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【第24話:楽しい夜】

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 目の前には、ロックオーガの巨体が横たわっていた。
 既にピクリとも動かない。

 だが、今にも起き上がってきそうな気がして近づけないでいると、フィアが戸惑うオレを追い越してロックオーガに近づき……おもむろに槍を胸に突き立てた。

「えっ!?」

 あっさりと胸に突き刺さった槍を見て、思わず声をあげてしまった。
 バフによって身体能力が上がったフィアが、勢いを乗せて放った渾身の突きでも小さな傷をつけるのがやっとだったのに……。

「大丈夫。もう死んでいるわ。ロックオーガの皮膚は魔力によって硬化しているから、死ぬと普通の頑丈な皮膚になるの」

「そ、そうなのか。という事は……本当に勝てたんだな……」

 口にすると、ようやく少しずつ実感がわいてきた。
 村を出る時に思い描いていた高ランク冒険者とはかなり違うが、それでも、Bランクの魔物を倒したのは事実だ。

 追い込まれたあの時、可能性にしがみついて諦めなくて本当に良かった。
 そして……三人そろって無事で、本当に良かった。

「フォーレストさん!」

 ロックオーガに勝てたことに少し浸っていると、ロロアがオレの背に抱きついてきた。

「え? え? ど、どうしたんだ?」

「私のせいで……こんな危険な勝負をさせてしまって、すみません!!」

「い、いや。オレたち仲間なんだから、当たり前のことだ」

「当たり前なんかじゃ無いわよ。フォーレスト。いざとなったら自分の命を優先するパーティーなんていくらでもいるんだから」

「フォーレストさんとパーティーを組めて良かったです。でも私、もっと強くなります! 今までは回復魔法使いだからって事に甘えていました。だからこれからは、せめて自分の身は自分で守れるように、そして、逃げる時にも足手纏いにならないように頑張ります!」

 ロロアも色々と思う所があったのかもしれない。
 本当はそんな事頑張らなくてもオレが守ってやるとか言いたい所だったが、なんだかロロアのその決意を否定しちゃダメな気がした。

「わかった。オレも頑張るから。でも、無理だけはするなよ?」

「う、うん!」

「あ、なによ~。なんか私だけ仲間外れみたいじゃない?」

「そんな事ないぞ? オレが囮になろうとした時、即座に否定して戦おうって言ってくれたのはフィアなんだ。感謝しているし、これからも頼りにしているぞ?」

 オレがそう言うと、目を逸らし、恥ずかしそうにしながらも「ま、任せなさい!」と答えてくれた。

 こうしてゴブリンの集落殲滅依頼は、ロックオーガに襲われるという最悪の事態にあいながらも、一人の犠牲者を出すことなく切り抜ける事が出来たのだった。

 ◆

 結局、ゴブリンやロックオーガの死体の処理などに時間がかかり、街に帰り着いたのは、門が閉まるギリギリの時間だった。

 そこからそのまま冒険者ギルドに向かい、依頼の達成報告とロックオーガが現れたことの報告をすませ、今はギルド併設の酒場で初依頼達成の打ち上げを開こうとしていた。

「それじゃぁ、初依頼を無事に終えられたことを祝って、乾杯!」

「「かんぱーい!」」

 みんな酒は苦手なので全員が果実水というのがちょっと締まらないが、依頼後にこうやって気持ちよく打ち上げをするというのは初めての経験で嬉しかった。

 今まではさっさと一人で食事を済ませ、次の依頼に向けての準備を始めていたからな……。

「それにしてもロックオーガが現れるとはな」

「そうね……。フォーレスト、倒してくれて本当にありがとう」

「私からもお礼を言わせて下さい! フォーレストさん、本当にありがとうございます!」

 フィアとロロアがそう言って改めて礼を言ってきたが、成り行きだったし、倒せたのも本当に運が良かったと思うので、何度もお礼を言われるとちょっと困る。

「急にそんな改まられても困る。オレは生き残るために必死だっただけだし、そもそもまさかそんな因縁のある奴だとは思いもしなかった」

 確かに今回の依頼は、場所的にはフィアたちが元々いた街『サグウェイ』の方面なのだが、だけど森だけでもかなりの広さなのに、その中で偶然出会うなんて、どれだけの確率なのだろうか。

「ほんと、何か運命みたいなものを感じるわよね~。しかも、普通に考えて倒せないような魔物なのに、それをフォーレストは倒しちゃうんだから、さすがシルバーランク!」

「なんだ? フィア、果実水で酔ってるのか?」

「酔ってないわよ!? ほんとに凄いって思ったのに!」

「ははは。冗談だよ。でも、やっぱりバフで倒すのは本当に最後の手段だな」

 あの時、ロックオーガがバフで強化された力を制御できるようになるのがもう少し早ければ、オレはあっけなく殺されていただろう。

 バフによって内部から破壊するため、どれだけ硬い表皮を持っていても関係なく倒す事が出来るのは凄いと思うが、限界に達するまで、バフを掛ければかけるほど戦いはどんどん厳しくなる。まさに諸刃の剣だ。

 他に倒す手段があるのなら、出来るだけ正攻法で倒したいところだ。

「たしかにそうね……。フォーレストがいくつかバフをかけた後に、ロックオーガが突っ込んできた時あったじゃない? あれ、見てただけなのに、生きた心地がしなかったわ」

「私は目で追うことすら出来ませんでした……」

「オレもあの時は死ぬかと思ったよ……。バフをもっと素早く連続でかけられるようになるか、倍率をもっとあげられるようになるかしないと、気軽にはちょっと使えないな」

 ただ、フィアとの模擬戦でやったように、バフとデバフを交互に掛けるなどして動きを妨害するのは有効だとは思う。
 今回は根本的にこちらの攻撃が通用しない相手だったので、妨害した所で仕方ないといった感じだったが……。

「まぁこれからの課題は私もロロアも色々あるだろうけど、今は……まずは初依頼を無事に終えた事を祝いましょ!」

「そうだね♪ 今日はこのパーティーで初めての依頼だったもんね!」

 きっとこれがオレの憧れた冒険者の姿であり、パーティーの在り方なんだろうな。
 そう思うと、オレも自然と笑顔になっていた。

 この日、遅くまで三人で語らい、本当に心の底から楽しい夜を過ごしたのだった。
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