微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸

文字の大きさ
上 下
52 / 54

【第52話:勝利の行方】

しおりを挟む
 ゴーレムの拳が振り下ろされ、砕かれた地面が轟音と共に爆散する。
 それを距離を取ってなんとか躱し、次のミスリルゴーレムの攻撃に備えて身構える。

 基本的にミスリルゴーレムの攻撃は至ってシンプルだ。
 それは拳による攻撃。

 しかし、その質量と力が生み出す威力は凄まじかった。

「くっ!? いよいよシャレにならない力になっきたな!」

「ちょっと~! これ掠っただけでおしまいよ! 気を付けなさい!」

 さすがに前衛としてはフィアの方が一枚上手だ。
 オレがギリギリで躱しているミスリルゴーレムの攻撃をまだ少し余裕を持って躱していた。

「わ、わかっている!」

 もう既にミスリルゴーレムには10を超える身体能力向上フィジカルブーストがかかっており、力だけでなく、そのスピードもかなり上がっている。

 ただ、ゴーレムの動作が魔力によるところが大きいのか、実際の倍率ほどにはスピードが上がっていないのが救いだろうか。

 と言っても、掠れば死か致命傷が待っている。
 一時たりとも油断できない状況だった。

身体能力向上フィジカルブースト1.5倍! 身体能力向上フィジカルブースト1.5倍! 身体能力向上フィジカルブースト1.5倍!」

 なんとか隙をついて三連続のバフをかけることに成功するが、また目に見えてゴーレムのスピードが上がった気がする。

 ミスリルゴーレムは普通の魔物以上に謎の多い魔物のため、本当にこれでダメージが入るのか不安になってくる。

「くっ……いい加減壊れろ!!」

「きゃ⁉ あ、あぶなかったわ……」

 そしてオレ以上に、至近距離で戦っているフィアが辛そうだ。
 今もスピードがあがったためにミスリルゴーレムの攻撃をよける余裕が消え、破壊されつくした地面に足をとられそうになっていた。

 しかし、そこですかさず回復魔法が飛んできていた。

「お姉ちゃん! 軽治癒ライトヒール!」

「ロロア、ありがと!!」

 軽治癒ライトヒールには若干の疲労回復の効果もあるので、こうやってかけて貰うことでなんとか体力を保っている。

 ただ、もう戦い始めて一〇分は経過しており、一向に終わりの見えない状況に焦りが出始めていた。

「お兄ちゃん! 向こう側に魔物がいないのは確認したわ! 移動して大丈夫よ!」

「わかった! ここももう地面がボロボロだ。フィア! 向こうにゴーレムをひっぱっていこう!」

 あまりにもミスリルゴーレムの攻撃に威力があるため、一撃ごとに地面が破壊され、暫くすると周辺の足場がなくなってしまう。

 そのため、メリアには索敵してもらっていた。
 ダンジョンを徘徊している魔物がいない方向を確認してもらい、一定時間ごとに戦いの場を移動するためだ。

「そうね! 足場がこれじゃ、避けれる攻撃も避けれなくなっちゃうわ! じゃぁ、次の攻撃を避けたら移動しましょ!」

「わかった!」

 こうしてミスリルゴーレムとの戦いは、激しさを増していった。

 ◆

 さらに一〇分ほどの時間が経とうとしていた。
 そして、ここに来て恐れていたことが現実味を帯びてきてしまった。

「不味いな……」

 思わず口からこぼれた小さな呟きだったが、こういう時に限ってフィアに拾われてしまう。

「ちょ、ちょっと! 不味いってなにが不味いのよ!」

 今の所、何度か危険な場面はあったものの、順調に戦闘は続けられている。

 しかし、ここまでミスリルゴーレムが頑丈なのは予想を遥かに超えていた。
 ミスリルゴーレムが強化されたことで、バフをかけるのが難しくなってきたことが大きい。

 このペースだと不味いかもしれない。

 今さら隠しても仕方ない。
 オレはその理由をそのまま皆に聞こえるように大声で叫んだ。

「オレが限界まで魔力を込めて放つバフの効果時間は……三〇分なんだ!」

「え!? ちょ、ちょっと! あとどれぐらい残ってるの!?」

「そ、そんな……」

 フィアとロロアの二人が焦るのも当然だ。
 三〇分を過ぎてしまえば、今までの戦いよりもずっと早いペースでかけ続けなければ永遠に勝てなくなってしまう。

 そして、オレたちの残りの体力や魔力を考えれば、それはほぼ不可能だろう。

「すまない。さすがに正確な時間まではわからない」

 魔道具の時計はそれほど高くないので持っているが、ここまで戦いが長期戦になるとは思っておらず、正確な時間は計測していなかった。

 まぁ、そもそも時間を確認するような余裕もないのだが……。

「残りの時間はあと七分だよ! 身体能力向上の重ね掛け回数は17回! だいたい1000倍ぐらいだよ!」

 自分の妹ながら優秀過ぎて恐ろしいな……。
 正確な残り時間がわかるだけでも助かった。

 しかし、1000倍など未知の領域だ。
 これほどのバフの負荷がかかっていても耐えられるものなのか……。

 本当に倒せるのかと不安が脳裏をよぎる。

 もし三〇分を超えてしまうようなら、撤退戦なども考えなければならない。
 そうなると更に厳しい戦いになるだろう。

 そう思った矢先だった。

「きゃぁ⁉」

 ミスリルゴーレムが破壊した岩の欠片が後方で索敵をしていたメリアに直撃してしまう。

「メリア⁉ 大丈夫か!?」

 妹の額から垂れる赤い雫に動揺したのが不味かった。

「フォーレスト!」

「フォーレストさん!」

 今度はオレに向かってミスリルゴーレムの拳が迫っていることに気付くのが遅れてしまった。

 フィアとロロアの悲鳴のような叫び声を浴びながら、オレは死を覚悟した。

 避けられない!?

 そう思ったオレは咄嗟に盾を身構え……無意識のうちに補助魔法を唱えていた。

身体能力向上フィジカルブースト1.5倍! 身体能力向上フィジカルブースト1.5倍!」

「お兄ちゃん逃げて!!」

 無理だ。ゴーレムの身体が大きいから、そこまで早くないように感じるが、単純な速度はオレを上回っている。

「……身体能力向上フィジカルブースト1.5倍!」

 無駄だとわかっていつつも盾を掲げ……凄まじい衝撃を受け流そうとし、次の瞬間には数メートル後ろに吹き飛ばされていた。

「か……はっ……」

 左腕に激痛が走り、一瞬の浮遊感のあと、地面にぶつかり全身を強く打つ。

 胸の空気が全部押し出されたような苦しみで息が出来ない……。

「フォーレスト!?」

「お兄ちゃん⁉」

 遠くでフィアとメリアの悲鳴のような声が聞こえる。
 だが激痛に耳鳴りが加わり、上手く聞き取れなかった。

 ただ……次の瞬間にはオレの体は優しい光に包まれていた。

特級治癒エクストラヒール!」

 痛みが急速にひいていくが、みんながオレに注力してしまうと戦いの均衡がくずれてしまう。

 だけど、そんな心配は不要だった。

「よくもフォーレストを!! 私が相手よ!!」

 フィアがすかさずオレとミスリルゴーレムの間に入り、槍を構えるのがまだ霞む目で確認できた。

「あれ? お兄ちゃん……もしかして……」

 しかし、そんな追い詰められた状況の中でメリアの静かな声が響く。

「な、なんだ?」

 その異変はオレもすぐに気付いた。
 ミスリルゴーレムが動きを止めていたのだ。

「はっ!? フィア!! 離れろ!!」

 オレの言葉に反射で飛び退き距離をとるフィアの目の前で、ミスリルゴーレムに無数の罅が入り……そのまま細かい欠片となって崩れ落ちたのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

ハズレ召喚として追放されたボクは、拡大縮小カメラアプリで異世界無双

さこゼロ
ファンタジー
突然、異世界に転生召喚された4人の少年少女たち。儀式を行った者たちに言われるがまま、手に持っていたスマホのアプリを起動させる。 ある者は聖騎士の剣と盾、 ある者は聖女のローブ、 それぞれのスマホからアイテムが出現する。 そんな中、ひとりの少年のスマホには、画面にカメラアプリが起動しただけ。 ハズレ者として追放されたこの少年は、これからどうなるのでしょうか… if分岐の続編として、 「帰還した勇者を護るため、今度は私が転移します!」を公開しています(^^)

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...