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【第6話:オッドアイ】

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 オレは勢いよくギルドの扉を開けると、いつもの挨拶も飛ばして

「サクナおばさん! セナに出した依頼を教えてくれ!」

 と叫んでいた。

 オレの形相に少し驚いたサクナおばさんだったが、今の村の状況は理解しているようで諭すように返してきた。

「テッド……落ち着きなよ。ベテラン冒険者ならこういう時こそ冷静になりなさいな」

「あぁ、そうだな……すまない。それで、セナは帰ってきていないんだよな?」

 オレは少し大きく息を吸い込み呼吸を整えると、そう尋ねる。

「そうだね。昨日依頼で村を出たのは母親に確認してきたし、戻ったらこちらにすぐ報告するようにお願いしてあるけど……まだ報告はないね」

「く!? それで、セナはどんな依頼を受けているんだ? 冒険者なり立てだと角兎ホーンラビット討伐とかか?」

 オレは焦る気持ちを抑えて依頼内容を確認したのだが、返ってきたのは最悪の答えだった。

「それがねぇ……受けたのはあんたと同じ異常行動が起こっていないかの調査依頼なんだよ。原生動物のだけどね」

 オレは受けた依頼を聞いてしばし絶句してしまう。

 確かに普段なら動物の異常行動調査の依頼ならそこまで危険はないだろう。
 魔物のいるこの世界では原生の動物たちはいづれも臆病で襲ってくることはほとんどない。

 弱肉強食の世界の頂点は魔物だからだ。

 だけど、動物の行動調査を行うにはかなり森の深くまで入って行っているはずだ。
 その場所は……この周辺で異常な魔物の発生が起こっている今、もっとも危険な依頼の一つになっていた。

 オレは一瞬最悪の事態が頭をよぎるが、こんな事で諦めるわけにはいかない。

 昔は……昔のオレならこの程度で決してあきらめたりしなかったはずだ。

「サクナおばさん。どの辺りにいくとか話してましたか?」

 気を取り直し、オレがそう話しかけた時だった。

「なに? 人探し? それなら手伝ってあげましょうか?」

 確かに誰もいなかったはずのギルドの入口に、一人の少女が立っていた。

 扉から差し込む光を纏ったその少女は、こちらに歩み寄ると少しきつめの視線でオレを見つめる。

 オッドアイ。

 この世界でその瞳を持つ意味は……。

「なによ? 魔眼がそんなに珍しい? まぁこんな辺鄙な村では珍しいかもしれないけど」

 肩までかかる白く輝く銀髪に透き通るような白い肌、華奢な体に纏う鶯色うぐいすいろのローブは、どこか貴族のような高貴な雰囲気を醸し出していた。
 いや、それよりも……耳の形状から恐らくはハーフエルフだが……。

「……似ているな……」

 蘇った昔の淡い記憶に思考が染まりそうになるが、そこで少女の声に引き戻される。

「今なんて言ったの? それより人探ししているんじゃないの? せっかく私の魔眼で探してあげようかって言っているのにいらないわけ?」

「いや! 是非ともお願いしたい! 金ならいくらでも払うから頼む!」

 ~

 オレは今の村の事情と、セナの今の状況を掻い摘んで説明し終えると、あらためて協力をお願いする。

「どうだ? 頼めるか?」

 すると、その少女はオレに向かってスッと右手を差し出して、

「任せておいて。私はリシルよ」

 そう言ってニコリと微笑んだ。

「オレはテッドだ。すまないがよろしく頼む」

 同じく差し出した右手で握手をかわしたオレは、そのまま手を放そうとするのだが、何故か彼女がそれを許してくれない。

「えっと……? 新手のナンパか?」

 オレがそう言ってお道化てみせると、

「なななな!? 何言っているのよ!? 魔眼を使うのにセナって子のイメージが欲しいから接触が必要なのよ!!」

 白く透き通る肌の顔を真っ赤にさせたリシルは、魔眼で人を探すのにイメージが欲しいと言って、ぷんすかと頬を膨らませて怒り出す。

「先に言ってくれないとわからないだろ? このままセナの顔をイメージし続ければ良いのか?」

 オレはリシルの指示通りにセナの顔を思い浮かべる。

 その時間は十数秒だろうか? 静寂が支配する空間に遠くで囀る鳥の声。それを時折打ち破る村の喧騒。

「わかったわ! 大丈夫よ。生きてる。この村の南5キロほどの距離にいるわ!」

 その言葉にオレは思わず拳を握りしめる。
 サクナおばさんもほっと安堵の息を吐いて、

「良かったわ! テッド、あんた絶対セナを助けてあげるのよ」

 オレに祈るような視線を送ってくる。
 サクナおばさんを安心させるように大きく頷くと、

「無事なんだな!? リシル、感謝する!! それから礼は後で必ずするから待っててくれ!」

 魔眼によって無事を確認して居場所を探してくれたリシルに礼を言って駆け出そうとするのだが、何故だか手を離してくれない。

「あ……新手のナンパとかじゃないからね!?」

 そう言ってまた顔を真っ赤にするリシル。

「い、いや、何も言っていないんだが? でも急いでいるんだ。礼は必ず後でするから離してくれないか?」

 オレがそう言って視線を手に向けると、慌てて離してオレから視線を逸らす。

「これぐらいで礼なんていらないわ! 言葉だけで十分よ。それより……私も付いて行くから!」

 申し出は有難いが急いでいるこの状況で正直足手まといだ。
 そう思って断ろうと口を開きかけるのだが、それを遮るようにこう言うのだ。

「私がいないと正確な場所がわからないでしょ! それに……私はこう見えてもBランク冒険者よ。足手纏いにはならないわ!」
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