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【第10話:ハモる悲鳴と変な絶叫】
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◆Side:パズ
まだパズが元の世界にいた頃のお話。
パズはいつものように扉の隙間から脱走すると、お気に入りの場所に向けて逃走していた。
「ばぅわぅ♪ ばぅわぅ♪」
チワワとは思えない身のこなしで駆けていくパズ。
そして、そのパズを追う二つの影。
「またパズが脱走した~っ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!!」
追いかけるのは双子の少女。
誰もが振り返るような美しい容姿の持ち主だが、歳がまだ一三歳と若く、色気よりも、健康的な美しさと可愛らしさの方が勝る美少女だ。
「桧七美! あんた、向こうから回り込みなさい!」
「わかったよ。美姫!」
どうやら二人は、挟み込んでパズを捕まえる作戦のようだ。
先日、お隣さんが飼っているブルドッグを喧嘩で打ち負かしてから、パズは更に手が付けられなくなってしまっていた。
ブラックタンのスムースでたれ耳という容姿は、チワワでは珍しい部類に入るが、そこまで特別なものでもない。
どこにでもいそうな可愛いチワワそのものなのだが、チワワの中でも更に小柄な体躯だというのに、信じられないような身体能力を誇っていた。
そんなパズの背中を追っていた双子の姉にあたる美姫だが、とうとうその姿を見失ってしまう。
「うぅ、相変わらずチワワの癖になんて足の速さなのよ……って、あれ? ここって……」
姿を見失って焦っていたからだろうか、それがとある家の前だという事に、そこで初めて気が付いた。
「あれっ!? 美姫? パズは?」
そこに、ぐるりと回り込んできた桧七美が現れた。
「あ、桧七美……ここって……」
「え? あ、ここって、パズのお婆ちゃんのお家だっけ?」
そこはパズのお婆ちゃんであるペジーが飼われている家だった。
ユウトによってトラックに跳ねられそうなところを救われたペジーは、その後、子を成し、さらにその子が産んだ子の一匹がパズだった。
そして何故かパズは、度々ここへ、ペジーに会いに訪れていた。
「前にもお婆ちゃんの……ペジーちゃんだっけ? あの子に甘えに来てたよね?」
「ん~、お婆ちゃんに甘えたいのはわかるけど、脱走するのは許せないわ! パズ、うちに来て何年になると思ってるのよ!」
二人がそんな会話をしていると、
「ばぅぅ……」
塀の中、家の庭先の方から、パズのものと思われる鳴き声が聞こえて来た。
「やっぱり中にいるようだね」
「お邪魔してパズを確保するわよ!」
二人ともこの家に訪れるのは初めてでは無かった。
パズのお婆ちゃんが飼われている事を知ってから、二人は度々この家に訪れており、家の人とも顔見知りだった。
だから二人は、双子らしく「お邪魔しまーす」をハモりながら、庭先へと進んで行った。
「すみませ~ん。また、うちのパズがお邪魔して……って、どうかされたんですか?」
「美姫、あれって……」
そこには、老犬のチワワがボロボロになった骨のぬいぐるみの玩具を大事そうに抱え、ぐったりと横たわっていた。
そして、その傍らには寄り添うように伏せているパズの姿が。
「あぁ、お嬢ちゃんたちか。どうやら虫の知らせってのをパズちゃんが感じ取ったようだね。もし時間あるなら、一緒に看取ってやっておくれ」
家主のお婆さんにそう促されると、二人は驚き、こみ上げる悲しみに目に涙を溜めながらも、黙って頷き、パズと一緒にペジーの穏やかな最期を看取ったのだった。
◆
ペジーの最期を看取ったあと、二人はパズを抱えて家を後にした。
パズのお婆さんが亡くなった寂しさに耐えるのにいっぱいいっぱいで、まだ若い二人には涙をこらえるのが精一杯だった。
「ばぅ!」
でも、パズが元気よく吠えたことで、二人は何だか励まされた気がした。
「パズが一番悲しいよね」
「今日だけはパズのこと褒めてあげるわ……でも、あんた図々しいわよ……」
「ばぅ?」
桧七美の腕の中で首を傾げるパズの腕には、ボロボロになった骨のぬいぐるみが抱えられていた。
「ペジーちゃんが大事にしていた玩具なんだから、あんたそれ大事にしなさいよ?」
「そうだよパズ~。大切にしなきゃだよ~?」
二人にそう話しかけられたパズは、
「ぼぅわ”ぅ!」
骨のぬいぐるみを取られまいと、口にがっしと加えて威嚇した。
「と、とらないわよ!?」
そんな会話をしていた時だった。
「あれ? 美姫~、なんだかやけに静かすぎない?」
今日は日曜で時間は昼過ぎ。
ちょうど公園の前を通りがかったのだが、そこにいつものような子供たちの姿はなく、近くを走る大通りにも、車の姿が一台も無い。
「え? ななな、なんか変な感じするわね……」
幽霊などが死ぬほど嫌いな美姫は、桧七美の指摘に少しビビりながらも、冷静に周りを見て、そう答えた。
「ぶぅぅぅぅ……」
「もう! だから、とらないって!」
「ちょっと待って、なんかパズも何か警戒してる感じじゃ……きゃぁー!!」
桧七美がパズの様子もおかしい事に気付いたその瞬間、足元から眩い光が溢れ出した。
「ちょ、ちょっと何よこれ!?」
「ばぅ~っ!?」
焦る二人と一匹は気付いていなかったが、その時、二人の足元には大きな魔法陣が出現していた。
「「きゃぁー!!」」
「ばゃぅー!!」
こうして二人と一匹は、ハモる悲鳴と変な絶叫を残し、異世界『レムリアス』へと招かれたのだった。
まだパズが元の世界にいた頃のお話。
パズはいつものように扉の隙間から脱走すると、お気に入りの場所に向けて逃走していた。
「ばぅわぅ♪ ばぅわぅ♪」
チワワとは思えない身のこなしで駆けていくパズ。
そして、そのパズを追う二つの影。
「またパズが脱走した~っ!!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!!」
追いかけるのは双子の少女。
誰もが振り返るような美しい容姿の持ち主だが、歳がまだ一三歳と若く、色気よりも、健康的な美しさと可愛らしさの方が勝る美少女だ。
「桧七美! あんた、向こうから回り込みなさい!」
「わかったよ。美姫!」
どうやら二人は、挟み込んでパズを捕まえる作戦のようだ。
先日、お隣さんが飼っているブルドッグを喧嘩で打ち負かしてから、パズは更に手が付けられなくなってしまっていた。
ブラックタンのスムースでたれ耳という容姿は、チワワでは珍しい部類に入るが、そこまで特別なものでもない。
どこにでもいそうな可愛いチワワそのものなのだが、チワワの中でも更に小柄な体躯だというのに、信じられないような身体能力を誇っていた。
そんなパズの背中を追っていた双子の姉にあたる美姫だが、とうとうその姿を見失ってしまう。
「うぅ、相変わらずチワワの癖になんて足の速さなのよ……って、あれ? ここって……」
姿を見失って焦っていたからだろうか、それがとある家の前だという事に、そこで初めて気が付いた。
「あれっ!? 美姫? パズは?」
そこに、ぐるりと回り込んできた桧七美が現れた。
「あ、桧七美……ここって……」
「え? あ、ここって、パズのお婆ちゃんのお家だっけ?」
そこはパズのお婆ちゃんであるペジーが飼われている家だった。
ユウトによってトラックに跳ねられそうなところを救われたペジーは、その後、子を成し、さらにその子が産んだ子の一匹がパズだった。
そして何故かパズは、度々ここへ、ペジーに会いに訪れていた。
「前にもお婆ちゃんの……ペジーちゃんだっけ? あの子に甘えに来てたよね?」
「ん~、お婆ちゃんに甘えたいのはわかるけど、脱走するのは許せないわ! パズ、うちに来て何年になると思ってるのよ!」
二人がそんな会話をしていると、
「ばぅぅ……」
塀の中、家の庭先の方から、パズのものと思われる鳴き声が聞こえて来た。
「やっぱり中にいるようだね」
「お邪魔してパズを確保するわよ!」
二人ともこの家に訪れるのは初めてでは無かった。
パズのお婆ちゃんが飼われている事を知ってから、二人は度々この家に訪れており、家の人とも顔見知りだった。
だから二人は、双子らしく「お邪魔しまーす」をハモりながら、庭先へと進んで行った。
「すみませ~ん。また、うちのパズがお邪魔して……って、どうかされたんですか?」
「美姫、あれって……」
そこには、老犬のチワワがボロボロになった骨のぬいぐるみの玩具を大事そうに抱え、ぐったりと横たわっていた。
そして、その傍らには寄り添うように伏せているパズの姿が。
「あぁ、お嬢ちゃんたちか。どうやら虫の知らせってのをパズちゃんが感じ取ったようだね。もし時間あるなら、一緒に看取ってやっておくれ」
家主のお婆さんにそう促されると、二人は驚き、こみ上げる悲しみに目に涙を溜めながらも、黙って頷き、パズと一緒にペジーの穏やかな最期を看取ったのだった。
◆
ペジーの最期を看取ったあと、二人はパズを抱えて家を後にした。
パズのお婆さんが亡くなった寂しさに耐えるのにいっぱいいっぱいで、まだ若い二人には涙をこらえるのが精一杯だった。
「ばぅ!」
でも、パズが元気よく吠えたことで、二人は何だか励まされた気がした。
「パズが一番悲しいよね」
「今日だけはパズのこと褒めてあげるわ……でも、あんた図々しいわよ……」
「ばぅ?」
桧七美の腕の中で首を傾げるパズの腕には、ボロボロになった骨のぬいぐるみが抱えられていた。
「ペジーちゃんが大事にしていた玩具なんだから、あんたそれ大事にしなさいよ?」
「そうだよパズ~。大切にしなきゃだよ~?」
二人にそう話しかけられたパズは、
「ぼぅわ”ぅ!」
骨のぬいぐるみを取られまいと、口にがっしと加えて威嚇した。
「と、とらないわよ!?」
そんな会話をしていた時だった。
「あれ? 美姫~、なんだかやけに静かすぎない?」
今日は日曜で時間は昼過ぎ。
ちょうど公園の前を通りがかったのだが、そこにいつものような子供たちの姿はなく、近くを走る大通りにも、車の姿が一台も無い。
「え? ななな、なんか変な感じするわね……」
幽霊などが死ぬほど嫌いな美姫は、桧七美の指摘に少しビビりながらも、冷静に周りを見て、そう答えた。
「ぶぅぅぅぅ……」
「もう! だから、とらないって!」
「ちょっと待って、なんかパズも何か警戒してる感じじゃ……きゃぁー!!」
桧七美がパズの様子もおかしい事に気付いたその瞬間、足元から眩い光が溢れ出した。
「ちょ、ちょっと何よこれ!?」
「ばぅ~っ!?」
焦る二人と一匹は気付いていなかったが、その時、二人の足元には大きな魔法陣が出現していた。
「「きゃぁー!!」」
「ばゃぅー!!」
こうして二人と一匹は、ハモる悲鳴と変な絶叫を残し、異世界『レムリアス』へと招かれたのだった。
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