上 下
5 / 31

【第4話:かばでぃともってけ】

しおりを挟む
 お昼休みになり、教室の中が一気に騒がしくなった。

 さっそくとばかりにお弁当を広げている男子。
 友達同士で机を寄せ合い、皆で楽しそうに会話に花を咲かせる女子。
 購買や食堂に走る者などさまざまだ。

 ちなみに、貴宝院さんの能力のお陰なのか、徐々にだが、僕に対しての「よくわかんないけどムカつく」という理不尽な状況は脱しつつあるようだ。

 その事にちょっとホッとしつつ、僕は鞄からコンビニの袋を取り出した。

「なんだ? またコンビニのサンドイッチかよ?」

「良いだろ。コンビニのたまごサンド好きなんだよ」

 僕はだいたい毎日同じメニューだ。
 朝に立ち寄るコンビニで、毎日のように卵のサンドイッチと紙パックのコーヒー牛乳の組み合わせを買ってきている。

 するとそこへ、小岩井もお弁当を持って集まってきた。
 小岩井は、たまに他の女子に誘われていない事もあるけど、昼休みはだいたいいつもこの三人で食べている。

「兎丸、毎日同じ物食べて飽きない? 一人暮らしなんだから、ちゃんと自分で考えて野菜とかお肉も食べなさいよね」

 そう。僕は今、一人暮らしをしている。
 でも別に、両親が亡くなったわけでも、この街に一人で引っ越してきたわけでもない。

 小さい頃からこの何の変哲もない田舎町に住んでいるのだけど、中学の終わり頃に、両親が仕事の都合で海外に行ってしまったのだ。

 そのため、僕は「実家で一人暮らし」という、少し変わった状況になっていた。

「晩御飯はちゃんとスーパー寄って、お惣菜を買ってるから大丈夫だよ」

 料理は一度挑戦したが、卵焼きが謎の物体に進化したので断念した。

「そう言えば、とまっちゃんの家の近所にあるスーパー、えっと……何て言ったっけ?」

「ん? 『スーパーおいで』のこと?」

 今言った、お惣菜を買っているスーパーだ。
 個人経営のかなり小さなスーパーだが、お惣菜コーナーが充実していて安くて美味しいので、毎日のようにお世話になっている。

「あそこ今月いっぱいで閉店するらしいぞ」

 なん……だと……。
 今月いっぱいって、もうあまり日にちが無いじゃないか……。

 話を聞いてみると、経営していたお爺さんが腰を悪くしたらしく、急遽決まった事らしい。

「おぉ~い? とまっちゃん? とまっちゃんだけに止まっちゃった? ……くふ、くくくく……」

「本郷……それ、まったく面白くないからね……」

「ぼ、僕のライフラインが断たれた……。あと正、それ全然面白くない」

「うぐっ……俺の渾身のギャグが……」

 崩れ落ちる正は置いておいて、これからの食事の事を考えないといけない。
 ここは田舎町なので、スーパーもそんなに選択肢がない。
 学校帰りに寄れる所だと、あと一軒ぐらいしか思いつかなかった。

「ちょっと今日あたり、『スーパーもってけ』に偵察がてら寄ってみようかな」

「あぁ、もってけか……あそこの惣菜、種類は豊富だが、あんまり旨くねぇぞ?」

「えぇ……そうなのか。まぁでも、ちょっと味見に何種類かお惣菜買ってみるか」

「なんか、高校生のお昼休みにする会話じゃないわよね……」

 確かにその通りだけど、僕にとっては生活が懸かっているので仕方ない。
 平凡で平穏で平和な食生活を送るためだ。

 でも……昨日の貴宝院さんの力、凄かったな……変だけど。

 教室の中心で沢山の女子生徒に囲まれる貴宝院さんを横目で眺めると、すぐに視線を切り、僕はたまごサンドを口いっぱいに頬張った。

 ~

 その日の放課後、僕はいつもと違う道を通り、少し遠回りして「スーパーもってけ」に向けて歩いていた。
 正と小岩井の二人も暇なら来ないかと誘ったのだが、珍しく二人揃って用があるという事で、今は一人だ。

「確かこっちの路地を通ると近道だったよな?」

 あまり通り慣れていない道なので、スマホの地図を見ながら歩いているのだが、僕はかなり方向音痴なので、それでも迷いそうだ……。
 まぁ、二人をスーパーなどに誘った理由の半分は、本当は道案内して欲しかっただけなのだけどね。

 基本僕はボッチを愛する人だし。

 その後一〇分ほど歩くと、目当ての通りに出る事ができ、通りの先に「スーパーもってけ」の看板を見つけた。

「こ、ここか……なんかギラギラしててパチンコ屋みたいなスーパーだな……」

 今まで利用していた「スーパーおいで」と違い、店中が凄い数の電飾で照らされ、まるで昼間のようだ。

「ま、まぁ、とりあえず入ってみるか……」

 店は思ってた以上に広く、惣菜コーナーを探して店の中をぐるっと一周してしまったが、何とか無事に辿り着いた。

「店の中で危うく道に迷うところだった……」

 電飾増やす前に案内表示を増やして欲しいと心の中で愚痴りながら、並べられた惣菜を物色していく。

 まずは定番の揚げ物コーナー。

「おっ。普通に美味そうじゃ、ない、か……」

 なん、だ……この「はがねの唐揚げ」って……。
 目立つポップが飾られており、そこには「さぁ、あなたはこの衣を食い破れるか!?」って書いてるのだけど……。

 隣には「鋼のコロッケ」「鋼のエビ天」「鋼のミンチカツ」と続く。

「さ、先にサラダでも見てみようかな……」

 とりあえず鋼シリーズは危険すぎるので、先にサラダコーナーに向かう事にする。

「辛さの限界のその先へ『燃える赤のレタスミックス』……」

 ざっと見た感じ、「鋼の~」や「燃える赤の~」シリーズ以外も、全てのお惣菜に何らかの二つ名がつけられているようだ……。

 なんだ、お惣菜に二つ名って……。

「きょ、今日はもう、お、お弁当にしよう。そうしよう」

 お弁当のコーナーは隣のようだ。
 とな、り……この惣菜コーナーの隣だと……。

 悪い予感しかしない!?

「あれ? 思ったより普通だぞ?」

 お弁当コーナーにもあの・・ポップが掲げられていたが、「今日のあなたのラッキーカラーは金色!『黄金のキーマカレー』」と書かれている。

 ん? 見た目も普通にカレーに見えるぞ?

「黄金のキーマカレー、一つ八千円(消費税/金粉・・込み)だと……」

 よく見れば、普通のキーマカレーの上に「レンジで温める際は外してください」の文字と共に「金粉ふりかけ」なるものが付けられている……。

「ふりかけ、いらないから!?」

 このスーパーの惣菜や弁当コーナーは駄目だ。
 他はいたって普通の商品しか置いてないのに……。

 正のやつ「あんまり旨くねぇ」とか言ってたけど、「あんまり」とか言うレベルじゃないぞ!!
 しかし、あいつここの惣菜の味を知ってるって事は、食ったことあるのか……。

 結局僕は、お弁当やお惣菜などは諦め、カップラーメンと、何となく気を使っていますアピールで野菜ジュースを買い物かごに入れ、レジに向かった。
 だがこの店、値段だけはかなり安いし、お店で作ってるもの以外は普通の商品なので、結構人気があるようだ。

 だから、レジにはかなり長い列が出来ていた。

「はぁ……これから晩御飯どうするかなぁ……」

 長い列に少しげんなりし、思わず愚痴とともに溜息を吐いた、その時だった。

「なに落ち込んでるの? カバディカバディカバディ……」

 聞き覚えのある声……と言うか、聞き覚えのあるフレーズと共に、後ろから話しかけられたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...