異世界おさんぽ放浪記 ~フェンリルと崇められているけど、その子『チワワ』ですよ?~

こげ丸

文字の大きさ
上 下
11 / 45

【第11話:(人)】

しおりを挟む
 ボスのいなくなったボス部屋で一晩を明かしたオレ達は、迷宮脱出に向けて森型ダンジョンの出口に向かって歩いていた。

 寝る前にパズが、ボス部屋の周りを氷の結界で囲ったので少し寒かったが、おかげで安心してぐっすりと眠る事が出来た。

「しっかり寝て体力も回復したし、今日こそこのダンジョンからおさらばしよう」

 今回はウォリアードッグの四匹が案内役を買って出てくれているので大丈夫だろう。
 仮にも迷宮の主の元眷属だ。さすがに迷う事はないだろう。

 迷わないよな……?

「ばぅぅ~……」

 なんかジト目で見られている気がする。
 パズは今、オレの頭の上で「ぐだ~」ってなってるので、その姿は見えないけど……。

「ばぅ?」

「ん? これからどうするのかって?」

 パズに質問されて、あらためて考えてみた。

 まず、パズが迷宮の主である『カイザーウルフ』を倒してしまった件だが、これはすぐにどうこうなるものではない。

 ダンジョンは迷宮の主が倒されても、数年は魔物の沸きはあまり変わらず、一〇年ほど経ってから徐々に普通の森へと戻っていく。
 だから、今回オレ達が迷宮の主を倒したからと言って、すぐさまダンジョン化が解けるわけではない。

 そしてボス部屋には迷宮の主ではないが、通常のボスがわくようになる。
 だから、そのうちどこかのパーティーが通常のボスを倒して、迷宮の主を倒したと報告してくれるだろう。

 変な注目を浴びるのも嫌だし、迷宮の主の魔晶石も手に入れられなかったので、迷宮制覇の件は報告しないでおくか。
 絶対に話を信じない奴が証拠を出せとか言ってきて、揉めるのが目に見えている。

 うん。鵺の討伐と道中の魔物の戦果だけを報告する事にしよう。

 あと、もう今さら恨んだりギルドに訴えたりするつもりはないが、パーティーは正式に抜ける手続きをする。
 さすがにパーティーに戻って、あいつらと上手くやっていけるはずがないしな。

 暫くはパズとのんびりとダンジョンに通ったり、依頼をこなして、少しずつ冒険者ランクでも上げていこう。

 オレはこのあたりの考えをパズに話していった。

「そうだ。ちょっと気になっていたんだけど、パズは勇者召喚に巻き込まれたって言ってたが、この国で勇者召喚が行われたのか?」

 もしこの国が勇者召喚の儀式魔法を執り行っていたとすれば、この国に何らかの危機が迫っている事になる。
 そう考えると心配になってきたので、詳しく聞いてみる事にした。

 今はウォリアードッグたちが、道案内だけでなく、露払いもしてくれているので、暇だしな。
 魔晶石まで取り出してくれて、至れり尽くせりだ。

「ばぅぅ? ばぅわぅ!」

 しかし、パズから返ってきた答えは、思っていたのと少し違う答えだった。

「え? 勇者召喚って、この国が代々受け継いでいる異世界から勇者を召喚するって儀式魔法以外にもあるのか?」

 詳しく聞いてみると、パズはこの世界の名前を聞き忘れたとある神様の手によって行われた『勇者召喚』に巻き込まれたのだそうだ。召喚魔法ではないらしい。

 だけど勇者召喚と言えば、この世界では、この『パタ王国』で執り行う儀式魔法しか聞いた事が無かったので、まさか神様が執り行うものがあるとは思わなかった。

「ばぅ!!」

「えっ……国の勇者召喚って、神様が執り行う勇者召喚を真似た偽物なのかよ……」

 ここにきて、また驚きの事実。
 オレがこの世界で子供の頃から憧れていた、英雄譚の中の勇者は、儀式魔法によって呼び出された偽物の勇者だったらしい……。

「ばぅぅー!」

「職業クラスを無理やり『勇者』にして力を得ているって……」

 なんでも本当の勇者は、召喚された際に、様々な能力を付与された上で、職業クラスを『勇者』にして、この世界に送り出されるらしい。

 パズの場合は氷に関するある権能と呼ばれる能力を授かっているそうだ。

「え……という事は、パズ。お前の職業クラスも『勇者』なのか!?」

「ばぅわぅ!!」

「え……『勇者(犬)』って、無理やりだな……」

 初めてチワワを見た神様が、パズを大層気に入り、特別な職業クラスを創ってくれたそうだ。

 何やってるんだ神様……。

 まぁそれはともかく、職業クラス『勇者』には、前世の創作物でお馴染みの「異世界言語」「アイテムボックス」「ステータスアップ」などの基本能力詰め合わせが、ついているらしい。

 つまり、人の手によって召喚された勇者は、この勇者の基本能力詰め合わせだけで、パズの言う『権能』とかの神様に直接付与された力はないのだそうだ。

 ただ、それでも普通の職業クラスと比べれば、かなり凄い能力なのだろうけど。

「でも、それってこっちの世界の人間じゃぁダメなのか? 無理やり職業クラスを変えるとか?」

 わざわざ異世界から召喚した人間にそのような事をしなくてもと思ったのだが、神様でもない限り、一度ついた職業クラスは変えられないらしい。
 この世界で生まれた人間には必ず職業クラスが付与されているそうだし、だからわざわざ異世界人を召喚する事にしたようだ。

「ん? ちょっと待てよ……。パズの話の通りだとすると、神様が勇者召喚する時は、国ではなく、世界に危機が迫っている時って事にならないか?」

 この国が執り行う勇者召喚は、この国の上に立つ人間が、国が危機に陥ると判断した時に行うものだ。
 これはこれで大問題なのだが、神様が勇者召喚を行ったとなると、パズの話の通りだとすれば、世界に危機が迫っているという事になる。

「ばぅ~?」

「えぇぇ……まぁパズは確かに巻き込まれただけだし、責任はないんだろうけど……」

 それは一緒に呼び出された本物の『勇者(人)』がいるから、それに任せておけば良いと言うのはその通りかもしれないが、世界に迫っている危機と言うのが気になる。

 あっ、「(人)」はいらないのか……。
 思考が完全にパズに侵されているな……気をつけよう。

 しかし、本物の勇者か……いったいどんな奴なのだろう?

 前世では、ゲームやアニメ、小説を人並みに嗜んでいたし、この世界に生まれ変わってからの勇者への憧れもある。
 もし機会があるのなら、会ってみたいものだな。

「パズがこれだけ強いんだ。きっと人の勇者も凄いんだろうな」

「ばぅ~?」

 前世の記憶を得たからか、何かこう勇者という響きに憧れ以外にも強い興味がわき、思わずその姿を想像してしまう。

「「「「おん!」」」」

 そんな会話を続けていると、案内を務めてくれていた筋肉マッチョ犬……もといウォリアードッグの四匹が、森型ダンジョンの終わりを告げたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...