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【第41話:ともかく】
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近くにいた者たちを一人残らず燃やしつくした上級魔人が、呆れた様子で呟いた。
「脆い……この時代の者どもは、なんと脆いのだ。抵抗らしい抵抗一つできないとは。これでは、魔王様が復活する前に我だけで滅ぼしてしまうのではないか?」
もう上級魔人の近くには生きている者は誰もおらず、街の住人は少しでも距離を取ろうと必死に逃げ惑っていた。
それを詰まらなそうに見ていた上級魔人だったが、
「どの程度の強さか確かめてからと思ったが、それも無駄な時間だったな。もう後は纏めて……ん? なんだ? この気配は?」
もう見るべきものは何もないと、纏めて辺り一帯を焼き尽くそうとした上級魔人だったが、突然現れた気配に眉をひそめる。
「こ、これは、どういうことだ……これほどの強烈な気配を発しているのに、姿が見えぬとは!?」
今まで感じた事のないような気配がすぐ近くから発せられているのに、どこにもその者の姿が見えず、困惑する上級魔人。
「ま、まさか……我でも見破れぬような強力な隠蔽の魔法か!?」
「ばぅ?」
「はっ!? ち、近い!? しかし、これほど強力な気配を発しているのに隠蔽の効果が切れぬとはどういう……」
「ば~う?」
「もう、すぐそこではないか!? こんなすぐ側から気配を感じるというのに」
「ばぅわぅ?」
「ん……な、なんだ? このちんちくりんな生き物は?」
しかし、そこでようやく先ほどから感じている異様な気配が、そのちんちくりん……足元にいる一匹のちいさな生き物から発せられている事に気付く。
もちろんその気配は、ユウトたちから先行して駆けつけたパズだ。
「き、貴様かぁぁぁ!? えぇい! 鬱陶しい!」
自分が警戒していた相手が、実は体長三十センチメートルもないような、ちんちくり……パズだったことに恥ずかしくなった上級魔人が八つ当たりの蹴りを放つ。
「ばぅ!」
「なっ!? 避けただと!?」
だが、本気では無かったとはいえ、普通の冒険者や魔物なら、まず避けることが出来ないような速度で繰り出された蹴りを、パズは跳び上がっていとも簡単に避けてみせた。
そして、そのまま上級魔人の蹴った足とは反対の足、つまり軸足の弁慶をお返しとばかりに蹴り返した。
「ぐぬぅおぉぉ!?」
まさか、吹けば飛ぶようなちんちくり……ちいさなパズから、防御を突き抜けるような攻撃を受けるなど想像しておらず、思わず変な声をあげた上級魔人は、慌てて後ろに飛びのいて距離をとった。
「きき、貴様~!! 生命力を吸いつくしてくれる!」
そう言って距離を取った瞬間、上級魔人はドレイン効果のある魔法を展開し、パズへと放った。
しかし、その効果はパズには発揮されなかった。
「ばぅっふっふ♪」
変なドヤ顔のパズの周りには、キラキラと光る氷の結晶が浮かんでいた。
この氷の結晶には莫大な魔力が込められており、上級魔人の放った魔法効果を遮断していた。
いや……遮断するだけではなかった。
氷の結晶にドレインの魔法が触れると、不可視のはずのその魔法が一瞬で凍てつき、塵と化してぱらぱらと消え去ったのだ。
「ば、馬鹿な……魔法を凍らすだと!? い、いったなにものなのだ!? 我の長い記憶の中にも、お前のような奴は存在せぬ!」
驚く上級魔人に、ちょっと得意げなどや顔のパズ。
そして、若干焦らしてからこう言ったのだ。
「ばわわ!」
と……。
本人は「チワワ」と言ったつもりのようだ。
すると、ちょうどその時、逃げ遅れていた街の住人の一人の男がこう叫んだ。
「ふぇ、フェンリル様だ……。し、神獣フェンリル様だ……!」
魔法を凍らすというその能力は、この世界レムリアスではフェンリルの代名詞ともいえる能力だったため、見た目はともかく男が勘違いしてしまったのも仕方なかったかもしれない。
見た目はともかく、パズと同じく神獣フェンリルは、伝承の中では氷を自由自在に扱うというのは有名だったし、今まさにパズが見せた魔法を凍らしてしまうという能力はそのままだったのだから。見た目はともかく。
そう。見た目はともかく。
「ば、馬鹿な……神獣フェンリルだと……そんなちんちくり……ぐぬぅ!? なんという大きさのアイスランスだ!?」
「ばぅわぅ……」
何か馬鹿にされた気がして、咄嗟に巨大な氷柱で攻撃したパズは、きらきらと輝く氷の結晶を周囲に纏い、ゆっくりと上級魔人の元へと歩いていく。
「まさか、本当に神獣フェンリルだというのか……いや、見た目はともかく、この馬鹿げた魔力に、魔法を凍り付かせる能力……認めよう! 貴様をフェンリルだと! 見た目はともかく!」
「ば、ばぅ?」
え? 違うけど? と言っているが、ユウト以外でこういう細かいニュアンスを理解できる者は中々いない。
もちろんパズは、元の世界で言う犬であり、もっと具体的に言うならば『チワワ』という犬種である。
だから当然フェンリルではないのだが、神によって『勇者(犬)』の職業クラスを与えられたパズは、ある意味『神獣』と言っても問題ない強さを持っていた。
こうして上級魔人とちんちくりんの戦いの幕が切って落とされたのだった。
「脆い……この時代の者どもは、なんと脆いのだ。抵抗らしい抵抗一つできないとは。これでは、魔王様が復活する前に我だけで滅ぼしてしまうのではないか?」
もう上級魔人の近くには生きている者は誰もおらず、街の住人は少しでも距離を取ろうと必死に逃げ惑っていた。
それを詰まらなそうに見ていた上級魔人だったが、
「どの程度の強さか確かめてからと思ったが、それも無駄な時間だったな。もう後は纏めて……ん? なんだ? この気配は?」
もう見るべきものは何もないと、纏めて辺り一帯を焼き尽くそうとした上級魔人だったが、突然現れた気配に眉をひそめる。
「こ、これは、どういうことだ……これほどの強烈な気配を発しているのに、姿が見えぬとは!?」
今まで感じた事のないような気配がすぐ近くから発せられているのに、どこにもその者の姿が見えず、困惑する上級魔人。
「ま、まさか……我でも見破れぬような強力な隠蔽の魔法か!?」
「ばぅ?」
「はっ!? ち、近い!? しかし、これほど強力な気配を発しているのに隠蔽の効果が切れぬとはどういう……」
「ば~う?」
「もう、すぐそこではないか!? こんなすぐ側から気配を感じるというのに」
「ばぅわぅ?」
「ん……な、なんだ? このちんちくりんな生き物は?」
しかし、そこでようやく先ほどから感じている異様な気配が、そのちんちくりん……足元にいる一匹のちいさな生き物から発せられている事に気付く。
もちろんその気配は、ユウトたちから先行して駆けつけたパズだ。
「き、貴様かぁぁぁ!? えぇい! 鬱陶しい!」
自分が警戒していた相手が、実は体長三十センチメートルもないような、ちんちくり……パズだったことに恥ずかしくなった上級魔人が八つ当たりの蹴りを放つ。
「ばぅ!」
「なっ!? 避けただと!?」
だが、本気では無かったとはいえ、普通の冒険者や魔物なら、まず避けることが出来ないような速度で繰り出された蹴りを、パズは跳び上がっていとも簡単に避けてみせた。
そして、そのまま上級魔人の蹴った足とは反対の足、つまり軸足の弁慶をお返しとばかりに蹴り返した。
「ぐぬぅおぉぉ!?」
まさか、吹けば飛ぶようなちんちくり……ちいさなパズから、防御を突き抜けるような攻撃を受けるなど想像しておらず、思わず変な声をあげた上級魔人は、慌てて後ろに飛びのいて距離をとった。
「きき、貴様~!! 生命力を吸いつくしてくれる!」
そう言って距離を取った瞬間、上級魔人はドレイン効果のある魔法を展開し、パズへと放った。
しかし、その効果はパズには発揮されなかった。
「ばぅっふっふ♪」
変なドヤ顔のパズの周りには、キラキラと光る氷の結晶が浮かんでいた。
この氷の結晶には莫大な魔力が込められており、上級魔人の放った魔法効果を遮断していた。
いや……遮断するだけではなかった。
氷の結晶にドレインの魔法が触れると、不可視のはずのその魔法が一瞬で凍てつき、塵と化してぱらぱらと消え去ったのだ。
「ば、馬鹿な……魔法を凍らすだと!? い、いったなにものなのだ!? 我の長い記憶の中にも、お前のような奴は存在せぬ!」
驚く上級魔人に、ちょっと得意げなどや顔のパズ。
そして、若干焦らしてからこう言ったのだ。
「ばわわ!」
と……。
本人は「チワワ」と言ったつもりのようだ。
すると、ちょうどその時、逃げ遅れていた街の住人の一人の男がこう叫んだ。
「ふぇ、フェンリル様だ……。し、神獣フェンリル様だ……!」
魔法を凍らすというその能力は、この世界レムリアスではフェンリルの代名詞ともいえる能力だったため、見た目はともかく男が勘違いしてしまったのも仕方なかったかもしれない。
見た目はともかく、パズと同じく神獣フェンリルは、伝承の中では氷を自由自在に扱うというのは有名だったし、今まさにパズが見せた魔法を凍らしてしまうという能力はそのままだったのだから。見た目はともかく。
そう。見た目はともかく。
「ば、馬鹿な……神獣フェンリルだと……そんなちんちくり……ぐぬぅ!? なんという大きさのアイスランスだ!?」
「ばぅわぅ……」
何か馬鹿にされた気がして、咄嗟に巨大な氷柱で攻撃したパズは、きらきらと輝く氷の結晶を周囲に纏い、ゆっくりと上級魔人の元へと歩いていく。
「まさか、本当に神獣フェンリルだというのか……いや、見た目はともかく、この馬鹿げた魔力に、魔法を凍り付かせる能力……認めよう! 貴様をフェンリルだと! 見た目はともかく!」
「ば、ばぅ?」
え? 違うけど? と言っているが、ユウト以外でこういう細かいニュアンスを理解できる者は中々いない。
もちろんパズは、元の世界で言う犬であり、もっと具体的に言うならば『チワワ』という犬種である。
だから当然フェンリルではないのだが、神によって『勇者(犬)』の職業クラスを与えられたパズは、ある意味『神獣』と言っても問題ない強さを持っていた。
こうして上級魔人とちんちくりんの戦いの幕が切って落とされたのだった。
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