微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸

文字の大きさ
上 下
53 / 54

【第53話:勝った?】

しおりを挟む
 爆発することもなく、ミスリルゴーレムはただ静かに崩れ落ちた。
 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 今はもうあの巨躯は存在せず、ミスリル特有の薄っすらと緑に反射する欠片が山となっていた。

「……か、勝ったのか?」

 もうダメだと死を覚悟した直後だったためだろうか。
 まったく実感がわいてこず、思わず口から呟きが洩れた。

「か、勝ったのよね?」

 フィアも似たような呟きをもらし、あとの二人はただ口を開けて言葉にならない様子だった。

「ど、どうやらそうみたいだな……」

 ミスリルゴーレム、それはAランクの魔物だ。
 それをオレたちだけで……。

 オックスの裏切りと謀略にかかって危ない目にもあったが、ミスリルゴーレムとの戦いそのものは純粋に冒険者としてのオレたちの実力で勝利をもぎとった。

 そう思うと何だか熱いものが込み上げてきて……。

「ぉぉぉ……おおぉぉ!! やった! 勝ったんだ! オレたちの力でダンジョンのボスを、Aランクの魔物ミスリルゴーレムを倒したんだ!!」

 思わず叫んでしまっていた。

 そうだ。オレは仲間と共にこういう戦いを、こういう冒険をしたかったんだ。

 幼馴染にそそのかされたのが全てじゃない。
 子供のころからいろいろな冒険譚などを聞いて純粋に憧れていたんだ!

 なんだか、その当時の想いがよみがえった気がした。

「勝ったんだ……私たち勝ったんだ! フォーレスト!!」

 オレの前で立ち尽くしていたフィアが声をあげて駆け寄ってきた。

「……フォーレストさん!!」

 そして次はロロアが目に少し涙をためながら、こちらはゆっくりと歩み寄る。

 気付けばオレはフィアに勢いよく前から抱きつかれ、後ろからはロロアに裾を握られ、背中によりかかられていた。

「やったね! あたしたちだけでミスリルゴーレムを倒しちゃったわよ!」

「す、凄いです! 未だに信じられないです!」

 ちょっと恥ずかしいが、これが本当の仲間、パーティメンバーの姿だよな……。
 一瞬、以前所属していたパーティーのことが頭に浮かぶが、オレは頭を軽く振ってイメージを追い出した。

 もう、いまさら振り返る必要もない。

「これで……ようやくこれで終わったんだな……」

 幼馴染の裏切りから始まった一連の騒動は、これでようやく幕を閉じた……のだが……。

「お、お兄ちゃん……」

 なぜか乾いた笑いを浮かべてオレを見つめるメリア。

「ん? メリア、どうしたんだ? 手紙が届けられなかったとかか? それなら……」

 それならミスリルゴーレムに勝ったんだから気にしなくても……と、言おうと思った所でそれ・・に気付いた。

 粉々に砕け散ったミスリルゴーレムの破片が薄っすらと光りを帯びていたのだ。

「な!? まさか、まだ死んでなかったのか!?」

「そ、そんな!? これで倒せないって……」

「い、いったいどうしたら……」

 フィアとロロアの悲痛な言葉が洩れたところで、メリアが慌てるように声をあげた。

「あぁ!! 待って! 大丈夫だから!」

「だ、大丈夫って、いったいなにが……」

 もうオレのバフの効果時間は切れてしまっているだろう。
 そうするとまた一からの戦いになる。

 いや、そもそもオレの補助魔法では倒せない可能性の方が高いだろう。

 このあとどう行動をとるのか必死に考えていると、メリアがミスリルゴーレムの光る破片を指さし、ぼそりと呟いた。

「あれ……わたし……」

 ん? ミスリルゴーレムあれが私ってどういう意味だ?

「あれ、動かしてるの私なの……」

「……え?」

 一瞬理解が追い付かないで惚けてしまったが、メリアが手に持つアーティファクトが輝いているのを見てようやく理解が追い付いた。

「なっ!? ミスリルゴーレムを従えたのか!?」

 そう言えば、オックスの口ぶりだと一定のダメージを与えたあとにアーティファクトを使用しようとしていたみたいだし、その狙いが正しいのであればオレたちは確実にダメージを与えており条件は満たしている。

「うん。お兄ちゃんがやられそうだったから咄嗟に使ってみたんだけど、お兄ちゃんの止めの魔法の方が先に決まっていたから、本来の強さはないとは思うけど……」

 どういうことなのか、メリアから詳しく話を聞いてみることにした。
 そして、だいたいのことがわかった。

「ってことは、オレが最後のバフを放った直後にそのアーティファクトを使ったってことか?」

 オレが殺されそうになった時に一か八かで身体能力向上フィジカルブーストを放ったのと同じように、一か八かでメリアもアーティファクトを使ってみたようだ。
 すると、ミスリルゴーレムがオレの魔法で崩れ落ちる瞬間にメリアのアーティファクトも従えるのに成功し、ミスリルゴーレムの一部・・を支配下においたようだ。

 そう。一部を。

「驚いたわね……でも、それで発光しているのが欠片の一部なのね」

 フィアの言う通り、ちゃんと確認してみると、崩れ落ちたミスリルゴーレムの欠片全てが光っているのではなく、発光しているのは全体の三分の一ほどだ。

「でも……メリアちゃん。ゴーレムは壊れてしまっているのでは?」

 ロロアの言う通り、その発光している部分もバラバラの状態なのだ。
 せっかく従えることに成功したのだが、これでは意味がないように思えた。

「うん。でも、もともと魔法生物って呼ばれている魔物だから、たぶん大丈夫じゃないかなぁ?」

 すると、メリアがアーティファクトに一瞬魔力を込めると、光っている欠片が宙に浮かび、ひとところに集まっていった。

 そうして集まった欠片が強く発光した次の瞬間には……ゴーレムが復元されていた。

「ご、ゴーレムが⁉ ……で、でも、ちょっと小さいな……」

 そう。メリアが言ったように元になった欠片が三分の一ほどなので、復元されたミスリルゴーレムの大きさもオレたちが戦った奴の三分の一ほどなのだ。

「小さいって言っても、十分な大きさがあるし、ミスリルゴーレムよ? メリア凄いわ!」

 確かにそうか。元が大きかったので、三分の一になってもオレよりもまだ少し大きいし、これでも相当な強さだろう。

「メリアちゃん、ミスリルゴーレムこの子はもう暴れたりしない?」

 ロロアがまた襲ってこないかと少し怯えた声で尋ねると、それに対してはメリアは力強く頷いてみせた。

「うん! そこは心配しないで! アーティファクトを通じて私の召喚獣として完全に制御できているから!」

 その後、メリアが実際にいろいろと指示を出し、ミスリルゴーレムが素直に従っていることを確認したオレたちは、今度こそ本当に戦いが終わったのだとほっと息をついたのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...