異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

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【第39話:どうして?】

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 受付嬢に応接室に案内されたオレたちは、そのまま中へと通された。
 長テーブルが一つだけの素っ気ない部屋にいたのは一人だけ。

「無事だったようだな。よく来てくれた」

 中から出迎えてくれたのは、ギルドマスターのガッツイだ。
 そのガッツイがよくわからない事を言いだした。

「いや~驚いたぞ。まさか君が従えているのがフェンリルだとは思わなかった」

「……え? 違いますけど?」

「え?」

「え?」

「ばぅ?」

 最後にパズが首を傾げながら、ひと吠えする。

「えっと……どうしてパズが、フェンリルだなんて事になってるんですか?」

 フェンリルと言えばこの世界では神獣であるし、白い巨大な狼の姿をしているはずだ。
 ちんちくりんのパズとは見た目が違いするはずだが?

「ばぅ~……」

 心の声が漏れたのか、パズに凄いジト目で睨まれるが、元が三白眼なのであまり普段とかわらない。

「いや……しかし、白い巨大な狼の姿が目撃されたのだが、あれはパズ殿ではないのか? 作戦に参加した冒険者たちから同じような報告があがっているんだが?」

 どういうことだ?
 パズが変身でもして巨大化したのか?
 そんな能力があるなんて聞いていないぞ。

「パズ、どういう事だ? もしかしてパズって姿を変えたりとかできるのか?」

「ばぅ~? ……ばうわう?」

 最初は、出来ないよ? とか言っていたパズだけど……。

「え? 氷の狼を創り出して操る魔法がある? どう考えても、と言うか、考えなくてもそれだろ……」

 パズがいったいどれほどの事が出来るのかは、正直オレも把握しきれていない。
 内緒とか言って詳しい事を教えてくれないが、もしかするとまだまだオレの知らないとんでもない能力を持っているのかもしれない……。

「な、なるほど……普通、そんな大きな氷を創り出すだけでも不可能だが、屋敷丸ごと凍らせることができるのなら、出来なくもないのか……」

 あれ……屋敷まるごと凍らせたこと知られているのか……。
 うん。スルーしておこう。

「と、とりあえずフェンリルと勘違いされているのはパズの魔法で創り出した氷の狼で間違いなさそうですが、そ、それより、これからの事を話しましょう」

「あ、あぁ。そうだったな」

 パズが屋敷を凍らせた話は全力で無視だ。
 とりあえずこれまでの経緯とわかっている事をガッツイに確認する。

「まず、街の各所で同時に行われた暗殺については、全て防ぐことに成功した。教団の者が魔人化した時は危なかったが、パズ殿……が操っていた狼の氷像が、全ての場所を周って加勢してくれたことで事なきを得た」

「ば、ばぅ!」

 あれ? そう言えばパズは、あたかも自分が順に回って解決した風に言っていたけど……それって、単にめんどくさいから氷像を派遣して済ませたんじゃ……。

 ま、まぁ、問題なく倒してくれたので、感謝こそすれ文句はないんだが。

「だが、魔人化する前に聞きだした情報によると、この後に大規模な街への襲撃が予定されていると言っていたことがわかった」

 詳しく話を聞いてみると、元々大規模な街への襲撃までは情報を掴んでいなかったそうで、今はその情報の裏付け調査と、他の街への救援準備要請をしている段階らしかった。

 ただ、その情報が正しければ今晩にも攻めてくるかもしれず、冒険者ギルドとして、どう対応するかをオレにも意見を聞きたいらしい。

 オレみたいな新人冒険者の意見なんて聞いてどうするのかと思わなくもないが、実際、この街の最高戦力はパズだと言われると納得するしかなかった。

「あくまで個人的な考えですが、情報が間違っていたらいたで謝ればいいですし、今すぐにでも街に襲撃を知らせて頑丈な建物などへの避難を促すべきだと思います。それから、もし本当に攻めてくるのなら、数にもよりますが、高ランクの冒険者で打って出て、街に辿り着く前に少しでも数を減らしておかないと、この街の城壁では防ぎきれないのではないでしょうか?」

「打って出る、か……確かにこの街の防壁は、あまり高くない上に頑丈とも言えないが……やはり危険過ぎる」

「はい。かなり危険な行為だとは思います。だから、本当に精鋭のみで……その、自分で精鋭とか言っておいてなんですが、その時はオレたち『暁の刻』は、もちろん出るつもりです」

 横で黙って話を聞いているミヒメとヒナミが、迷いなく頷いてくれるのが嬉しい。
 正直、かなり危険な行為だとは思うが、街の中に入り込まれれば、少なくない被害が出るし、せっかくこちらにはパズという敵の想像の外にいるような秘密兵器がいるんだから、出鼻を挫きたい。

 それから話を暫く続け、最終的にはオレの提案したことが採用され、作戦が実行されることになったのだった。

 ◆

 冒険者ギルドを出たオレたちは、ギルド職員に『赤い狐亭』への無事だという伝言を頼み、そのまま街の門へと向かって歩いていた。
 今頃、冒険者ギルドでは、街への襲撃についての発表が行われている頃だろう。

 そして、オレたちが街の門へと直接向かったのは、敵がいつ来るかなどの情報がないため、姿を確認次第、すぐにこちらから打って出られるように急いだからだ。

 しかし、結論から言うと、オレたちは街から打って出ることは出来なかった。

「なんだ? 門のところが騒がしくないか?」

「ん? ……本当だわ。何か誰か怒鳴ってない?」

「え~、誰か喧嘩でもしてるのかなぁ? やだなぁ」

 始めはオレも、誰かが喧嘩でもしているのかと思った。
 だけど、そこに悲鳴のようなものが混ざり始めた。

「おい。何か大事になっていないか? ……やはり悲鳴が聞こえる! 急ごう!」

 二人に視線を送って駆け出したその時、門の方で何かが破壊されるような、大きな爆発が起こったのだった。
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