30 / 45
【第30話:三匹】
しおりを挟む
翌日、予定通りに冒険者ギルドにやってきたオレたちは、受付に行くと何故か個室に通され、ギルドマスターが来るのを待っていた。
「こんな個室に通されるなんて、ユウトって意外と顔が利くのね」
「いや……確かにギルマスと会った事はあるが……」
顔が利くというか、この間一度会った事があるだけなのだがどういう事だろう?
そんな事を考えながら待っていると、すぐにギルドマスターのガッツイがやってきた。
「呼び出してすまないね。ん? その女の子たちは何者だね?」
静かにドアを開けて部屋に入ってくると、ミヒメとヒナミの二人の姿に気付いて、そう尋ねてきた。
「えっと、これからパーティーを組む予定の子たちで、今日、冒険者登録して貰おうと思っていたのですがこちらに呼び出されたので……」
「なるほど。そうだったのか。すまないね。それで……その子たちも結構やるのかい?」
オレが一瞬二人に視線を向けてから、
「ん~? 今でも結構強いとは思うのですが、将来有望って感じでしょうか?」
と説明すると、二人ともちょっと嬉しそうに口を開いた。
「私は美姫よ。隣の桧七美と双子の姉妹で、私が姉だから」
「はーい。妹の桧七美でーす。これからユウトさんとパーティーを組む予定なのでよろしくお願いします♪」
「こちらこそ宜しく頼むよ。しかし、パーティーを組むのか。楽しみだね。それにパーティーを組むならここにいても問題ないか。これから話す事は他言無用だからね」
先日あったばかりだというのに、いったい何の話だろうか。
オレは一度頷くと、黙って話を待つことにした。
「実は冒険者ギルドはね。最近、国から一つ、非常に大きな依頼を受けたんだよ」
「国からですか? というか……冒険者に向けた依頼ではなく、ギルドが依頼を受けてる?」
高難易度の依頼は、冒険者ギルドが仲介して、誰か冒険者に指名依頼を出すという話は聞いた事があるが、国が冒険者ギルドに依頼を出すのか。
「うむ。あまり冒険者には知られていないのかもしれないが、それはそこまで珍しくないんだ。そうだな……例えば街道沿いの魔物の討伐依頼とか定期的に出ているのを知っているかな?」
「あ、はい。オレがいたパーティーでは受けた事はないですが、知っています」
オレが以前所属していたパーティー「ソルスの剣」は、ダンジョン攻略専門でやっていたので受けた事はないが、街道沿いの魔物の討伐依頼が出ている事は知っていた。
「あれはね。国から『街道沿いの魔物を定期的に討伐して欲しい』という大きな依頼を冒険者ギルド全体で受け、それを各ギルド支部が君たち冒険者に分割して依頼しているんだよ」
なるほど。
確かに国から冒険者ギルドへの依頼と言うのは、そこまで珍しい事ではなさそうだ。
そう思って納得しかけたのだが……。
「まぁただ、今回の依頼はかなり珍しい依頼なんだけどね」
説明を聞いたそばから否定されてしまった。
どういう事だろう?
「そうなんですか……あの、それで今回のその珍しい依頼というのが、何かオレに関係があるという事ですか?」
「ふふふ。ちょっと説明が回りくどかったかな?」
「あ、いえ。そう言うわけでは無いのですが……すみません」
「かまわないよ。それに、こう見えて私も忙しい身だからね」
いや。こう見えても何も、冒険者ギルドのギルドマスターなのだから、誰もが忙しいだろうと思っています……。
「じゃぁ、さっそく本題に入らせて貰おうか。その国からの依頼なんだけどね」
とそこで言葉を区切り、テーブルの上で何故かぐて~と寝そべっているパズに視線を向けてから、言葉を続けた。
「……魔王信仰の信者どもの内定調査をしているんだよ」
「えっ……」
まさかここで魔王信仰の話が出てくるとは思っておらず、思わず声が出てしまった。
「それでね。昨日、その内定調査を依頼していた冒険者から、なかなか面白い報告を受けてね」
あ、なんか嫌な汗が出てきた……。
「その冒険者が言うには、見張っていたとある商会がね……丸ごと氷に包まれたって言うんだよ」
「「え……それって……」」
こういう時だけハモって、オレとパズを見ないでくれるかな……言い逃れ出来なくなるから……。
「えっと……」
え? これどう答えたら良いんだ……。
ギルドマスターのガッツイが、どういうつもりで話しているのかがわからないので、その返答に迷っていると、
「ははは。焦らなくても大丈夫だよ。冒険者ギルドとしては、君が突っついてくれたお陰で、ようやく尻尾が掴めそうで感謝しているぐらいなんだ」
と言って、何かの紙を差し出してきた。
「これはなんですか?」
「まぁ黙って読んでみてくれないかな」
オレは差し出された紙を受け取ると、後ろから覗き込んでくるミヒメとヒナミの二人と一緒に、その書類に目を通した。
その紙には、五人ほどの名前と、どのような人物なのかが書かれていた。
その中にはウォマ商会のスクロッドの名も……。
「これは……この人たちはもしかして?」
「あぁ。察しの通り、魔王信仰の信者たちの名だよ。ただ、ここまでわかっていながら、教団の名前がまだ掴めていなかったり、捕まえるに足るような証拠が掴めていなくてね」
「なんだ。思ったより少ないわね」
「み、ミヒメ!?」
「ははは。やはり君たちは魔王信仰についても、いくらか掴んでいるようだね。五人しかいないのは、これはこの街の有力者の中での信者の一覧だからだよ。実際は、もっと沢山いるはずだし、信者じゃなくても、用心棒や、中には暗殺者を雇ったりしている者もいるから、全部合わせるとかなりの数になるはずだ」
な!? そんな大規模なのか!?
ちょっと安易に考えすぎだったか……。
そう思って反省していると、
「ばぅわぅ!」
パズが、こっちは勇者が三匹もいるんだから余裕だよ! と伝えてきた。
うん。励ましてくれるのは嬉しいけど、二人と一匹って数えようか。
まぁでも……冒険者ギルドも動いているし、そこまで悲観する事もないのかもしれないな。
「とりあえず君たちも関わってしまったようだから、一応、注意すべき人物を伝えておこうと思ってね」
「ありがとうございます。でも、オレたちみたいな駆け出しの冒険者に教えても良かったんですか?」
「ははは。情報ってのはギブ&テイクが基本だよ?」
あ……つまり、こっちも何か情報を掴んだら教えろってことか。
「わ、わかりました。オレ達も何か情報を掴んだらお伝えします」
「うむ。理解が早くて助かるよ。それじゃぁ、私はこれで失礼するけど、ついでだからここで、その子たちの冒険者登録やパーティー登録も出来るように伝えておこう」
「ばぅ!」
礼を言おうと思ったら、先にパズに言われてしまった。
「なんで、真っ先にパズが返事してるんだよ……。ガッツイさん、ありがとうございます」
この後、部屋で手続きをして貰い、三人と一匹になったオレたち『暁の刻』は、冒険者ギルドを後にしたのだった。
「こんな個室に通されるなんて、ユウトって意外と顔が利くのね」
「いや……確かにギルマスと会った事はあるが……」
顔が利くというか、この間一度会った事があるだけなのだがどういう事だろう?
そんな事を考えながら待っていると、すぐにギルドマスターのガッツイがやってきた。
「呼び出してすまないね。ん? その女の子たちは何者だね?」
静かにドアを開けて部屋に入ってくると、ミヒメとヒナミの二人の姿に気付いて、そう尋ねてきた。
「えっと、これからパーティーを組む予定の子たちで、今日、冒険者登録して貰おうと思っていたのですがこちらに呼び出されたので……」
「なるほど。そうだったのか。すまないね。それで……その子たちも結構やるのかい?」
オレが一瞬二人に視線を向けてから、
「ん~? 今でも結構強いとは思うのですが、将来有望って感じでしょうか?」
と説明すると、二人ともちょっと嬉しそうに口を開いた。
「私は美姫よ。隣の桧七美と双子の姉妹で、私が姉だから」
「はーい。妹の桧七美でーす。これからユウトさんとパーティーを組む予定なのでよろしくお願いします♪」
「こちらこそ宜しく頼むよ。しかし、パーティーを組むのか。楽しみだね。それにパーティーを組むならここにいても問題ないか。これから話す事は他言無用だからね」
先日あったばかりだというのに、いったい何の話だろうか。
オレは一度頷くと、黙って話を待つことにした。
「実は冒険者ギルドはね。最近、国から一つ、非常に大きな依頼を受けたんだよ」
「国からですか? というか……冒険者に向けた依頼ではなく、ギルドが依頼を受けてる?」
高難易度の依頼は、冒険者ギルドが仲介して、誰か冒険者に指名依頼を出すという話は聞いた事があるが、国が冒険者ギルドに依頼を出すのか。
「うむ。あまり冒険者には知られていないのかもしれないが、それはそこまで珍しくないんだ。そうだな……例えば街道沿いの魔物の討伐依頼とか定期的に出ているのを知っているかな?」
「あ、はい。オレがいたパーティーでは受けた事はないですが、知っています」
オレが以前所属していたパーティー「ソルスの剣」は、ダンジョン攻略専門でやっていたので受けた事はないが、街道沿いの魔物の討伐依頼が出ている事は知っていた。
「あれはね。国から『街道沿いの魔物を定期的に討伐して欲しい』という大きな依頼を冒険者ギルド全体で受け、それを各ギルド支部が君たち冒険者に分割して依頼しているんだよ」
なるほど。
確かに国から冒険者ギルドへの依頼と言うのは、そこまで珍しい事ではなさそうだ。
そう思って納得しかけたのだが……。
「まぁただ、今回の依頼はかなり珍しい依頼なんだけどね」
説明を聞いたそばから否定されてしまった。
どういう事だろう?
「そうなんですか……あの、それで今回のその珍しい依頼というのが、何かオレに関係があるという事ですか?」
「ふふふ。ちょっと説明が回りくどかったかな?」
「あ、いえ。そう言うわけでは無いのですが……すみません」
「かまわないよ。それに、こう見えて私も忙しい身だからね」
いや。こう見えても何も、冒険者ギルドのギルドマスターなのだから、誰もが忙しいだろうと思っています……。
「じゃぁ、さっそく本題に入らせて貰おうか。その国からの依頼なんだけどね」
とそこで言葉を区切り、テーブルの上で何故かぐて~と寝そべっているパズに視線を向けてから、言葉を続けた。
「……魔王信仰の信者どもの内定調査をしているんだよ」
「えっ……」
まさかここで魔王信仰の話が出てくるとは思っておらず、思わず声が出てしまった。
「それでね。昨日、その内定調査を依頼していた冒険者から、なかなか面白い報告を受けてね」
あ、なんか嫌な汗が出てきた……。
「その冒険者が言うには、見張っていたとある商会がね……丸ごと氷に包まれたって言うんだよ」
「「え……それって……」」
こういう時だけハモって、オレとパズを見ないでくれるかな……言い逃れ出来なくなるから……。
「えっと……」
え? これどう答えたら良いんだ……。
ギルドマスターのガッツイが、どういうつもりで話しているのかがわからないので、その返答に迷っていると、
「ははは。焦らなくても大丈夫だよ。冒険者ギルドとしては、君が突っついてくれたお陰で、ようやく尻尾が掴めそうで感謝しているぐらいなんだ」
と言って、何かの紙を差し出してきた。
「これはなんですか?」
「まぁ黙って読んでみてくれないかな」
オレは差し出された紙を受け取ると、後ろから覗き込んでくるミヒメとヒナミの二人と一緒に、その書類に目を通した。
その紙には、五人ほどの名前と、どのような人物なのかが書かれていた。
その中にはウォマ商会のスクロッドの名も……。
「これは……この人たちはもしかして?」
「あぁ。察しの通り、魔王信仰の信者たちの名だよ。ただ、ここまでわかっていながら、教団の名前がまだ掴めていなかったり、捕まえるに足るような証拠が掴めていなくてね」
「なんだ。思ったより少ないわね」
「み、ミヒメ!?」
「ははは。やはり君たちは魔王信仰についても、いくらか掴んでいるようだね。五人しかいないのは、これはこの街の有力者の中での信者の一覧だからだよ。実際は、もっと沢山いるはずだし、信者じゃなくても、用心棒や、中には暗殺者を雇ったりしている者もいるから、全部合わせるとかなりの数になるはずだ」
な!? そんな大規模なのか!?
ちょっと安易に考えすぎだったか……。
そう思って反省していると、
「ばぅわぅ!」
パズが、こっちは勇者が三匹もいるんだから余裕だよ! と伝えてきた。
うん。励ましてくれるのは嬉しいけど、二人と一匹って数えようか。
まぁでも……冒険者ギルドも動いているし、そこまで悲観する事もないのかもしれないな。
「とりあえず君たちも関わってしまったようだから、一応、注意すべき人物を伝えておこうと思ってね」
「ありがとうございます。でも、オレたちみたいな駆け出しの冒険者に教えても良かったんですか?」
「ははは。情報ってのはギブ&テイクが基本だよ?」
あ……つまり、こっちも何か情報を掴んだら教えろってことか。
「わ、わかりました。オレ達も何か情報を掴んだらお伝えします」
「うむ。理解が早くて助かるよ。それじゃぁ、私はこれで失礼するけど、ついでだからここで、その子たちの冒険者登録やパーティー登録も出来るように伝えておこう」
「ばぅ!」
礼を言おうと思ったら、先にパズに言われてしまった。
「なんで、真っ先にパズが返事してるんだよ……。ガッツイさん、ありがとうございます」
この後、部屋で手続きをして貰い、三人と一匹になったオレたち『暁の刻』は、冒険者ギルドを後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。


家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる