかと思った……」
「私もだよ~。ユウトさん無事でほんとに良かった……」
「あぁ、二人とも、ありがとうな……」
仲間にこうやって心配して貰えるって、それだけでもありがたいものだな。
なんだか暖かい空気に包まれたようで、心地よい。
そんな風に感じていると……。
「か、勝ったのか……? あの凄まじい化物に?」
「この辺り一帯が凍り付いたように見えたけど……」
「あの化物は炎を使ってて、戦ってた小さな神獣さまが氷を使ってただろ? ってことはさ……」
「やっぱり勝ったのか……や、やったぁ~!」
「うわぁぁぁ!! す、凄い! やはり神獣さまが勝ったんだぁ!!」
そこからはもう凄い騒ぎになってしまった。
いや、それより、さっきから気になる言葉が含まれているのだが……。
「神獣って、どう考えてもパズの事を言ってるよな?」
その後、オレたちは街の人たちに囲まれ、ねぎらいの言葉と質問攻めにあったのだった。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~
猫野 にくきゅう
ファンタジー
国を追放された聖女が、隣国で幸せになる。
――おそらくは、そんな内容の小説に出てくる
『嫌われ役』の王子に、転生してしまったようだ。
俺と俺の暮らすこの国の未来には、
惨めな破滅が待ち構えているだろう。
これは、そんな運命を変えるために、
足掻き続ける俺たちの物語。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる