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第一章

第11話 朝食

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「……カ様。レスカ様」

 オレはまどろみつつも、聞き覚えの無い若い女性の声に意識を覚醒していく。
 しばらくして、ようやく自分が巨大なベッドの上で大の字になって寝ている事に気付いた。

「知らない天井だ」

「レスカ様?」

「あ、いや、なんでもない。忘れてくれ」

 うん、自分がリアルでこの台詞を言う日がくるとは思わなかったな……。

「レスカ様。別室で朝食の準備ができております」

「あぁ、わかった。すぐに準備する」

 準備すると言って気付いた。
 オレ、服を着替えるどころか、外套も脱がずにベッドで寝てしまっていたようだ……。

「ははは……特に準備もなにもないな。案内を頼めるか」

「はい。ではご案内させて頂きます」

 出来ればご飯は部屋に運んで欲しかったなぁとか怠惰な事を思いつつ、侍女の後をついて歩く。

「こちらへ」

 五分ほど歩いて案内された部屋には、すでに着席している人たちがいた。
 その中で唯一見知った者が声をかけてきた。

「レスカ様。おはようございます」

「ミンティス。おはよう」

 で……これはどういう状況だ……?

「はははは。そう警戒しなくても大丈夫だ。まぁそこの空いている席に座ってくれ」

 リアルのオレより一回りほど上に見える男性がそう声をかけてきた。
 まぁ今はアバターの姿なので一〇代の若者の姿になっており、今のオレと比べるなら二回りほど年上という事になるが。

「はい……それでは失礼します」

 ここにいる人たち……どう考えてもミンティスの家族だよな……。
 という事は……。

「もう察しがついてそうだが、儂がこのベルジール王国国王、バリアダ・フォン・ベルジールだ」

 やっぱり国王陛下じゃないか!?

「私はセディス・フォン・ベルジールよ~。一言お礼を言いたくて、こんな場に呼び出してごめんなさいねぇ」

 ミンティスの兄と姉はいないようだが、まだ全然慣れてもいない異世界で、初めてとる朝食が王族と一緒とか勘弁して欲しい。

 寝起きで発生するイベントとしては刺激が強すぎる……。

「バリアダ国王。セディス王妃。オレ……わ、私は異邦人のレスカと申します。この度は……えっと……」

 突然だった上に起きたばかりなのもあって全然頭が回らず、言葉がでてこない……。
 なにを話せばいいかと焦っていると、国王様の方から声をかけてくださった。

「ははは、そう身構えなくとも良い。今は公の場ではないのだ。楽にしてくれ」

「そうよ~。ミンティスの命の恩人だもの。本当にありがとうねぇ」

「レスカ様、申し訳ありません。二人とも一度会ってみたいと聞かなくて……」

 なんか、いい人たちそうで助かった……。
 ミンティスもそうだが、国王様も王妃様もやさしそうだ。

 しかし、やはり国王様の名前も王妃様の名前も聞いた事のない名前だな。
 所属していた国なので何度もキャンペーンに登場しているが、全く違う名前だった。

「儂も一国の王である前に一人の親だ。礼ぐらい直接言わせて欲しくてね。レスカよ。此度は娘を救い出してくれ、本当に感謝しておる。ありがとう」

 バリアダ国王はそう言うと、驚く事にオレに対して頭を下げた。

「えぇっ⁉」

 オレが呆気に取られて驚いていると、セディス王妃とミンティスまで頭をさげられて一瞬どうしていいかわからなくなる。

 一国の王がこんなどこの馬の骨ともわからない相手に頭を下げたらダメなのでは⁉

「あ、頭をあげてください! 当然のことをしたまでですので!」

「いや、本当に感謝しておるのだ。今回の件をたくらんだやつは、きっちりと調べあげ、その身で償いきれない罰を与えるつもりだ……はははは、はははははは……」

「ふふふふ……そうですよ~。一生かけても償いきれない罪を犯したのですからぁ……ふふふふ……」

 前言撤回!! いや、めっちゃ怖いから!?
 国王様と王妃様がしていい笑みじゃないから!?

 でも、これからしばらくはお世話になろうと思っている国だ。
 不穏なことをたくらむような奴らはきっちり捕えて欲しいのは激しく同意だ。

「お父様、お母様……レスカ様の前でそのようなお話は……」

「おぉ~すまぬな」

 そこからは他愛もない話をしつつ、和やかな雰囲気の中で朝食となった。
 オレは正直言うと緊張で何を食べても味がしなかったが……。

 食事も一通り食べ終わり、食後に出された紅茶を飲んでいると、国王様が異邦人のことについて尋ねてきた。

「ところでレスカよ。そなたはかなり高位の異邦人ということらしいがレベルはいくつなのじゃ?」

 この世界でもステータスを測定する魔道具があるというのは先ほど聞いて知った。
 でも、一般的なレベルがいくつなのかがわからない……。

 ミンティスの会話から推測するとレベル30でも結構な高レベルとして認識されてそうなんだよな。
 馬鹿正直にレベル80とか言うのは不味い気がする。

「レベルですか? レベルは……えっと、50です」

 オレがそう答えた瞬間、国王様は笑いだした。

「はははは。面白い冗談だ! しかし、そうか。異邦人なら戦いを生業にしておるし自分のレベルはおいそれと言えぬか」

 え……?

 もしかしてレベル50でも高すぎるのか!?

「あ、いや、その……」

「よいよい。しかし、それならもうちょっと現実的なレベルを言う方が良いと思うぞ?」

「は、ははは、そ、そうですね」

 どうやら向こうが勝手に勘違いしてくれたようだ。助かった。

 しかし、そうすると一般的な異邦人のレベルはいくつなんだ?
 そして騎士や魔法使い、冒険者などのこの世界の人たちのレベルは……。
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